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2章 新生活スタート
23 ザック
しおりを挟むザックの背後に回ると、微かな声が聞こえた。
『可哀想…』
…可哀想?
ザックの手元をよく見ると何かを持っているようだ。
あれ…?
「そいつ、怪我してるのか?」
「っ?!」
ザックがバッとこちらを振り返る。
手にはデカい脚を怪我したラビッツが乗せられていた。
ザックは俺がいることに気が付いていなかったのか、大層慌てていた。
ラビッツを後ろ手に持ち直し、こちらを睨み付ける。
「なんだテメェ!何時から居やがった!」
ビッッッックリした!急に怒鳴るなよ!!心臓が飛び出るわ!!
「可哀想…のとこあたりから。」
「!!!!」
「そいつ、脚怪我してるな。」
「なんだよ、下等魔獣だから良い気味だとでも言いてぇのか。」
ザックは何が憎いのか、目に火を滾らせている。
睨み殺されそうなんですけど…
「(そもそも)下等な魔獣なんているのか?誰が決めてるんだそれ。」
「…は?」
「(え、下等とか上等とか階級制度でもあるのかって意味合いなんだけど…もしかしてこれも常識?)」
先程の勢いはどこに行ったのか、打って変わって静かになってしまった。
交わした視線の先、ザックの赤の瞳からは憎悪が消え、動揺の色が見て取れた。
何故か縋るような視線すら感じる。
ー やっぱりおかしな質問をしてしまったみたいだな…
どう訂正するか悩んでいると、
ザックは視線をこちらに向けるのをやめ、手の中のラビッツを見て悲しげな顔をした。
「…こいつ、怪我してるんだ。
でも、俺は治癒魔法を使えない。」
「ああ、そうだな。…待ってろ」
あ、あそこに丁度湧水があるな。
俺は手頃な枝を拾い、実技服の袖口を破いた。
「おい、何して…っ!」
「何って、応急処置?」
ラビッツの怪我した脚を湧水で浸した布で拭う。
新しく乾いた布を巻き付け、枝で脚を固定した。
「よし、これでいいかな。面倒みるのか?」
「…なんで助けたんだ。」
「は?」
今度はこちらが驚く番だった。
え、治療したかったんじゃないのか?
余計なお節介だった?
「こいつは弱い。助けてもいずれ死ぬ…なんで助けたんだ。」
ザックはどこか悲痛な表情で、
俺を見据えていた。
え、これどういう展開?
ファンタジーRPGさながらの重い質問に戸惑ってしまった。
「それはホラ…『可哀想』だからだな。」
「…馬鹿にしてんのかよ。」
そう言うと、ザックは力なく笑いながらも反撃してきた。
さっきからどうしたんだコイツ…
「とにかく、先生のところに戻ろう。ラビッツを保護しなきゃな。」
先生にお願いしようと元来た道を引き返そうとしたら、腕を掴まれ止められた。
「待て。人型も取れない魔獣なんだ。保護してもらえるはずもない。
…向こうに小さい小屋があるから、そこに寄る。」
そういうもんなのか。
ザックは何処か宛があるようで、早足で歩き出した。
「あ、おい!授業は?!」
「そんなもん後で良いだろ。」
良くねえよ!!
*****
「ここ…人が住んでるのか?」
ザックに連れられて辿り着いた小屋は、
広くはないがキッチンやベッドがあった。
「…俺が住んでる」
「へぇザック君が…って、ええ?!」
「学生寮は好きじゃないからな。」
「そんな理由で退去出来るもんなのか…」
「…毎日喧嘩ふっかけられんだよ。ろくに休めやしねぇ。」
成程、それは退去が懸命だな。勿論双方にとって。
ザックはラビッツをベッドに寝かせ、
キッチンへと移動すると、冷蔵庫から野菜と水を取り出した。
慣れた手つきで野菜を細切れにすると、皿に盛り付け寝息を立てているラビッツの横に置いた。
「普段から料理するのか?慣れていそうな手つきだったな。」
「…飯も基本的にこの小屋で食べてるからな。」
「自炊?!」
「悪りぃかよ!」
顔を真っ赤にしながら歯を剥き出し威嚇してくるザックは、ちょっと可愛い。
なんだ、とっつき易いじゃん。
噂はあてにならないな。
「いや、純粋にすごいなと思ったんだ。俺が作ると味気なかったりして、すぐ学食に行きたくなってしまう。」
素直に伝えると、さらにボッと顔を赤くした。
え?もしかして照れ屋さんなのかな。
「そ、そうかよ」
プイと顔を逸らすと、扉に向かって歩き出す。
あ、そういえば授業中だったな。
先生に怒られるかもなあ…
「あのラビッツの様子、たまに見にこい…」
「え?」
「っお前も乗り掛かった船だ。世話しにこいって言ってんだよ!」
耳まで真っ赤にしながら言われたらねえ…
遊びにおいでって言われてると勘違いしちゃうな。
「勿論。」
ザックは満足したのか、俺を引き連れ、足早に校庭へと向かった。
*****
校庭に到着すると、既に二人は戻っていた。俺たちを抜いて、自主練習をしているようだ。
「カンザキくん!魔獣に襲われたのではと心配しましたよ。」
「すみませんハイル先生。道中転倒して木に服を引っ掛けてしまいまして…ザック君に助けて貰ったんです。」
俺がスラスラと嘘を並べ立てると、ザックは驚きの表情でこちらを見る。
ザックの家にお邪魔してたなんて言ったら、確実に2人揃って減点対象だ。
俺は元の世界で恥ずかしいという感情を絶えず捨ててきた。
今更何があっても動揺しない…多少は。
「そういうことで、ザック君は許してあげて下さい。」
「いや、良いんです。
それよりもカンザキくん、念の為保健室に行って下さいね。
怪我していたら…分かるでしょう?」
魔法が効かない俺だから、恐らくザックの言ってた治癒魔法とやらも効かない。
怪我をしてもこの世界の人たちのように一瞬で治せるわけではないのだ。
先生が慎重になるのも頷ける。
「分かりました。では、失礼します。」
「あ、保健室の場所はわかりますか?
丁度良い。そちらの扉を入ってすぐです。」
俺は先生の指さした扉に入り、保健室を目指した。
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