BLゲームのモブ(俺)は誰にも見つからないはずだった

モブ(俺)は気付いてしまった

「ただいマイハウス…」


俺は家に帰るや否やすぐに立ち止まり、玄関で悶々と考え込み始めた。


「このソフトをプレイしたことがないから分からないんだけど…主人ってあんな感じなのか…？」


さっきまで一緒にいた、主人のセリフが頭を過ぎる。


『なんなんだ、俺…なんでこんな事考えんだ？』


(一応主人公としてキャラクター設計されているけど、あの時は特に、自分の意思で喋っているみたいだった…)


俺は今まで、経験している全てのエピソードが、ストーリーという台本の上で進んでいるものだと考えていた。

俺が知らないだけで、俺自身もストーリーを進んでいるものだと。

だから、嬉しい事も、恥ずかしい事も、前向きに捉えてた。


「もしかして、俺がここの世界に介入した事で、何か変わっちゃってるのか…？」


キャラクターが、1人の人間として、自我を持ってしまったという可能性が浮かぶ。
つい昨日も浮かんだ事だったけど、今日の一件で、いよいよ現実味を帯びてきた。


(この世界のみんな、意思を持って"生きて"いるんだ…)


その考えに至ってしまうと、突然、両足が震え出す。


「お、俺…きちんと出来てたかな。
主人やみんなの事を傷付けてないかな…」


一つ心配になり出したら、全てが怖くなってしまうのが俺の悪いところだ。

この性格のせいで、現実では引きこもりになったと言っていい。


「弱気になってちゃ駄目だよな…っ！俺は頑張れる男！！まずは課題をクリアしなきゃ！！」


意気込む俺の脳裏に、ふと妹の言葉が蘇る。


『このゲームをクリアし、文書作成ソフトに8p以上で20枚程度の感想文を認めてくるのだ。

…納期は2週間。励めよ、少年。』


「…あぁあ、納期！そうだ、あの時納期って言ってた！！」


今までめちゃくちゃ大切な事を忘れてた。
妹があの時2週間、と言っていたのはきっと無関係ではない。

20のスチルがある事、文章作成ソフトでレポートができる事、こんなにも関係があった妹の発言だ。見逃せない。


「考えられることとしては、この学校生活が2週間で終了する…」


一番道理が通っていて、あり得そうなことだ。


「クリアするしないに関わらず、俺は2週間で現実に帰れるってことか…？

もしかすると、クリア出来なければ帰れないって言うパターンもある？」


本当に、ほんっっっとうに今更だが、
俺にはこの世界にいる上での時間制限があるってことだ。

突如焦る要素ができてしまった。


「やっぱり悩んでる暇はないな…やれる事をやんなきゃ！」


引きこもりになってからは久しく忘れてしまっていた"やる気"がみなぎる。


もう乗りかかった船だ。
なんとかエピソード回収をクリアして、来週の月曜日を迎えたろうじゃないの！！！！


レポートをまとめ、特に今日は進展がない事を確認し、明日の準備に取り掛かった。