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本編【完結】

第五話 拗らせ王子様

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「あ~~、疲れたぁ~……。」

その日の夜。
レイモンドは、やっとエミリアから解放されて、疲れた顔で自室のベッドへとダイブしていた。

「行儀が悪いですよ。」

「も~うるさいなぁ~。はぁ、せっかくエリィと楽しく過ごせると思ったのに、とんだ邪魔が入ったよ。」

レイモンドは、ベッドに俯せになりながら、ぶつぶつと愚痴を零す。
そんなに嫌ならさっさと逃げてくればいいのに、と思うが口には出さず、世話係のケビンは嘆息した。

「ねえ、エリィ僕のこと何か言ってた?」

「いえ、特には。」

「だよねぇ~、ほんとつれないわぁ~。」

相変わらず淡々とした受け答えしかしてこない世話係に、レイモンドは不満そうに口を尖らせてきた。

「ちゃんと、お気持ちをお伝えすれば済む話でしょう?」

愛用の枕を抱きかかえながら、婚約者に対して不満を零す主人に、ケビンは手っ取り早い解決策を提案してきた。

「そんな単純な話じゃないの!」

「そうですか?俺には、はっきり言われて撃沈するのが嫌なだけかと思っていました。」

――こいつは……。

幼少の頃から知っている、世話係の歯に衣を着せない言い方に、レイモンドはジト目になる。

「酷い!あたしだってこんなんじゃなきゃ、とっくの昔に告白してるわよ!」

そして嫌がらせの様に、おいおいと泣き始めた。

――相変わらず手のかかるお人だ……。

自分の主人とはいえ、面倒くさいことこの上ない相手に、ケビンは知らず溜息を吐いた。

「はいはい、貴方様の苦労はよくわかっておりますよ。ですがいい加減、エリアーナ様に意識してもらえるように、努力なさった方がいいんじゃありませんか?」

ケビンはそう言って、今現在の最大の問題を指摘してきた。
どう考えてもこの態度のままじゃ、あのご令嬢には男として意識して貰える筈がない。
余所行き用の口調から、段々地に戻ってきた主人を見てケビンは肩を竦めた。
主人のこれは地もあるが、しかしここまであからさまでは無かった。

「わかってるわよぅ!でも長年染みついちゃった癖が元に戻らないんだもの……それに、急に男らしくなんかして、エリィに怖がられたら元も子もないじゃない!」

まあ、確かに一理あるが……。

「すぐに直せとは申しませんが、せめて二人きりの時でも学園の時と同じように振舞うとか……。」

「あんなの演技だって知られてるから、エリィの前でやったって意味無いでしょ!」

ほんとにそう……ごもっともである。
ケビンは主人の指摘に、だらだらと冷や汗を流し始めてきた。

「こんな事なら、子供の頃にもっと嫌がってればよかった。」

レイモンドはそう言って、ぼふんと枕に顔を埋めたのだった。

幼少期、レイモンドとエリアーナは毎日のように遊んでいたのだが。
ある時、エリアーナの提案でドレスを着せられたことがあった。
最初は渋るレイモンドであったが、必死にねだるエリアーナに根負けして、着てみたのがいけなかった。
当時人形のように美しい顔立ちの彼は、エリアーナの見立て通り、それはそれはドレス姿が似合っていた。

「きゃーすごーい!本物のお人形さんみたい!」

と言って、エリアーナに抱き付かれたのも、今にして思えば良くなかったと思う。
既に当時から、エリアーナに対して淡い想いを抱いていたレイモンドは、これ幸いとエリアーナに抱き付いて貰うために、進んでドレスを着るようになってしまった。
その頃から、エリアーナのレイモンドの見方が変わっていったのだと思う。
エリアーナの中では、『綺麗な王子様』から『女の子のように綺麗なレイモンド』に変わっていったのであった。
気づいた時には手遅れで、まるで妹の様に扱ってくる彼女に内心焦ったが、しかし自分もどっぷり慣れ親しんでしまった為、気が付いたらこんな口調になってしまっていた。
確かに綺麗なものや可愛いものは好きだし、お茶を淹れるのも嫌いじゃないし、お菓子作りも楽しい。
でもそれは、彼女限定で楽しいのであって、一人でやるかと言われればノーであった。
周りが思っている以上に、レイモンドの中でエリアーナの存在は大きいのだ。

「エリィが居れば、他に何もいらないのにな……。」

レイモンドは、側にいる従者にも聞こえない位の声で、そう呟くのであった。
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