所詮、狗。

はちのす

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白王探偵社

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白王と名乗った煌びやかな男は、腹に決めかねる俺に、再度念を押した。

「黒谷君、君は今すでに住居、手持ちの金、明日の食事でさえも失っている。何が最善か、良い判断を期待している」

「……仕事内容は探偵って言ったな。認可は受けてんのか」

出会いが最悪だったため、俺はもうコイツのことは一度疑ってかかるスタンスになったんだ。

(火事見て良く燃える、なんて言う男だ。
おいそれと信じられるか?)

「無論だ。所轄への届けは滞りなく行なっている。君と違って暗い部分は残さない主義なんだ」

「暗いって…ああそうですか」

もしかして、暗い部分って俺が上司殴って懲戒免職を受けた事を指してるのか?

それは、この家の大家にも話していない情報だった気がするんだが。

……だが、ここで断っても何も好転しない。
腹を決めて、白王と目を合わせた。

「心は決まったか?」

「……しばらく、お世話になります」

「それが最良だ。では、君が明日から働く事になる場所を紹介しよう」

「は、今すぐ?!このまま行くのか?!」

「心配せずとも、徒歩圏内だ」

歩き出した奴の肩を慌てて掴んで、この家の後始末について問いただすと、白王は不思議そうな顔をして小首を傾げる。

「?君の所有物は今身につけているもの以外全焼するだろう。それとも、持ち出すものが残ってるのか?」

「うぐ…そうだけど」

「……もし足元が不安なら、私がエスコートしようか」

白王は、また緩りと弧を描いた瞳で、俺を見つめてくる。

それにまたイラッとして、俺はその横に並び立った。

「ざけんな、とっとと行くぞ」

「雇い主にもその強気、嫌いじゃないな」

道中会話はほぼ発生せず、淡々と足を前に運ぶのみ。

その単純な動作が、自分に起きたクソみたいな境遇から目を逸らさせてくれた。


(……こんな奴でも、話せる人間がいるから、まだマシだったかもしれない)


はあ、と再度深くため息をついた。


*****************


白王に連れてこられた場所は、ボロアパートからほど近い、7分ほど歩いた先にある建物だった。

グレーや黒で統一された無機質な外観は、どこかヒヤリとした温度を纏っている。

あまり生活感がないから、事務所なんだろう。

足を踏み入れると、広い部屋のわりに家具が最低限のものしかなく、オシャレだが物悲しい雰囲気を漂わせていた。

「ここが事務所か?綺麗だけど…何というか、ミニマリストな感じだな」

「私はモノには執着が無い。あぁ、そこの椅子に座ってくれ」

「あ、ああ」

座るよう促されたのは応接用のテーブルと椅子のようだ。
革張りの椅子は座り心地はいいのだが、真正面から白王に向き合うことになり、かなり気まずい。

「黒谷君、私の狗になることを望んだ君にいくつか留意点を伝えよう」

パラパラと雑誌ほどの厚さの本を捲りながら、平然と恐ろしい言葉を並べ立てる。

「おい、語弊があるだろ!衣食住を保証してもらう代わりに、アンタの元で働くんだ」

「そう、つまり君は私に生存に関わる権利を握られているんだ」

「あれ、俺の声聞こえてるか?俺は、ただ普通に働くだけだからな?別に命握られた覚えはねぇぞ」

「探偵業はスケジュールが不透明なことも多い…ということで、君の部屋は2階だ」

「…???」

数秒の間。

(あれちょっと…耳が遠くなったか?)

「アンタ…今、なんて」

「君の部屋はここの2階だ。何か質問が?」

その意味を理解した時、後頭部を殴られたかのような衝撃が俺を襲った。

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