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2章 新生活スタート

22 地獄の体力測定

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一人だけ魔法の使えない俺は、コソコソとトイレで着替え、教室で待ってくれていたユージンと合流した。



「すまんユージン。待たせた。」


「あれ?トイレで着替えたのか?」


「諸事情あってな。」


「…そっか。不便な事あったら言ってくれよ。」


ー 神様なのかもしれない。


ユージン、お前はどこまで良い奴なんだ。諸事情、と言うだけで何かを察してくれたようだ。
ニコリと微笑んだ姿に後光が差している。

現金だと思われるかもしれないが、本当に友達になって良かった。



「校庭は本館の一階にあるんだ。」


「ん?そんなスペース見た事ないぞ?」


「そうそう、裏手にあるからな。
実技科目が無い限りは、生徒も立ち入らないんだ。」



なるほどな。
表から入った事はあるが、裏手は行ったことがない。

さっさと行ってしまった二人を追いかけるように、校庭への道を進む。

聞くところによると、

1年の教室は2階、2年は3階、3年は4階

1階は職員室と校庭
5階には音楽室や応接室、資料室
6階が部屋のある最上階で、校長室がある。
ちなみに、屋上にはグリフが巣を作っているらしい。



広い広いとは思っていたが、6階建とは。ようやく学院の全貌が分かってきたな。

(にしても…)

周りを見渡すと、教室移動をする集団が目に入る。
列を成すのは男、男、男…ここは男の園か何かなのか?


「ずっと思ってたんだが、この学院男しかいないのか?」


「え?魔力は男にしか発現しないだろ。」


(っっっやっちまったー!!!!)


とんでもなく恥ずかしい。
この世界の当然の常識だろう事を質問をしてしまった。



「そ、そうだよな。当たり前なこと聞いてすまない…ハハ…」



今完全に目が泳いでる自信ある。
ユージンのめちゃくちゃ不思議そうな顔に追い討ちをかけられる。



「カンザキ…」


「あ!あれが校庭だよな!!」



ユージンの言葉を遮るようにして、
大きな声を出した。

すまんユージン。

重い話をするのが苦手だし、
そもそも作り話の設定を真顔で話し切れるか些か不安だ。
にやけてしまうこと請け合いだ。

だから話せない。

ユージンの手を引き、早足で歩き出した俺にはユージンがどんな表情をしていたかなんて知る由もなかった。


*****


「では体力測定を始めます。
測定種目は、突撃・牽制・尾行です。」


「は?」


なんだって?
思わず声が出てしまった。

聞き間違いかな…



「カンザキくんもいるので各種目の説明をしていきます。
まず、突撃の種目では1000mの距離を素振りしながら走ります。」



オーマイ…
元いた世界の体力測定とは訳が違うな。
馴染みがあるな、なんて思っていた俺が馬鹿だった。


(剣の素振りしながら走るとかどうやんの…)


一人途方に暮れる俺に、先生は更に爆弾を落としていく。



「次に牽制ですが、石や槍を投擲します。
最後に尾行。森の中に移動し、足音、気配を消し、魔獣を尾行してもらいます。」



槍の投擲?!魔獣を尾行?!
どれも人生で経験するはずの無かった競技だ。

戦闘訓練のようなメニューに気が遠くなった。

今までデスクワーク中心だった人間を舐めて貰っちゃ困る。
運動はからっきしだ。



「では最初に突撃の種目から始めます。4人一斉のスタートなので、皆さん位置についてください。」



傘立てのようなものに掛けられている細身の剣を手に取り、各自レーンについた。

俺は一番端のレーンだ。
良かった。比較的目立たなそうだな。


「始め!」


先生の声で瞬間的に反応した俺は、
良いスタートを切れた。

と、思っていたのだが…


(剣が予想以上に重い…!)


素振り以前に、目の前を1往復させるのが精一杯だ。
更には重みで足元がふらつき、速度が出ない。

そんな俺を隣の影が瞬時に追い越す。


(ガラ悪めちゃくちゃ速い…!)


凡そ人間とは思えない動きで、
あっという間に見えなくなった。

ユル男とユージンも、ガラ悪程ではないが物凄いスピードで移動している。

唖然としていると、隣から凛とした声をかけられた。



「カンザキくん、辛かったら無理しないで良いですからね。」



心配そうな表情をしているハイル先生は、棄権を勧めてきた。

やっぱりそんなヘロヘロに見えるのか、俺…

しかし、精神年齢+10歳というなけなしのプライドがあるため、棄権なんてする訳にはいかない。

がむしゃらに剣を振りながら、1kmの道のりを完走した。

結果は聞くまでもなくビリだ。



「も、もう無理だ…」


「お疲れ、カンザキ。その疲れ方…もしかして身体強化の魔法使わなかったのか?」


「身体強化…か。ユージンは使ってたのか?」


「俺の得意分野だからね。多分グリムも使ってるんじゃないかな。」


え、グリムだけ…?


「じゃあもう一人は…」


「ああ、ザック君のこと?彼は単純に運動神経が良いんだよな。」


(は?!嘘だろ…単純な運動能力だけであの獣のような速さだったのか?!)


「俺もよく知らないんだけどさ、なんでも学校1の身体能力って言われているらしい。学期末に実技系の科目は学年跨いで優秀者として表彰されてた。」


「すごいな…」

「まあ、喧嘩とかも絶えないらしいから、周りからは疎まれてるらしい。
目を付けられないよう気を付けてな!」


爽やかになんてアドバイスしてくるんだ。

「ガラ悪い奴」から、「敵に回したくない奴No.1」と認識を改めたところで、号令がかかる。



「休憩はここまでです。
次の種目は牽制。投擲する対象物を持ってください。」


ハイル先生が指さした場所には…


(本物の槍だ…)


何の変哲もない掌大の石と、俺の腰ほどはある槍。

生徒に投擲するものは選ばせてくれるらしく、戸惑なく石を選んだ。

この石、見た目よりも軽いようだ。
もしかしたらちゃんとした成績が出るかもしれない。

と思ったのも束の間。

良く良く地面を見てみると、100mくらい前方の校庭の端に白線が引いてある。

まさか…



「あの白線まで届かせるつもりでやって下さい。では、始め。」


(やっぱりかァァア!)


ユージンが先陣を切り、槍を投げつける。
槍はジェット機のような速さで、白線まで一直線に進んで行った。

グリムやザックも問題なくクリアしたようだ。


(こいつら…規格外すぎる)


最後に残ってしまった俺は、注目を浴びながら投擲することになってしまった。

異世界に来たからといって突然身体能力が上がるわけでもなく、クラスメイトの半分の距離で投げた石が落ちた。


(俺…これやっていけるのかな…)


俺はユージンに励まされながら、次の種目の会場である森へ移動した。


『皆さん、止まって下さい。』

先生が小声で話しかける。
視線の先には、初日に発見したウサギ(仮)の魔獣がいた。



『最後の種目は尾行です。あのラビッツは棲み家のある教会遺跡まで移動するので、時間差を付けて尾行して下さい。』



あの魔獣ラビッツって言うのか。覚えやすくて助かる。

それにしても、教会遺跡か…森にそんなものがあるのか。
住んではいるけど、全然知らなかったな。


(いつも学校と家の往復だから仕方ないけど…)


『魔獣に気付かれた人はそこでリタイアです。』



今まで散々な結果だった俺は、この種目でなんとか取り返したいと考えていた。


(あのウサギ(仮)なら、初日に遭遇してる。何も知らないよりは成功率が上がるな。)


『では、始め。』


俺はラビッツの背後の木陰に回り込んだ。

他の生徒も周辺の木陰に潜んでいるようだ。音は聞こえない。

ラビッツは草を食べ終わり満足したのか移動を開始した。


(ぴょんぴょん跳ねるから、姿勢を高くしていたらそれだけでバレそうだな…)


俺は姿勢を低くし、ほぼ四つん這いの状態で尾行する。


カサリ、


少し移動した所で、前方の茂みから音がした。

視線を向けてみると、


(どうしたんだ?あいつ…)


何故か身を隠すでもなく、ザックが茂みに突っ立っていた。

ラビッツはそれを見てビクリと跳ね上がり、急いで移動してしまう。

正に脱兎の如く、といった感じだ。

ユージンたちはそれを追うが、俺はザックの様子が気になっていた。

こんな場所で突っ立ってるなんて、調子悪いのかもしれないし、安否だけでも確認しておこう。


そう思った俺は、ザックに近づいた。
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