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しおりを挟む遡る事一刻前――
突然、ランスロットの屋敷に押しかけてきたアイリーンは、エレノアが知らない男と街で楽しそうに歩いている姿を偶然見かけたと告げてきた。
その話にランスロットの眉間に皺が寄る。
「それは……見間違いじゃなくて?」
動揺を隠すように訊ねると、アイリーンは申し訳なさそうに首を振ってきた。
「見間違えではございませんわ。わたくし、はっきりとこの目で見ましたもの。」
そうきっぱりと言い切られてしまい、ランスロットは不覚にも動揺してしまった。
――エレノアが他の男とデートだと?まさか……そんな……。
彼女に限ってそんな事は無いと、はっきりと否定できない自分に苛立ちが募る。
そんなランスロットをじっと見つめていたアイリーンは、畳みかけるように言葉を続けてきた。
「その……わたくし、はしたないと思いましたが、勇気を振り絞って二人の後を付けたのです。すると、あるお屋敷に二人で入って行かれて……。」
言い辛そうに伝えてきたアイリーンの頬は、何故か赤く染まっていた。
その表情に、あらぬ想像を掻き立てられてしまいランスロットから舌打ちが零れる。
そんなランスロットの反応に、アイリーンはキラリと瞳を光らせると、更に不安を煽る様な声音で訴えてきた。
「ランスロット様、事態は一刻を争いますわ。これから奥方様たちが居る屋敷へ向かいましょう!」
その言葉に、ランスロットは弾かれるように顔を上げる。
「もし……もし、奥方とその方の間に只ならぬご関係があったらと思うと、ランスロット様が不憫で不憫で……。」
アイリーンは憐れむ様な視線をランスロットに向けると、悩ましそうに手で顔を覆って嘆いてきたのであった。
「セバスチャン!今直ぐ馬車の用意を!!」
エレノアの不在により平常心を失っていたランスロットは、アイリーンの言葉に居ても経ってもいられなくなり、勢い良く立ち上がると家令を呼びつけたのであった。
その様子を指の間からこっそりと窺っていたアイリーンの口元が、ニヤリと弧を描いていたのであった。
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