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4.醜女姫と侯爵令嬢

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「あら?」

侯爵令嬢が王宮の廊下を移動していると、向こうの通路から珍しい人物がやってくるのに気付いた。

「ごきげんよう、第一王子妃様。」

侯爵令嬢は、やってきた第一王子妃に見せつけるように、煌びやかなドレスでカーテシーをしてみせると、にっこりと微笑んだ。

「……ご、ごきげんよう。」

第一王子妃は、ローブの裾に隠れた手を握りしめながら、か細い声で返事をした。
その、見窄らしい姿に侯爵令嬢の自尊心が擽られる。
つんと顎を反らし、まるで自分が上だとでも言いたげな態度で、第一王子妃に話しかけてきた。

「殿下がこんな所におられるなんて、珍しいですこと。どこかに御用でも?」

「…………。」

少々高慢な態度に、不敬ではと、護衛の騎士たちが顔色を変える。
しかし、侯爵令嬢の背後に控える侍女たちは主の言葉に、にやにやした表情を浮かべるだけであった。
対する第一王子妃はというと……。
存在なさげにおどおどしながら、どう答えたらいいか悩んでいるようであった。

「ちょ、ちょっと用事が……。」

「まあ、病で臥せっている国王様の看病もなさらず、遊びに行かれるなんて。」

侯爵令嬢は、周りに聞こえるように高い声でそう言ってきた。

「い、いえ、別に遊びに行くわけでは……。」

小さな声で弁明してくる第一王子妃に、侯爵令嬢の片眉がぴくりと上がる。

「まあ、では何処へ行かれるのですか?」

尚も問質そうとしてくる侯爵令嬢に、第一王子妃の背後で今まで静かに控えていた侍女たちの肩が、ぴくりと反応した。

「そ、そこの菜園に薬草を取りに行くだけです。こ、国王がお待ちなので、これで。」

侍女たちの気配を感じ取った第一王子妃は、慌てた様子でそう告げると、逃げるようにその場を後にしたのだった。
侯爵令嬢は、去って行った第一王子妃を睨みつけるように見ながら、一言ぽつりと

「醜女姫が……。」

と、周りの従者たちには聞こえない位の声で、呟いたのであった。





その夜。

「何?怪しい薬草だと?」

第一王子のプライベートルームで、部屋の主が怪訝な声を上げていた。

「はい。しかとこの耳で。側付きの侍女たちや護衛の騎士たちも聞いておりました。」

そう言いながら、第一王子の着替えを甲斐甲斐しく手伝いながら、侯爵令嬢は今日あった出来事を報告していた。

「わたくし、国王陛下の御身が心配ですわ。もしかしたら……」

侯爵令嬢は、わざと言葉を切るような言い方をし、伏し目がちに王子を見上げてきた。

「お前の言いたいことは、よくわかった。」

第一王子は、侯爵令嬢の言わんとしている言葉を理解し、怒りもあらわに頷く。

「なんてことだ。もしや父上の病が治らないのは、あの女のせいかも知れないという事か。」

他にも侍女や側近たちが見守っているというのに、王子は声を抑えるどころか、わざと聞かせるようにそう言ってきた。
その言葉に、周りの側近たちから息を呑む気配が伝わってくる。
その反応にほくそ笑みながら、侯爵令嬢は続けた。

「殿下、手遅れになる前に……。」

「うむ、わかっている。お前は何も心配しなくていい。」

「はい。」

第一王子はそう言って、侯爵令嬢の手を取り抱き寄せる。
対する侯爵令嬢は、そんな王子の胸に顔を寄せながら、にやりと口の端を上げていたのであった。

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