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2章 新生活スタート
24 拠り所(side ザック)
しおりを挟む尾行種目の最中のことだった。
目の前のラビッツが草を一心不乱に食べている。
(可愛い…)
本当なら餌付けでもしたいところだが、今は授業中だ。
姿勢を低く保ち、もう少し近寄ろうと右手を出した。
フワッ
暖かな毛が手に触れる感覚がする。
何に触ったのかと驚きつつ視線をやると、脚を怪我したラビッツが身体を横たえていた。
毛の状態を見るに、火で燃やされたのだろう。
この森で火を噴く魔獣はいない。
ここの生徒の仕業だろう。
(許せねぇ…)
思わずラビッツを抱えて立ち上がってしまった。
尾行対象のラビッツは逃げてしまったが、そんなことはどうでも良い。
手の中の温もりは微かに震えている。
自分よりも弱い相手に対して力を行使する魔族の野郎なんて信じられなかった。
俺がこの命を救わないと…
そんな時、俺はアイツに声を掛けられた。
*****
感情の欠片もないような目で、ラビッツを見る目の前の男、今日から来た転入生だ。
見かけたことのない色を持っているから少し興味があった。
だが、この目…コイツも弱い魔獣を蔑ろにするのか。
思わずカッとなり、牙を剥き出して吠えてしまう。
「なんだよ、下等魔獣だから良い気味だとでも言いてぇのか。」
だが、返ってきた返答は意外なものだった。
「下等な魔獣なんているのか?誰が決めてるんだそれ。」
事も無げにそう言ったアイツは、テキパキとラビッツの治療を始めた。
俺はというと、先程の言葉が頭を占めて離れなくなっていた。
(魔獣に下等も上等も、無い…そう言ったのか。)
不意に胸が熱くなった。
涙まで溢れそうになった。
(俺を肯定してくれるのか…)
コイツは知りもしないだろうが、
俺はそこらの魔族から下等と呼ばれる魔獣のハーフだ。
魔獣と魔族のハーフと言うだけで差別の対象となる上に、元の魔獣が下等魔獣ともなると目も当てられない。
だからこそ、この学院では、ハーフである事を隠し通していた。
魔獣の人型の特徴である耳も尾もハーフには無い。
それが唯一の救いだった。
この学院でも、魔族が弱い魔獣に対して差別的行為をしている場面を幾度も見てきた。
ー コイツだけは、違うのか。
なぜ助けるのかと訊ねても、はぐらかされるだけ。
だが、そこには確かな思いやりがあった。
アイツがラビッツを優しく撫でる。
その様子を見ていると、虐げられてきた幼少期の俺も、今の中途半端な俺も、まとめて救い上げられた感覚になる。
そのラビッツだけじゃなくて、俺の事も…
(期待するのは身勝手だ。だが…)
コイツの傍に居たいと、そう思ってしまった。
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