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本編
第三十七話
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程なくして、北の国の王とカレンとの会見の日取りが決まった。
場所は、”訪問”の際に使う部屋と同じ作りの部屋に通された。
違う所と言えば、いつも使っている部屋よりも王宮の更に奥にあるという位だった。
部屋にあるテーブルや椅子、壁を覆う分厚いカーテンなどは、いつも”訪問”で訪れる部屋と全く同じ内装だった。
そして用意された護衛も、クリスティンが良く侍らせている影達だ。
しかもその数は、警戒しているとは思えないほどに少ない。
いつもの”訪問”の時と変わらない、限られた人数しかいない、ひっそりとした雰囲気の部屋だった。
そして部屋の中には招待客として、カレンとレオナルド、国王であるクリスティンと北の国の王、そして北の国の王に付いて来た外交官たちが居た。
「こちらの我儘を聞いて頂いて申し訳ない。」
全員が席に着いたところで、北の国の王が口を開いた。
「いや、こちらこそ。このような部屋しか用意できず申し訳ない。」
北の国の王に、クリスティンが言葉を返した。
その言葉に、北の国の王は緩やかに首を振ると、カレンの方に視線を移してきた。
「今回の件は、我が国の不祥事とはいえ。私も秘密裏に行いたいと思っていました。余り公にしては、こちらのお嬢さんに迷惑も掛かってしまいますから。」
そう言いながらカレンを見る瞳は穏やかだ。
レオナルドから事前に北の国の情勢は聞いていたとはいえ、とてもではないが派閥争いや王権争いに巻き込まれて、切羽詰まっているようには見えなかった。
そして夫が懸念していたような、剣を取り戻しに来たようにも見えない。
――この方は、本当に心から謝罪しに来ただけのように見えるけど……。
カレンは何となくそう直感した。
「いえ、こちらこそ。長い間、剣の出所が分からず困っていましたので、こうやって謎が解けて良かったですわ。」
カレンは率直な感想を漏らした。
カレンの言葉に北の国の王は頷いた後、本題を切り出した。
「その件については長い間、迷惑をかけてしまったようで申し訳なく思っています。また、剣を大事に保管して頂き国民一同感謝しています。」
「いえ、そんな……。」
北の国の王の真摯な謝罪に、カレンは返って申し訳なく思えて慌てて首を振った。
すると、そんなカレンの様子を満足そうに見ていた北の王は、笑顔のまま話を続けた。
「それで、剣を確認したいのですが?」
「あ、はい。こちらに。」
カレンは何の警戒も無く、聖剣の納められている鞄を取り出しテーブルの上に置いた。
そして、鍵を開け蓋を開けると北の国の側から感嘆の声が漏れ聞こえてきた。
「ほぉ、これぞまさしく……。」
「ああ、文献にある挿絵の通りだ。」
「王よ間違いございませんぞ!」
「そうか……。」
北の国の王の背後で、聖剣を見下ろしながら口々に囃し立てる外交官たち。
彼らの言葉を聞きながら、北の王はどこか気乗りのしない表情で頷いていた。
「さあ、国王陛下。」
そして、北の国の王に一番近い所に居た外交官の一人が急き立てるように言ってきた。
その言葉に、北の国の王は小さく頷くと、言い辛そうな顔をしながら提案してきた。
「その……急で申し訳ないのだが、その聖剣を我が国に返して頂けないだろうか?」
「え?」
北の国の王はカレンに目を合わせながら、そう懇願してきた。
王とは思えないその低姿勢に、カレンだけならず、隣にいたレオナルドや、クリスティンまでもが驚いた顔をして見ていた。
――この王様、意外と気が小さいのかしら?
失礼だが、素直にそう思ってしまった。
斜め前にいる自国の王とは正反対だ。
クリスティンなら、「予が一生愛でてやる!」とかなんとか言いながら、踏ん反り返って命令してくる に違いない。
カレンが胸中でそんな事を思っていると、勘の良い我が国の王はジト目でこちらを見てきた。
「何か、良からぬ感想を抱いているように見えるのだが……。」
「いえいえ、そんな……気のせいですわ陛下。おほほほほほ。」
クリスティンの攻撃をさらりと躱し、カレンは北の国王に向き直る。
「ええと、返して欲しいとおっしゃられましたが、その……。」
――どう説明すればいいのかしら?
カレンは言葉に詰まった。
素直に聖剣の事を言った方がいいのだろうか?
『お宅の聖剣は、自ら動いて気に入らない相手をボコボコにしてしまうんです。』
――……な~んて言ったら、この王様なら泡吹いて倒れそうね。
カレンは目の前にいる気の弱そうな北の王を見ながら、そう感想を零した。
ふと、助け舟を求めて隣の夫を見ると、彼も同じような意見だったようで、困ったように眉を寄せながらこちらを見ていた。
――さて、どうしたものか……。
カレンが答えに困窮していると、それを否定と取ったのか北の国の王が溜息交じりに言ってきた。
「そうですよね、何十年も放置しておいて虫の良い話だと私も思っています。」
「陛下!!」
殆ど諦めた様子の北の国の王の言葉に、先程急き立ててきた外交官の男が痺れを切らせて声を上げてきた。
「そのような弱気でどうするのです。あの剣は先々代の形見。云わば我が国の国宝なのですぞ!!」
「いやしかし……もう何十年も前に無くして放置していた挙句、他国に渡った剣を今更返せとは……。」
「だぁぁぁぁぁぁ!!だからお前じゃダメなんだ!こうなったら儂が!!」
北の国の王のやる気のない言葉に、それまで慇懃に王に諂っていた筈の男の態度が豹変した。
場所は、”訪問”の際に使う部屋と同じ作りの部屋に通された。
違う所と言えば、いつも使っている部屋よりも王宮の更に奥にあるという位だった。
部屋にあるテーブルや椅子、壁を覆う分厚いカーテンなどは、いつも”訪問”で訪れる部屋と全く同じ内装だった。
そして用意された護衛も、クリスティンが良く侍らせている影達だ。
しかもその数は、警戒しているとは思えないほどに少ない。
いつもの”訪問”の時と変わらない、限られた人数しかいない、ひっそりとした雰囲気の部屋だった。
そして部屋の中には招待客として、カレンとレオナルド、国王であるクリスティンと北の国の王、そして北の国の王に付いて来た外交官たちが居た。
「こちらの我儘を聞いて頂いて申し訳ない。」
全員が席に着いたところで、北の国の王が口を開いた。
「いや、こちらこそ。このような部屋しか用意できず申し訳ない。」
北の国の王に、クリスティンが言葉を返した。
その言葉に、北の国の王は緩やかに首を振ると、カレンの方に視線を移してきた。
「今回の件は、我が国の不祥事とはいえ。私も秘密裏に行いたいと思っていました。余り公にしては、こちらのお嬢さんに迷惑も掛かってしまいますから。」
そう言いながらカレンを見る瞳は穏やかだ。
レオナルドから事前に北の国の情勢は聞いていたとはいえ、とてもではないが派閥争いや王権争いに巻き込まれて、切羽詰まっているようには見えなかった。
そして夫が懸念していたような、剣を取り戻しに来たようにも見えない。
――この方は、本当に心から謝罪しに来ただけのように見えるけど……。
カレンは何となくそう直感した。
「いえ、こちらこそ。長い間、剣の出所が分からず困っていましたので、こうやって謎が解けて良かったですわ。」
カレンは率直な感想を漏らした。
カレンの言葉に北の国の王は頷いた後、本題を切り出した。
「その件については長い間、迷惑をかけてしまったようで申し訳なく思っています。また、剣を大事に保管して頂き国民一同感謝しています。」
「いえ、そんな……。」
北の国の王の真摯な謝罪に、カレンは返って申し訳なく思えて慌てて首を振った。
すると、そんなカレンの様子を満足そうに見ていた北の王は、笑顔のまま話を続けた。
「それで、剣を確認したいのですが?」
「あ、はい。こちらに。」
カレンは何の警戒も無く、聖剣の納められている鞄を取り出しテーブルの上に置いた。
そして、鍵を開け蓋を開けると北の国の側から感嘆の声が漏れ聞こえてきた。
「ほぉ、これぞまさしく……。」
「ああ、文献にある挿絵の通りだ。」
「王よ間違いございませんぞ!」
「そうか……。」
北の国の王の背後で、聖剣を見下ろしながら口々に囃し立てる外交官たち。
彼らの言葉を聞きながら、北の王はどこか気乗りのしない表情で頷いていた。
「さあ、国王陛下。」
そして、北の国の王に一番近い所に居た外交官の一人が急き立てるように言ってきた。
その言葉に、北の国の王は小さく頷くと、言い辛そうな顔をしながら提案してきた。
「その……急で申し訳ないのだが、その聖剣を我が国に返して頂けないだろうか?」
「え?」
北の国の王はカレンに目を合わせながら、そう懇願してきた。
王とは思えないその低姿勢に、カレンだけならず、隣にいたレオナルドや、クリスティンまでもが驚いた顔をして見ていた。
――この王様、意外と気が小さいのかしら?
失礼だが、素直にそう思ってしまった。
斜め前にいる自国の王とは正反対だ。
クリスティンなら、「予が一生愛でてやる!」とかなんとか言いながら、踏ん反り返って命令してくる に違いない。
カレンが胸中でそんな事を思っていると、勘の良い我が国の王はジト目でこちらを見てきた。
「何か、良からぬ感想を抱いているように見えるのだが……。」
「いえいえ、そんな……気のせいですわ陛下。おほほほほほ。」
クリスティンの攻撃をさらりと躱し、カレンは北の国王に向き直る。
「ええと、返して欲しいとおっしゃられましたが、その……。」
――どう説明すればいいのかしら?
カレンは言葉に詰まった。
素直に聖剣の事を言った方がいいのだろうか?
『お宅の聖剣は、自ら動いて気に入らない相手をボコボコにしてしまうんです。』
――……な~んて言ったら、この王様なら泡吹いて倒れそうね。
カレンは目の前にいる気の弱そうな北の王を見ながら、そう感想を零した。
ふと、助け舟を求めて隣の夫を見ると、彼も同じような意見だったようで、困ったように眉を寄せながらこちらを見ていた。
――さて、どうしたものか……。
カレンが答えに困窮していると、それを否定と取ったのか北の国の王が溜息交じりに言ってきた。
「そうですよね、何十年も放置しておいて虫の良い話だと私も思っています。」
「陛下!!」
殆ど諦めた様子の北の国の王の言葉に、先程急き立ててきた外交官の男が痺れを切らせて声を上げてきた。
「そのような弱気でどうするのです。あの剣は先々代の形見。云わば我が国の国宝なのですぞ!!」
「いやしかし……もう何十年も前に無くして放置していた挙句、他国に渡った剣を今更返せとは……。」
「だぁぁぁぁぁぁ!!だからお前じゃダメなんだ!こうなったら儂が!!」
北の国の王のやる気のない言葉に、それまで慇懃に王に諂っていた筈の男の態度が豹変した。
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