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【おまけ裏話】

転生したら悪役令嬢!でも意外と周りもノリノリでした♪

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うふふ、おほほ、と淑女の笑い声が聞こえてくる庭園では、毎週恒例のお茶会が催されていた。
生徒達の親睦を深める事が目的のお茶会だが、その実態は、とある目的のためだけに開催されているのだった。
その目的とは――

「あ~ら、手が滑ってしまったわ。ごめんあそばせ。」

茶器が割れる音が響く中、冷酷そうな声と共に嘲る様な笑い声が聞こえてきた。
見ると、庭園にあるテーブルに敷かれたクロスの上を赤茶の液体が広がり染みになっていた。 そのすぐ側には、ドレスを着た令嬢が他の女生徒達に囲まれながら顔を俯かせている姿があった。
しかも、令嬢のドレスにも同じような染みが付いている。
そして、その令嬢の斜め向かいでは扇で顔を隠しながら、冷笑を浮かべている令嬢がいたのであった。





その後、すぐにお茶会はお開きになった。
そして、イザベラが退室したのを見計らい、残っていた令嬢たちは「ほぉ」と息を吐く。

「ご覧になりました?」

「ええ、見ましたわ!」

令嬢たちは先程お茶会で、あった出来事を話していた。

「本当にもう……なんて、なんて……」

数人の令嬢たちが口元に扇を持っていき、眉間に皺を寄せ何かに耐える仕草をする。
そして――



「お可愛いのでしょう!!」



と、堪え切れないとばかりにキャーキャーと騒ぎ出したのであった。

「ああ~ん、もう、あのお茶を掛けた時の憂い顔ったら♪」

「ええ、フィリア嬢のドレスが濡れた時の罪悪感に染まった顔が、もう……」

「「「「たまりませんわぁ~♪」」」」

令嬢たちは何故か、先程のイザベラの行動を大絶賛していたのであった。

「ほんっとイザベラ様ったら、すぐお顔に出てしまうんですもの。」

「うふふ、本当ね。お茶をかけるのを何度も躊躇わられておりましたし。」

「ええ、ええ、そうですわね!お茶をかけた時のあの「あっ」っていう表情が堪りませんでしたわ~♪」

「うふふふふふ、その前もお茶が冷めているか何度も確認している姿も堪りませんでしたわよ。」

「ええ本当に♪」

令嬢たちは口々にイザベラの行動を挙げていく。
そして

「イザベラ様ったら、お可愛らしい方ですわ~♪」

と、令嬢たちが声を揃えて言ってきたのであった。



何を隠そう令嬢達は、イザベラが悪役令嬢のフリをしているのを知っていたのである。
話の出所は実は王子からで、なんでもイザベラのメイドが買ってきた最新の小説に嵌ってしまい、悪役令嬢ごっこなるものをやっていて困っているのだと聞かされたのが発端だった。
そこから話は広がっていき、イザベラを良く知る者は「なるほど」と納得したのであった。
何を隠そうイザベラは、持ち前の面倒見の良さから令嬢達から人気があり、更には悪役令嬢からはほど遠過ぎる顔立ちの為、周囲はそのギャップに萌えていたのであった。
更には

「これはもう、イザベラ様を影ながらお支えしなくては!」

という令嬢達の鶴の一声から、『イザベラを見守り隊』というファンクラブまで結成されてしまったのであった。
先程の令嬢たちの反応は、そのせいだったのである。
そして暫くの間、ファンたちが余韻に浸っていると、制服に着替えたフィリアが戻ってきたのであった。

「お帰りなさい、フィリア様。」

先程とは打って変わり、ファンの子達がフィリアを優しく迎える。

「イザベラ様は、もうお帰りになってしまわれたのですね。」

仲間達に迎えられたフィリアは、そう言って寂しそうな顔をしてきた。

「ええ、貴女のお陰でイザベラ様は満足したご様子で、お帰りになられましたわ。」

「うふふ、イザベラ様ったらフィリア様が中々帰って来ないので、心配そうなお顔をされておりましたのよ。」

令嬢たちは、扇の中で心配そうにするイザベラを思い出し、くすくすと笑っている。

「そうですか、それなら良かったです♪」

そんな令嬢の言葉に、フィリアは満足そうに微笑んできたのであった。

何を隠そうフィリアも見守り隊の一員であった。
もちろん誘ってきたのは、見守り隊のファンの子達である。

「イザベラ様は人気の恋愛小説の悪役令嬢に成り切っていらっしゃるの、しかも貴女を小説のヒロインに見立てているそうなのよ。良かったら貴女も協力してくださらない?」

と誘ってきたのであった。
その誘いにフィリアは

「イザベラ様がですか?だから最近、わたくしに話しかけてくださるのですね。わかりました、ご協力いたします。」

と快諾し、フィリアはファンクラブに喜んで入隊したのだった。



そして今回も、フィリアたちは上手く立ち回りイザベラの 素敵な表情を引き出すことに成功したのであった。
令嬢たちが満足そうに収穫を語らっていると

「それよりもフィリア様、風邪を引かないように気を付けてくださいませ。イザベラ様のお陰で、火傷にはならなかったとは思いますが、これで風邪を引いては元も子もありませんわ。」

「ええ、フィリア嬢がいなければ、わたくし達困ってしまいますわ。」

そう言ってフィリアの身を案じる令嬢たちに、フィリアはニッコリとしながら答えてきた。

「大丈夫です!みなさんが用意してくれたドレスのお陰で体は濡れませんでしたから!」

そう言いながら元気をアピールするように胸の前でガッツポーズをする。
実は、今回のお茶会用にフィリアには、撥水性のある布地を使ったドレスを用意していたのだった。
それを着ていたお陰で、フィリアはピンピンしている。

「それなら良かったですわ。では皆様、明日の打ち合わせを致しましょう!」

フィリアの元気そうな様子に令嬢たちは安堵すると、令嬢たちは一斉に同じ小説を取り出す。
そして、嬉々としながら次の作戦の打ち合わせをするのであった。


おわり
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