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王宮の正門の前で豪華な馬車が数台、列を作って並んでいた。
そして王宮の広間では、国王と第二王子が寂しそうな顔をして居る。
その二人の対面にいるのは、第一王子妃……いや、隣国の第一王女に戻った彼女は、連れて来た侍女と共に大きな荷物を持って微笑んでいた。
「もう、帰ってしまわれるのですね。」
「はい。わたくしが、もうここに居る理由は、無くなりましたから。」
「そう……ですか。」
第二王子は淋しそうな顔をしながら、第一王女に別れの挨拶をしていた。
「もう少し、ゆっくりしていくと思っていたのだが、居なくなると思うと寂しいのう。」
そう言って、元気になった国王陛下は寂しそうに目元を潤ませていた。
「ふふふ、あまり長く居ると父が寂しがりますから。」
そう言って第一王女は、フードから唯一見える口元を綻ばせた。
「そうか、今まで世話になったな。」
「はい。国王様もお元気で。」
第一王女がそう言った途端。
ぽとり。
突然、第一王女の顎が外れて落ちてきた。
突然の事に、その場にいた者達が驚きで目を見張る。
「あら、お嬢様良かったですわねぇ。」
しかし、その空気を壊すかのように、王女の侍女がのんびりとした口調で言ってきた。
「あらやだ、やっと取れたわ。良かった~!国に着くまで取れないのかと思ってたわ。」
そう言って、第一王女はフードを取ってきた。
そこには
どこの妖精かと思えるような、美しい娘の顔があった。
突然の展開に、見送りに来ていた従者や騎士たちがあんぐりと口を開けたまま呆けている。
もちろん、第二王子も同じように驚きで硬直していた。
唯一、国王だけがしたり顔で、その状況を楽しんでいた。
「ほっほっほっ、ここへ来たとき、その姿を見て驚いたわい。あやつから聞いていたとはいえ、実に見事な出来じゃったからのう。」
訳知り顔の国王に、皆の視線が集中する。
その視線に気分を良くしたのか、国王が種明かしをしてきた。
「実は二年前、予が毒殺されかけた時に隣国の王に相談したのじゃ。そこで、奴と共に秘密裏に予の暗殺を目論む輩を見つけ出そうという事になったのじゃが……。まさか娘である第一王女殿が、王子の妃として来てくれる事になるとは思わなんだ。」
聞いたときは驚いたわい、とそう言って、面白そうに笑う国王に、第一王女が肩を竦めてきた。
「ええ、国王様からのお手紙を読んで、お父様と相談しましたの。どうやったら王宮に居る人たちに怪しまれずに犯人を捜し出せるのかと。これしか思い浮かばなかったものですから。」
そう言って、第一王女は悪戯が見つかった子供の様に舌を出してきた。
どこの世界に、自分の娘を犯人探しの為とはいえ、嫁として寄こす親がいるのかと、周りが呆れていると、更に第一王女が、とんでもないことを言ってきた。
「でも、いざこちらに行く事が決まったら、お父様が急に騒いでしまって。「うちの娘に何かあったら大変だ~。」とか言って、急遽このマスクを作らせたんです。」
そう言って、先程落ちた物を拾って見せてきた。
それは、老人のような皺を施した精巧なマスクだった。
「急いで、うちの宮廷魔導士達に作らせたので、手の部分と顔半分しか出来ませんでしたが、よく出来ているでしょう。しかもこれ、魔法で取れない仕組みになっているんです。もう、最初付けた時に何をやっても取れなくなっちゃったから、一生このままだと心配してたんですよ。」
でも取れてよかったです、とそう言って、マスクをびろ~んと伸ばして見せてきた。
「まあ、呪いみたいなものが施されていたみたいですからね。事前に陛下が解除の方法を決めていたみたいですけれど。先程の言葉が、鍵だったようですわね。」
第一王女の側にいた侍女が、マスクを受け取りながらそう解説してきてくれた。
「まさか第一王女殿が、老婆になってくるとは思わななんだ。予も初めて見たときは、度肝を抜かされたわい。」
「うふふ、すみません。でもお父様が「第一王子は国王に似て手が早いから。」と言っていたので。」
「あ奴め……。」
第一王女の言葉に、国王はバツの悪そうな顔をした。
「でも、これのお陰で、第一王子には全然相手にされなかったので良かったです。初夜の時なんか、本当に部屋に来たらどうしようって、一応防犯用の魔道具を一杯持ってきておいたんですけど……。」
そう言って、大きな鞄の中に入っている大量の魔道具を見せてきた。
その量と使用方法については、とりあえず突っ込む事は止めておいた。
「う、うむ、とにかく無事に解決できて良かった。何から何まで世話になった、感謝していると、隣国の王にも伝えておくれ。」
「はい。でも、国王様があの時、わたくしを謹慎にしてくれたお陰で、自由に動けるようになって解決できましたのよ。」
そう言う王女に国王は「予も少しは役に立てたようで、良かったわい。」と相好を崩した。
国王と第一王女が微笑み合っていると、彼女の侍女が出立の催促をしてきた。
「お嬢様、そろそろ。」
「そうね……それでは国王様、みなさんお元気で!」
侍女の言葉に淋しそうな顔をしながら、第一王女は見送りの人々に、ぺこりと頭を下げると、くるりと踵を返した。
その時、呼び止める声が聞こえてきた。
「あ、あの……。」
「?」
第一王女が振り返ると、第二王子が一歩前に出た状態で、何か言いたそうに口をもごもご動かしていた。
しかし直ぐに第二王子は、意を決したように顔を前に上げると、こう言ってきた。
「あ、あの、ま、またお会いできますか!?」
と。
その言葉に第一王女は
「ええ……ふふ、貴方が今より、もっと立派な方になっていたら、たぶん。」
少しだけ胡麻化すような言い方ではあったが、第二王子は言質が取れたと表情を明るくした。
そんな第二王子に、王女は更なる爆弾を投下していくのであった。
「あ、そうそう!わたくし実は18歳じゃないんです。本当はまだ16歳で、結婚できる歳じゃなかったんですよ。だから今回の結婚は偽装結婚で、本当の婚姻は結んでいないんです。」
「そ、それって……。」
「では、皆さまご機嫌よう!お元気で!!」
第一王女はそう言うと、さっさと馬車に乗って行ってしまった。
「ほっほっほ、素敵なお嬢さんじゃったろう?」
そう言って、国王が第二王子の肩に優しく手を置いてくる。
「はい。」
第二王子は国王の言葉に、深く頷いていた。
「またいつか、きっと……お会いしましょう。」
第二王子は、隣国の第一王女が去って行った方角を見ながら、決意も新たに呟くのであった。
その言葉が実現されたかは、また少し先のお話。
【終わり】
---------------------------------------------------
最後までお読み頂き、ありがとうございます!
そして、お気に入り登録が100人を達成しました!皆様ありがとうございます!
感謝の気持ちを込めて、記念小話を後日掲載させて頂きたいと思います。
作品は出来上がり次第UPしたいと思います。お茶請け程度に楽しんで頂けたら幸いです。
そして王宮の広間では、国王と第二王子が寂しそうな顔をして居る。
その二人の対面にいるのは、第一王子妃……いや、隣国の第一王女に戻った彼女は、連れて来た侍女と共に大きな荷物を持って微笑んでいた。
「もう、帰ってしまわれるのですね。」
「はい。わたくしが、もうここに居る理由は、無くなりましたから。」
「そう……ですか。」
第二王子は淋しそうな顔をしながら、第一王女に別れの挨拶をしていた。
「もう少し、ゆっくりしていくと思っていたのだが、居なくなると思うと寂しいのう。」
そう言って、元気になった国王陛下は寂しそうに目元を潤ませていた。
「ふふふ、あまり長く居ると父が寂しがりますから。」
そう言って第一王女は、フードから唯一見える口元を綻ばせた。
「そうか、今まで世話になったな。」
「はい。国王様もお元気で。」
第一王女がそう言った途端。
ぽとり。
突然、第一王女の顎が外れて落ちてきた。
突然の事に、その場にいた者達が驚きで目を見張る。
「あら、お嬢様良かったですわねぇ。」
しかし、その空気を壊すかのように、王女の侍女がのんびりとした口調で言ってきた。
「あらやだ、やっと取れたわ。良かった~!国に着くまで取れないのかと思ってたわ。」
そう言って、第一王女はフードを取ってきた。
そこには
どこの妖精かと思えるような、美しい娘の顔があった。
突然の展開に、見送りに来ていた従者や騎士たちがあんぐりと口を開けたまま呆けている。
もちろん、第二王子も同じように驚きで硬直していた。
唯一、国王だけがしたり顔で、その状況を楽しんでいた。
「ほっほっほっ、ここへ来たとき、その姿を見て驚いたわい。あやつから聞いていたとはいえ、実に見事な出来じゃったからのう。」
訳知り顔の国王に、皆の視線が集中する。
その視線に気分を良くしたのか、国王が種明かしをしてきた。
「実は二年前、予が毒殺されかけた時に隣国の王に相談したのじゃ。そこで、奴と共に秘密裏に予の暗殺を目論む輩を見つけ出そうという事になったのじゃが……。まさか娘である第一王女殿が、王子の妃として来てくれる事になるとは思わなんだ。」
聞いたときは驚いたわい、とそう言って、面白そうに笑う国王に、第一王女が肩を竦めてきた。
「ええ、国王様からのお手紙を読んで、お父様と相談しましたの。どうやったら王宮に居る人たちに怪しまれずに犯人を捜し出せるのかと。これしか思い浮かばなかったものですから。」
そう言って、第一王女は悪戯が見つかった子供の様に舌を出してきた。
どこの世界に、自分の娘を犯人探しの為とはいえ、嫁として寄こす親がいるのかと、周りが呆れていると、更に第一王女が、とんでもないことを言ってきた。
「でも、いざこちらに行く事が決まったら、お父様が急に騒いでしまって。「うちの娘に何かあったら大変だ~。」とか言って、急遽このマスクを作らせたんです。」
そう言って、先程落ちた物を拾って見せてきた。
それは、老人のような皺を施した精巧なマスクだった。
「急いで、うちの宮廷魔導士達に作らせたので、手の部分と顔半分しか出来ませんでしたが、よく出来ているでしょう。しかもこれ、魔法で取れない仕組みになっているんです。もう、最初付けた時に何をやっても取れなくなっちゃったから、一生このままだと心配してたんですよ。」
でも取れてよかったです、とそう言って、マスクをびろ~んと伸ばして見せてきた。
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第一王女の側にいた侍女が、マスクを受け取りながらそう解説してきてくれた。
「まさか第一王女殿が、老婆になってくるとは思わななんだ。予も初めて見たときは、度肝を抜かされたわい。」
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第一王女の言葉に、国王はバツの悪そうな顔をした。
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「はい。でも、国王様があの時、わたくしを謹慎にしてくれたお陰で、自由に動けるようになって解決できましたのよ。」
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国王と第一王女が微笑み合っていると、彼女の侍女が出立の催促をしてきた。
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その時、呼び止める声が聞こえてきた。
「あ、あの……。」
「?」
第一王女が振り返ると、第二王子が一歩前に出た状態で、何か言いたそうに口をもごもご動かしていた。
しかし直ぐに第二王子は、意を決したように顔を前に上げると、こう言ってきた。
「あ、あの、ま、またお会いできますか!?」
と。
その言葉に第一王女は
「ええ……ふふ、貴方が今より、もっと立派な方になっていたら、たぶん。」
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そんな第二王子に、王女は更なる爆弾を投下していくのであった。
「あ、そうそう!わたくし実は18歳じゃないんです。本当はまだ16歳で、結婚できる歳じゃなかったんですよ。だから今回の結婚は偽装結婚で、本当の婚姻は結んでいないんです。」
「そ、それって……。」
「では、皆さまご機嫌よう!お元気で!!」
第一王女はそう言うと、さっさと馬車に乗って行ってしまった。
「ほっほっほ、素敵なお嬢さんじゃったろう?」
そう言って、国王が第二王子の肩に優しく手を置いてくる。
「はい。」
第二王子は国王の言葉に、深く頷いていた。
「またいつか、きっと……お会いしましょう。」
第二王子は、隣国の第一王女が去って行った方角を見ながら、決意も新たに呟くのであった。
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