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モブ(俺)の決意
しおりを挟む「で、どうだった?レポートは?」
「ここに!!」
ズササ!!と平伏しながらレポートを差し出すと、妹は目を通して怪訝な表情を浮かべた。
「な、なんかやけにリアルだね…」
「そそそそそれは、ほら!俺、没入型の人間なので!!」
必要以上に吃る俺を不思議そうに小首を傾げると、レポートを見るのをやめてカバンをゴソゴソし出す。
(え、もうレポート見るのやめちゃうん…?
お兄ちゃん頑張ったんだけどな…)
「…ま、これが終わったんなら、少しは社会復帰の練習になったんじゃない?」
「社会復帰…?」
「兄さんはあのクソ幼馴染のイジメと、タイミングの悪さで引きこもりになったわけだけど…世の中そんな悪いもんじゃないよ。
人とのコミュニケーションだって、面白いって思ったんじゃない?」
「ウッ!我が妹ながら達観しておる!!」
「…兄さんなら今からでも社会復帰できる。
だから明日から仕事探しな?」
「は、はい…」
(妹よ…そのゲーム、兄の為を思って…?)
俺は反抗期だと思っていた妹がこんなにも俺のことを思ってくれるのが嬉しくてたまらなかった。
感動で震えていると、妹が溜息をついた。
「てかそれジャケ買いしたんだけど…やっぱり私学園ものじゃなくてファンタジーものが好きなんだよね」
「いや、そっちが本音じゃねーーーか!!!!」
俺があまりの事にキレながら出て行こうとすると、妹が待ったをかけた。
「それ、面白かったでしょ?」
「え、まあ…」
「すごい売れたんだよ、それ。
主人公って名前のキャラクターは主人公じゃないって出オチもあるし、感情移入しやすい平凡な操作キャラがいいってね。」
「…え、主人って主人公じゃなかったのか?」
「えっ?ゲームやったんじゃなかったっけ?
見てみなよ、タイトル。」
「タイトルって…秘密の学園?」
「違う違う!そっちは副題。…ソフトの背しか見ないってどういうことよ。
このゲームタイトル長くて背には名前が入ってないの…表見てみて!」
そこで初めてマジマジとゲームのパッケージを見た俺は、パッケージに皆の顔が載っているのを見てちょっと擽ったくなった。
…じゃなくて、タイトルか。
この真ん中のやつ…
「正式なタイトルは『BLゲームのモブ(俺)は誰にも見つからないはずだった。~秘密の学園~』だよ!」
「なんだそのヘンテコな名前!!」
(…となると、俺がちゃんとしたゲームの主人公だったってことか!?)
驚愕の事実に、俺は既に脳がキャパオーバーしていた。
妹はやっとカバンから何かを見つけたのか、カード状のものを持って俺に向き直った。
「売れたゲームに文句つけない!!
売れに売れたおかげで、つい先週これが発売したの。」
ででーん!と見せつけられたそのカードには、イラストの他にも文字が書いてあった。
「"拡大版ダウンロードコンテンツ"…?!」
「そう!ゲームやる兄さんなら分かるよね?
…本編よりは短いから、納期は1週間!
あ、その前に就職先は見つけなよ?」
(いやまたやんのかい!!!)
思わず膝から崩れ落ちた。
俺の脳裏には、あの日の先生の言葉が蘇る。
『一度離れる事は理解した。
…だが、何があっても、帰ってこい。』
あの日走った背筋の寒気が、また駆け抜けていく。
俺は妹からダウンロードコンテンツのカードを受け取ると、覚束ない足取りで部屋に戻る。
「これ、もしかしたら…ってこともあるよな。」
またあの世界に行ける。
…皆と一緒に過ごせるのかもしれない。
俺はカードを取り出しかけて、やめた。
そのまま机の引き出しにしまうと、鍵をかける。
「本当は今すぐにでも行きたい…けど、先に俺自身のカタを付けないと。」
4年前に封を開けた履歴書の束を取り出す。
(黄ばんでるし、これは練習用かな…。)
レポートと同じくらいの量なはずなのに、レポートの方が何倍も重く感じるのは気のせいだろうか。
「今度皆に会った時に、ギャフンと言わせなきゃな!」
昔とは違い、俺は前向きな気持ちでペンを取った。
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