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4.婚約者様は夜会がお嫌いな様ですが、わたくしもです
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会場に入ると想像していた通り、わたくしたちは注目を浴びる事になりました。
もちろん、皆様の視線はジークハルト様へ向けれられております。
輝くばかりのジークハルト様の前では、わたくしなど差し詰めメインディッシュの横にある、付け合わせの添え物程度に見える事でしょう。
わたくしの努力など霞んでしまうのは解っていた事ですので、特に落ち込むことも無く普段通りに笑顔を絶やさず隣にいる事が出来ました。
そして夜会が始まると、案の定ジークハルト様は沢山の方々に囲まれてしまったのでありました。
人嫌いのジークハルト様は思った通り、その美しいお顔を能面のようにしながら、途切れる事のない挨拶に一言のみで返されております。
そんな、ぞんざいな扱いにも、めげる事なく少しでもお近付きになりたい貴族達は尚も食い下がっておられました。
そうこうする内に、とうとう我慢し切れなくなったのはジークハルト様の方でした。
彼は、ローブを翻したかと思うと忽然と、その場から姿を消してしまったのです。
突然、目の前から居なくなってしまった宮廷魔術師に、貴族達は驚き辺りを見回します。
逃げられた事にようやく気付いた皆様は、諦めたように肩を落とすと、すごすごと退散していったのでありました。
さて、置いてけ堀になってしまったわたくしは、どうしようかと知り合いを探しつつ辺りを見回しておりますと、数人の御令嬢達が向こうからやって来るのに気づきました。
あら、あの方達は確か侯爵令嬢の……
「ご機嫌よう、バーバラ様。」
「ご機嫌よう、アマーリエ様。」
わたくし達は、階級に倣い目上の者から先に挨拶を交わしました。
侯爵令嬢のバーバラ様は、菫色の美しい髪をお持ちの品の良さそうな御令嬢なのですが、少々見た目と性格に差異のあるお方でした。
「アマーリエ様、今夜はジークハルト様とご一緒だとお聞きしましたが、肝心の婚約者様がお見えにならないようですわね。」
「おほほ、ジークハルト様は所用で少し席を外しておいでですの。」
挑戦的なバーバラ様に、さすがに本当の事は言えず、わたくしは言葉を濁します。
そんなわたくしの言葉に、バーバラ様は勝ち誇ったような顔をしながら仰ってきました。
「あら、先ほど見ておりましたが、ジークハルト様は忽然と消えてしまったようにお見受けしましたけど?まさか、アマーリエ様と一緒なのが嫌になってしまわれたのでは?あら失礼。」
と、不敬とも取れる物言いに、わたくしは思わず「まあ」と、はしたなくも声を上げてしまいました。
「まあ、その様な事……。ジークハルト様を見ていただなんて……。まさか、上級貴族である令嬢が、殿方を監視するような視線を向けていただなんて……。その様な、はしたない真似をバーバラ様がする筈ありませんわよねぇ?」
わたくしの言葉に、バーバラ様が「ぐぅ」と呻き声をあげます。
あら、はしたない、令嬢にあるまじき行為ですわよ?
わたくしは扇で口元を隠しながら、バーバラ様に微笑みます。
その視線に耐えきれなくなったのか、バーバラ様は「気分が優れませんので失礼。」と言うと、つんとそっぽを向いて去って行ってしまわれました。
なんともまあ、激しいお方のようです。
わたくしは少々呆気に取られながら、去って行くバーバラ様達を見送りました。
よくある令嬢同士の遣り取りを終え、一段落したわたくしは、近くにいた給仕に飲み物を取って来てもらい喉を潤しておりました。
その間にも、何人かの顔見知りの貴族の令嬢や子息たちと、言葉を交わして時間を潰しておりましたが、肝心のジークハルト様は、いつまで経っても帰って来る気配がありませんでした。
どうしようか迷っていたわたくしは、ふとある事を思いつき、中庭へと足を運びました。
もちろん、皆様の視線はジークハルト様へ向けれられております。
輝くばかりのジークハルト様の前では、わたくしなど差し詰めメインディッシュの横にある、付け合わせの添え物程度に見える事でしょう。
わたくしの努力など霞んでしまうのは解っていた事ですので、特に落ち込むことも無く普段通りに笑顔を絶やさず隣にいる事が出来ました。
そして夜会が始まると、案の定ジークハルト様は沢山の方々に囲まれてしまったのでありました。
人嫌いのジークハルト様は思った通り、その美しいお顔を能面のようにしながら、途切れる事のない挨拶に一言のみで返されております。
そんな、ぞんざいな扱いにも、めげる事なく少しでもお近付きになりたい貴族達は尚も食い下がっておられました。
そうこうする内に、とうとう我慢し切れなくなったのはジークハルト様の方でした。
彼は、ローブを翻したかと思うと忽然と、その場から姿を消してしまったのです。
突然、目の前から居なくなってしまった宮廷魔術師に、貴族達は驚き辺りを見回します。
逃げられた事にようやく気付いた皆様は、諦めたように肩を落とすと、すごすごと退散していったのでありました。
さて、置いてけ堀になってしまったわたくしは、どうしようかと知り合いを探しつつ辺りを見回しておりますと、数人の御令嬢達が向こうからやって来るのに気づきました。
あら、あの方達は確か侯爵令嬢の……
「ご機嫌よう、バーバラ様。」
「ご機嫌よう、アマーリエ様。」
わたくし達は、階級に倣い目上の者から先に挨拶を交わしました。
侯爵令嬢のバーバラ様は、菫色の美しい髪をお持ちの品の良さそうな御令嬢なのですが、少々見た目と性格に差異のあるお方でした。
「アマーリエ様、今夜はジークハルト様とご一緒だとお聞きしましたが、肝心の婚約者様がお見えにならないようですわね。」
「おほほ、ジークハルト様は所用で少し席を外しておいでですの。」
挑戦的なバーバラ様に、さすがに本当の事は言えず、わたくしは言葉を濁します。
そんなわたくしの言葉に、バーバラ様は勝ち誇ったような顔をしながら仰ってきました。
「あら、先ほど見ておりましたが、ジークハルト様は忽然と消えてしまったようにお見受けしましたけど?まさか、アマーリエ様と一緒なのが嫌になってしまわれたのでは?あら失礼。」
と、不敬とも取れる物言いに、わたくしは思わず「まあ」と、はしたなくも声を上げてしまいました。
「まあ、その様な事……。ジークハルト様を見ていただなんて……。まさか、上級貴族である令嬢が、殿方を監視するような視線を向けていただなんて……。その様な、はしたない真似をバーバラ様がする筈ありませんわよねぇ?」
わたくしの言葉に、バーバラ様が「ぐぅ」と呻き声をあげます。
あら、はしたない、令嬢にあるまじき行為ですわよ?
わたくしは扇で口元を隠しながら、バーバラ様に微笑みます。
その視線に耐えきれなくなったのか、バーバラ様は「気分が優れませんので失礼。」と言うと、つんとそっぽを向いて去って行ってしまわれました。
なんともまあ、激しいお方のようです。
わたくしは少々呆気に取られながら、去って行くバーバラ様達を見送りました。
よくある令嬢同士の遣り取りを終え、一段落したわたくしは、近くにいた給仕に飲み物を取って来てもらい喉を潤しておりました。
その間にも、何人かの顔見知りの貴族の令嬢や子息たちと、言葉を交わして時間を潰しておりましたが、肝心のジークハルト様は、いつまで経っても帰って来る気配がありませんでした。
どうしようか迷っていたわたくしは、ふとある事を思いつき、中庭へと足を運びました。
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