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2章 新生活スタート

31 手料理は正義

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ユージンが昼練習に行っているため、俺は校舎から7分ほど歩いた先にあるザックの住居にお邪魔していた。

ザックの後について小屋に入ると、あの時助けたラビッツが出迎える様に駆けてきた。

異常にでかい後ろ足さえ見なければ、ただの大きめのウサギだ。

駆け寄られたら、その可愛さにキュンキュンしてしまう。



「元気そうでよかった。」


「あの時は助かった。
昔から治癒魔法が使える人間が居たからな。
魔法を介さない応急処置が出来ねぇんだよ。」


「大したことはしていない。この子自身の力で回復した訳だからね。」


ザックの足元でシャリシャリと葉っぱを貪っている姿も可愛らしい。


「そうか…。ほら、さっさと食うぞ。
一応午後の授業もあるからな。」


「ありがとう。」



ザックに促され着いたテーブルには、彩どり豊かなランチプレートが置かれていた。

嘘だろ…めちゃくちゃ美味しそう…



「本当に食べてもいいのか…?」


「早く食えよ!」



ザックは照れ隠しなのか、オムレツの様なものを口に掻っ込んでいる。
家主も食べてるし、心置きなく頂くとしますか。

ザックに倣い、オムレツから手をつける。
口に入れた瞬間、ほんのり温かくて、ふんわりとした食感の卵が口を占拠した。

下味もしっかりとついており、バターの様な優しいミルクの香りが鼻を擽る。



「…美味い…」



美味い…美味すぎる…。
どこぞのCMのような褒め方しか出来ないが、男の手料理のレベルでは無い。

そこからは、思わず無言になるほど夢中で食べていた。

プレートが空になる頃、ふと視線を感じ顔を上げると、

ザックとラビッツが2対の目でこちらをジッと見つめていたのだ。



「…ハッ、口の端にソースついてるぞ。」



ザックに鼻で笑われ、口の横を指される。
うわ、ガキかよ…恥ずかし!!


「美味しかったから、つい我を忘れたんだよ。」



不貞腐れて言うと、ザックは満更でもなさそうな笑みを浮かべた。



「…いつでも食いに来ていいんだぞ。」


「え、それは悪いから。また一緒に…」



そう言いかけて、ふと記憶を辿る。
そういえば体力測定の日以降、挨拶ぐらいしか言葉を交わしていなかったな。

本当は是非ともこの美味しい手料理にありつける日を増やしていきたいのだが、今のところ昼食はユージンと取る流れになっている。

ユージンをここに連れてくるのも忍びないし、夕食はマーナと食べるし…



「ザック、お誘いは嬉しいんだが、」


「ユージン、か?」


「…ああ。昼食は基本的にユージンととっていてな。ユージンをここに連れてくるわけにもいかないから。」


「なら仕方ないな。」



ウッ!垂れ下がった耳と尻尾が見えるような気がする…!!

どうしよう。こんな美味しい料理と気紛れな野良猫のデレを目の前に釣られたら、抗うことができない…!


「負担になるなら断って欲しいんだが、休校日のどちらかで一緒にご飯を食べないか?
俺も何か作ってくるから。」


「い、いいのか!」


「むしろこんなに美味しいもの食べさせて貰えるんだ。お金払いたいくらいだよ。」


俺自身は一文無しなので出来ないけどな。


ザックは先ほどとは打って変わり、花を漂わせているかのように上機嫌になった。

物凄く分かりやすい。

俺と食事を取ることにそんなに喜びを感じてくれるのか。
いつも一人で寂しかったんだろうなきっと…


つるんでる赤黒コンビがいるユージンに、俺のランチに付き合ってもらって悪いな、と思っていた所だった。

俺は"魔法が使えない、掛からない"この体質がバレたらまずい事になるので、交友関係自体はあまり広める気がないのだ。

あの2人は他属性の生徒だ。
下手に交友関係を持ってしまったら、あっという間に友人が増えるだろう。

今後の昼食はザックと取ることも考えておこう。



あ、でも待てよ。
そうなると、部活動もやめておいた方が良いのかもしれない…



「どうした?もう食い終わってるなら、フォーク置けばいいだろ。」



ハッ!ザックに言われるまでフォークを握りしめ続けていたことに気が付かなかった。

ザックの言う通り、とっくにプレートはすっからかんだ。



「悩み事か?」


「ああ、ザックは部活動入ってるか?」


「お…れは、魔獣部だ。」



そう言うと、ザックは下を向いてしまった。
何を恥ずかしがっているのだろうか。



「意外だな。運動系じゃないのか。」


「なんだよ。悪りぃかよ。」


「いや、運動がかなり出来るようだったから…引っ張りだこなんじゃないかと思っていたんだ。」


「全て断った。俺は運動よりも魔獣の世話が好きなんだ。」


ザックはチラリとラビッツに視線をやる。
…ああ、そういうことか。
"可愛い物好き"ってワケか。


「…魔獣部は魔獣の世話をしているのか?」


「基本的には人型を取れないような魔獣の管理だな。ここの森には魔獣が多い。」


「大切な役回りだな。部員数はどれくらいなんだ?」


「俺を含めて6人だ。基本的に、魔獣の世話なんかやりたがる殊勝な奴は少ないからな。」


前に話したカースト的な奴のせいか。
ラビッツも、後ろ足を除けばこんなに可愛いのになあ…

撫でてやると、鼻をヒクヒクと動かしてこちらをジッと見てくる。


「そうか、6人で魔獣の世話か…ならいいかもな」


「?…何の話だ。」


「ザック、俺も魔獣部に入ろうと思う。」


「は?本気で言ってるのか?」


「あ、やめた方がいいか?友達がいた方が部に馴染みやすいかと思ったんだが…」


嫌がられているのかと心配になり、控えめに心細いアピールしてみると


「とととととととと友達?!」


ザックは全く別のことで頭が一杯だったようだ。
持っていたマグカップを落としそうになっていた。


「え!違ったか?!」


俺の勘違い?!凄く恥ずかしいんだけど!!
手料理とか振る舞ってくれるから、てっきり友達認定受けたのかと思い込んでいた。

これはとんだ勘違いだ!


「あ、いや、ちげぇ…驚いただけだ。
勿論歓迎するぜ。と、友達、だからな。」


フン!と鼻を鳴らしているが、嬉しそうなのが丸わかりだ。

嫌がられていなくてよかった…


「明日とかもし良ければまた話を聞かせてくれ。
模擬試験が終わったら入部しようかと考えてるんだ。」


「そうか!じゃあそれまでに一度体験に来い。部長にも話しておく。」


「ありがとう。…じゃあ、教室に戻るか。」


「おう。」



6人の部員で、周りからは疎遠にされている部活ってだけで、俺が求めていた"交友関係が狭そう"という条件に当てはまる。

更に魔獣の世話なら、魔法が介在しなさそうな事もポイントか高い。

もっと言うと、ザックが同じ部活なのだ。
ご飯を食べる機会も増えるはず…いや、決して手料理を食べたいなどとは思ってないぞ。


俺とザックはお互い違う理由ではあるが、上機嫌に教室に戻っていった。
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