15 / 18
15.侯爵令嬢のお茶3
しおりを挟む
「貴様……。」
「あ、終わりましたか?」
まるで寸劇でも見せられていたような物言いに、第一王子の眦が吊り上がる。
「ああ、すみません。あまりにも茶番が長かったので、お菓子を頂いておりました。」
そう言って、いつの間にかテーブルに出されていたクッキーを一つ摘まんでは、ぽりぽりと食べていた。
その緊張感のない行動に、第一王子の怒り度が益々上がっていく。
「貴様……さっきのを茶番だというのか?」
「はい、茶番です。」
「なっ!!」
第一王子の言葉を、さらりと肯定し、すっと居住まいを正してきた。
「そういえば、だいぶ話が先送りになってしまいましたが、侯爵令嬢のお茶の件について、はっきりさせないといけませんわね。」
その言葉に、入口の方で息を呑む音が聞こえてきたが、それを無視して第一王子妃は話を続けた。
「まず、侯爵令嬢様のお茶ですが、皆さまがここに来る前に、宮廷薬師の方に調べて貰うように頼んでおきました。」
「なっ、何勝手な事してるのよ!!」
それまで震えていた侯爵令嬢は、かっと目を見開き抗議してきた。
その時、サロンの扉が開き先程話に出てきた宮廷薬師が姿を現した。
「第一王子妃様、ご命令頂いていた茶葉の検査結果が出ました。」
そう言って、宮廷薬師は深々と一礼してきた。
「ありがとう。ここで報告してくださいます?」
「はい。」
第一王子妃が宮廷薬師にそう頼むと、彼は徐に頷き報告し始めた。
「検査の結果、茶葉には蓄積型の毒が検出されました。簡単に言えば、飲む回数を重ねれば重ねるほど、毒の効果は高くなっていくというものです。それと……」
薬師は一旦言葉を切ると、すぐに続けた。
「それと、この茶葉は乾燥させる前に精製し、濃度を上げた状態で薬液にすると、効果は弱いですが即効性の毒薬になるそうです。」
「そう……それで、その毒は以前に使われた形跡はあったかしら?」
「??」
第一王子妃の質問に、その場にいた無関係な者たちは何の事だと首を傾げる。
しかし、侯爵令嬢だけは、目を見開き小さな悲鳴を上げていた。
「そ、そんな事あるわけないでしょう!!」
「一度だけ……二年前、国王陛下がお倒れになった時です。」
「!!!!!!」
宮廷薬師の言葉に、その場は騒然となった。
どういう事だと、皆口々に囁く。
それを遮るかのように、国王が口を開いた。
「左様。予は二年前、その毒で一時期生死の境を彷徨ったのじゃ。」
低く良く通る声に、場が一瞬静まり返る。
そして、サロンの入り口で座り込む侯爵令嬢に視線が集中した。
その視線に気づいた侯爵令嬢は、慌てて声を張り上げてきた。
「こ、国王様!わ、わたくしはその時、王宮にはおりませんでしたわ!それこそが、わたくしがやっていない確かな証拠です!」
侯爵令嬢の言葉に、第一王子ははっと我に返る。
「そうだ、確かその日は、フリージアと共に出かけていたはず!外出記録にも残っているであろう、調べればわかる事だ!」
「第一王子様、そうですわたくしと一緒にお出かけなさっておりましたわよね。これはわたくしを貶めるための陰謀ですわ。きっと第一王子妃様がわたくしを蹴落とさんとして、こんなでたらめな事を……。」
侯爵令嬢はそう言って、第一王子の許に駆け寄って行った。
第一王子も、先程の騎士団長との遣り取りは奇麗さっぱり忘れてしまったのか、駆け寄ってきた侯爵令嬢と抱き合っている。
その光景を見ながら、第一王子妃は一つ咳払いすると口を開いた。
「そうですね、その日はお二人は王宮にはいらっしゃらなかったようですわ。」
第一王子妃は、どこからか一冊の記録簿を取り出すと、ぱらぱらと捲りながら言ってきた。
その言葉に、第一王子は勝ち誇った顔をする。
「そうだろう。どうせ、今までお前が話していた事も全て作り話に過ぎない。私とフリージアの仲を引き裂こうとしても、そうはいかないぞ!!」
完全に勝利を確信したような顔で言ってくる第一王子に、第一王子妃はやれやれと首を振ってきた。
「もう一つ、報告があがっているのですが。私の言葉が嘘かどうかは、それを聞いてから判断してくださいませ。」
そう言って、従者が持ってきた報告書を開くと告げてきた。
「侯爵令嬢様。」
「なにかしら?」
第一王子妃が声をかけると、侯爵令嬢は勝ち誇った顔で返事をしてきた。
「貴女が王宮内で、複数の殿方と二人きりで会っていたという報告が幾つかあがっておりますが、それに相違ありませんか!?」
「なっ!?」
第一王子妃の質問に、侯爵令嬢は瞠目する。
「そこに居る騎士団長のご子息様、それに宰相のご令息様、あら、時々王宮に商品を届けに来る商会のご子息とまで……随分と羽振りがよろしいようですわね。」
そう言って、第一王子妃はフードから覗く口元で、にやりと笑ってきた。
まるで老魔女が悪だくみをしているようなその笑いに、侯爵令嬢は「ひっ」と悲鳴を上げる。
そして、はっと目の前の王子を振り仰いだ。
そこには、第一王子妃の報告を聞いて、またぶるぶると怒りに震える第一王子が居た。
「お、お前は騎士団長の息子だけでなく、宰相と商会の息子にまで!!」
「ち、違います誤解です!!」
と、突然目の前で痴話喧嘩が始まってしまった。
突然目の前で始まった遣り取りを、第一王子妃は止めることなく暫く眺めていた。
そして、サロンの隅で完全に壁と同化しようとしている人物の方へ、ゆっくりと視線を動かしていった。
視線と言ってもフードで顔が隠れているため、傍からは王子妃が顔を横に向けたように見えているのだが。
その突然の行動に、周りの者たちも気づき、自然とその視線を追っていく。
ぴたりと、ある場所で王子妃の視線が止まった。
「あ、終わりましたか?」
まるで寸劇でも見せられていたような物言いに、第一王子の眦が吊り上がる。
「ああ、すみません。あまりにも茶番が長かったので、お菓子を頂いておりました。」
そう言って、いつの間にかテーブルに出されていたクッキーを一つ摘まんでは、ぽりぽりと食べていた。
その緊張感のない行動に、第一王子の怒り度が益々上がっていく。
「貴様……さっきのを茶番だというのか?」
「はい、茶番です。」
「なっ!!」
第一王子の言葉を、さらりと肯定し、すっと居住まいを正してきた。
「そういえば、だいぶ話が先送りになってしまいましたが、侯爵令嬢のお茶の件について、はっきりさせないといけませんわね。」
その言葉に、入口の方で息を呑む音が聞こえてきたが、それを無視して第一王子妃は話を続けた。
「まず、侯爵令嬢様のお茶ですが、皆さまがここに来る前に、宮廷薬師の方に調べて貰うように頼んでおきました。」
「なっ、何勝手な事してるのよ!!」
それまで震えていた侯爵令嬢は、かっと目を見開き抗議してきた。
その時、サロンの扉が開き先程話に出てきた宮廷薬師が姿を現した。
「第一王子妃様、ご命令頂いていた茶葉の検査結果が出ました。」
そう言って、宮廷薬師は深々と一礼してきた。
「ありがとう。ここで報告してくださいます?」
「はい。」
第一王子妃が宮廷薬師にそう頼むと、彼は徐に頷き報告し始めた。
「検査の結果、茶葉には蓄積型の毒が検出されました。簡単に言えば、飲む回数を重ねれば重ねるほど、毒の効果は高くなっていくというものです。それと……」
薬師は一旦言葉を切ると、すぐに続けた。
「それと、この茶葉は乾燥させる前に精製し、濃度を上げた状態で薬液にすると、効果は弱いですが即効性の毒薬になるそうです。」
「そう……それで、その毒は以前に使われた形跡はあったかしら?」
「??」
第一王子妃の質問に、その場にいた無関係な者たちは何の事だと首を傾げる。
しかし、侯爵令嬢だけは、目を見開き小さな悲鳴を上げていた。
「そ、そんな事あるわけないでしょう!!」
「一度だけ……二年前、国王陛下がお倒れになった時です。」
「!!!!!!」
宮廷薬師の言葉に、その場は騒然となった。
どういう事だと、皆口々に囁く。
それを遮るかのように、国王が口を開いた。
「左様。予は二年前、その毒で一時期生死の境を彷徨ったのじゃ。」
低く良く通る声に、場が一瞬静まり返る。
そして、サロンの入り口で座り込む侯爵令嬢に視線が集中した。
その視線に気づいた侯爵令嬢は、慌てて声を張り上げてきた。
「こ、国王様!わ、わたくしはその時、王宮にはおりませんでしたわ!それこそが、わたくしがやっていない確かな証拠です!」
侯爵令嬢の言葉に、第一王子ははっと我に返る。
「そうだ、確かその日は、フリージアと共に出かけていたはず!外出記録にも残っているであろう、調べればわかる事だ!」
「第一王子様、そうですわたくしと一緒にお出かけなさっておりましたわよね。これはわたくしを貶めるための陰謀ですわ。きっと第一王子妃様がわたくしを蹴落とさんとして、こんなでたらめな事を……。」
侯爵令嬢はそう言って、第一王子の許に駆け寄って行った。
第一王子も、先程の騎士団長との遣り取りは奇麗さっぱり忘れてしまったのか、駆け寄ってきた侯爵令嬢と抱き合っている。
その光景を見ながら、第一王子妃は一つ咳払いすると口を開いた。
「そうですね、その日はお二人は王宮にはいらっしゃらなかったようですわ。」
第一王子妃は、どこからか一冊の記録簿を取り出すと、ぱらぱらと捲りながら言ってきた。
その言葉に、第一王子は勝ち誇った顔をする。
「そうだろう。どうせ、今までお前が話していた事も全て作り話に過ぎない。私とフリージアの仲を引き裂こうとしても、そうはいかないぞ!!」
完全に勝利を確信したような顔で言ってくる第一王子に、第一王子妃はやれやれと首を振ってきた。
「もう一つ、報告があがっているのですが。私の言葉が嘘かどうかは、それを聞いてから判断してくださいませ。」
そう言って、従者が持ってきた報告書を開くと告げてきた。
「侯爵令嬢様。」
「なにかしら?」
第一王子妃が声をかけると、侯爵令嬢は勝ち誇った顔で返事をしてきた。
「貴女が王宮内で、複数の殿方と二人きりで会っていたという報告が幾つかあがっておりますが、それに相違ありませんか!?」
「なっ!?」
第一王子妃の質問に、侯爵令嬢は瞠目する。
「そこに居る騎士団長のご子息様、それに宰相のご令息様、あら、時々王宮に商品を届けに来る商会のご子息とまで……随分と羽振りがよろしいようですわね。」
そう言って、第一王子妃はフードから覗く口元で、にやりと笑ってきた。
まるで老魔女が悪だくみをしているようなその笑いに、侯爵令嬢は「ひっ」と悲鳴を上げる。
そして、はっと目の前の王子を振り仰いだ。
そこには、第一王子妃の報告を聞いて、またぶるぶると怒りに震える第一王子が居た。
「お、お前は騎士団長の息子だけでなく、宰相と商会の息子にまで!!」
「ち、違います誤解です!!」
と、突然目の前で痴話喧嘩が始まってしまった。
突然目の前で始まった遣り取りを、第一王子妃は止めることなく暫く眺めていた。
そして、サロンの隅で完全に壁と同化しようとしている人物の方へ、ゆっくりと視線を動かしていった。
視線と言ってもフードで顔が隠れているため、傍からは王子妃が顔を横に向けたように見えているのだが。
その突然の行動に、周りの者たちも気づき、自然とその視線を追っていく。
ぴたりと、ある場所で王子妃の視線が止まった。
0
お気に入りに追加
891
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の幸せは新月の晩に
シアノ
恋愛
前世に育児放棄の虐待を受けていた記憶を持つ公爵令嬢エレノア。
その名前も世界も、前世に読んだ古い少女漫画と酷似しており、エレノアの立ち位置はヒロインを虐める悪役令嬢のはずであった。
しかし実際には、今世でも彼女はいてもいなくても変わらない、と家族から空気のような扱いを受けている。
幸せを知らないから不幸であるとも気が付かないエレノアは、かつて助けた吸血鬼の少年ルカーシュと新月の晩に言葉を交わすことだけが彼女の生き甲斐であった。
しかしそんな穏やかな日々も長く続くはずもなく……。
吸血鬼×ドアマット系ヒロインの話です。
最後にはハッピーエンドの予定ですが、ヒロインが辛い描写が多いかと思われます。
ルカーシュは子供なのは最初だけですぐに成長します。
シナリオではヒロインと第一王子が引っ付くことになっているので、脇役の私はーー。
ちょこ
恋愛
婚約者はヒロインさんであるアリスを溺愛しているようです。
そもそもなぜゲームの悪役令嬢である私を婚約破棄したかというと、その原因はヒロインさんにあるようです。
詳しくは知りませんが、殿下たちの会話を盗み聞きした結果、そのように解釈できました。
では私がヒロインさんへ嫌がらせをしなければいいのではないでしょうか? ですが、彼女は事あるごとに私に噛みついてきています。
出会いがしらに「ちょっと顔がいいからって調子に乗るな」と怒鳴ったり、私への悪口を書いた紙をばら撒いていたりします。
当然ながらすべて回収、処分しております。
しかも彼女は自分が嫌がらせを受けていると吹聴して回っているようで、私への悪評はとどまるところを知りません。
まったく……困ったものですわ。
「アリス様っ」
私が登校していると、ヒロインさんが駆け寄ってきます。
「おはようございます」と私は挨拶をしましたが、彼女は私に恨みがましい視線を向けます。
「何の用ですか?」
「あんたって本当に性格悪いのね」
「意味が分かりませんわ」
何を根拠に私が性格が悪いと言っているのでしょうか。
「あんた、殿下たちに色目を使っているって本当なの?」
「色目も何も、私は王太子妃を目指しています。王太子殿下と親しくなるのは当然のことですわ」
「そんなものは愛じゃないわ! 男の愛っていうのはね、もっと情熱的なものなのよ!」
彼女の言葉に対して私は心の底から思います。
……何を言っているのでしょう?
「それはあなたの妄想でしょう?」
「違うわ! 本当はあんただって分かっているんでしょ!? 好きな人に振り向いて欲しくて意地悪をする。それが女の子なの! それを愛っていうのよ!」
「違いますわ」
「っ……!」
私は彼女を見つめます。
「あなたは人を愛するという言葉の意味をはき違えていますわ」
「……違うもん……あたしは間違ってないもん……」
ヒロインさんは涙を流し、走り去っていきました。
まったく……面倒な人だこと。
そんな面倒な人とは反対に、もう一人の攻略対象であるフレッド殿下は私にとても優しくしてくれます。
今日も学園への通学路を歩いていると、フレッド殿下が私を見つけて駆け寄ってきます。
「おはようアリス」
「おはようございます殿下」
フレッド殿下は私に手を伸ばします。
「学園までエスコートするよ」
「ありがとうございますわ」
私は彼の手を取り歩き出します。
こんな普通の女の子の日常を疑似体験できるなんて夢にも思いませんでしたわ。
このままずっと続けばいいのですが……どうやらそうはいかないみたいですわ。
私はある女子生徒を見ました。
彼女は私と目が合うと、逃げるように走り去ってしまいました。
変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ
奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。
スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな
婚約破棄にも寝過ごした
シアノ
恋愛
悪役令嬢なんて面倒くさい。
とにかくひたすら寝ていたい。
三度の飯より睡眠が好きな私、エルミーヌ・バタンテールはある朝不意に、この世界が前世にあったドキラブ夢なんちゃらという乙女ゲームによく似ているなーと気が付いたのだった。
そして私は、悪役令嬢と呼ばれるライバルポジションで、最終的に断罪されて塔に幽閉されて一生を送ることになるらしい。
それって──最高じゃない?
ひたすら寝て過ごすためなら努力も惜しまない!まずは寝るけど!おやすみなさい!
10/25 続きました。3はライオール視点、4はエルミーヌ視点です。
これで完結となります。ありがとうございました!
婚約破棄された悪役令嬢は王子様に溺愛される
白雪みなと
恋愛
「彼女ができたから婚約破棄させてくれ」正式な結婚まであと二年というある日、婚約破棄から告げられたのは婚約破棄だった。だけど、なぜか数時間後に王子から溺愛されて!?
逆ハーレムを完成させた男爵令嬢は死ぬまで皆に可愛がられる(※ただし本人が幸せかは不明である)
ラララキヲ
恋愛
平民生まれだが父が男爵だったので母親が死んでから男爵家に迎え入れられたメロディーは、男爵令嬢として貴族の通う学園へと入学した。
そこでメロディーは第一王子とその側近候補の令息三人と出会う。4人には婚約者が居たが、4人全員がメロディーを可愛がってくれて、メロディーもそれを喜んだ。
メロディーは4人の男性を同時に愛した。そしてその4人の男性からも同じ様に愛された。
しかし相手には婚約者が居る。この関係は卒業までだと悲しむメロディーに男たちは寄り添い「大丈夫だ」と言ってくれる。
そして学園の卒業式。
第一王子たちは自分の婚約者に婚約破棄を突き付ける。
そしてメロディーは愛する4人の男たちに愛されて……──
※話全体通して『ざまぁ』の話です(笑)
※乙女ゲームの様な世界観ですが転生者はいません。
※性行為を仄めかす表現があります(が、行為そのものの表現はありません)
※バイセクシャルが居るので醸(カモ)されるのも嫌な方は注意。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる