上 下
4 / 19

4.婚約者様は夜会がお嫌いな様ですが、わたくしもです

しおりを挟む
会場に入ると想像していた通り、わたくしたちは注目を浴びる事になりました。
もちろん、皆様の視線はジークハルト様へ向けれられております。
輝くばかりのジークハルト様の前では、わたくしなど差し詰めメインディッシュの横にある、付け合わせの添え物程度に見える事でしょう。
わたくしの努力など霞んでしまうのは解っていた事ですので、特に落ち込むことも無く普段通りに笑顔を絶やさず隣にいる事が出来ました。

そして夜会が始まると、案の定ジークハルト様は沢山の方々に囲まれてしまったのでありました。
人嫌いのジークハルト様は思った通り、その美しいお顔を能面のようにしながら、途切れる事のない挨拶に一言のみで返されております。
そんな、ぞんざいな扱いにも、めげる事なく少しでもお近付きになりたい貴族達は尚も食い下がっておられました。

そうこうする内に、とうとう我慢し切れなくなったのはジークハルト様の方でした。
彼は、ローブを翻したかと思うと忽然と、その場から姿を消してしまったのです。
突然、目の前から居なくなってしまった宮廷魔術師に、貴族達は驚き辺りを見回します。
逃げられた事にようやく気付いた皆様は、諦めたように肩を落とすと、すごすごと退散していったのでありました。

さて、置いてけ堀になってしまったわたくしは、どうしようかと知り合いを探しつつ辺りを見回しておりますと、数人の御令嬢達が向こうからやって来るのに気づきました。

あら、あの方達は確か侯爵令嬢の……

「ご機嫌よう、バーバラ様。」

「ご機嫌よう、アマーリエ様。」

わたくし達は、階級に倣い目上の者から先に挨拶を交わしました。
侯爵令嬢のバーバラ様は、菫色の美しい髪をお持ちの品の良さそうな御令嬢なのですが、少々見た目と性格に差異のあるお方でした。

「アマーリエ様、今夜はジークハルト様とご一緒だとお聞きしましたが、肝心の婚約者様がお見えにならないようですわね。」

「おほほ、ジークハルト様は所用で少し席を外しておいでですの。」

挑戦的なバーバラ様に、さすがに本当の事は言えず、わたくしは言葉を濁します。
そんなわたくしの言葉に、バーバラ様は勝ち誇ったような顔をしながら仰ってきました。

「あら、先ほど見ておりましたが、ジークハルト様は忽然と消えてしまったようにお見受けしましたけど?まさか、アマーリエ様と一緒なのが嫌になってしまわれたのでは?あら失礼。」

と、不敬とも取れる物言いに、わたくしは思わず「まあ」と、はしたなくも声を上げてしまいました。

「まあ、その様な事……。ジークハルト様を見ていただなんて……。まさか、上級貴族である令嬢が、殿方を監視するような視線を向けていただなんて……。その様な、はしたない真似をバーバラ様がする筈ありませんわよねぇ?」

わたくしの言葉に、バーバラ様が「ぐぅ」と呻き声をあげます。

あら、はしたない、令嬢にあるまじき行為ですわよ?

わたくしは扇で口元を隠しながら、バーバラ様に微笑みます。
その視線に耐えきれなくなったのか、バーバラ様は「気分が優れませんので失礼。」と言うと、つんとそっぽを向いて去って行ってしまわれました。

なんともまあ、激しいお方のようです。

わたくしは少々呆気に取られながら、去って行くバーバラ様達を見送りました。
よくある令嬢同士の遣り取りを終え、一段落したわたくしは、近くにいた給仕に飲み物を取って来てもらい喉を潤しておりました。
その間にも、何人かの顔見知りの貴族の令嬢や子息たちと、言葉を交わして時間を潰しておりましたが、肝心のジークハルト様は、いつまで経っても帰って来る気配がありませんでした。
どうしようか迷っていたわたくしは、ふとある事を思いつき、中庭へと足を運びました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

(完結)親友の未亡人がそれほど大事ですか?

青空一夏
恋愛
「お願いだよ。リーズ。わたしはあなただけを愛すると誓う。これほど君を愛しているのはわたしだけだ」  婚約者がいる私に何度も言い寄ってきたジャンはルース伯爵家の4男だ。 私には家族ぐるみでお付き合いしている婚約者エルガー・バロワ様がいる。彼はバロワ侯爵家の三男だ。私の両親はエルガー様をとても気に入っていた。優秀で冷静沈着、理想的なお婿さんになってくれるはずだった。  けれどエルガー様が女性と抱き合っているところを目撃して以来、私はジャンと仲良くなっていき婚約解消を両親にお願いしたのだった。その後、ジャンと結婚したが彼は・・・・・・ ※この世界では女性は爵位が継げない。跡継ぎ娘と結婚しても婿となっただけでは当主にはなれない。婿養子になって始めて当主の立場と爵位継承権や財産相続権が与えられる。西洋の史実には全く基づいておりません。独自の異世界のお話しです。 ※現代的言葉遣いあり。現代的機器や商品など出てくる可能性あり。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

私をもう愛していないなら。

水垣するめ
恋愛
 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。  空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。  私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。  街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。  見知った女性と一緒に。  私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。 「え?」  思わず私は声をあげた。  なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。  二人に接点は無いはずだ。  会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。  それが、何故?  ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。  結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。  私の胸の内に不安が湧いてくる。 (駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)  その瞬間。  二人は手を繋いで。  キスをした。 「──」  言葉にならない声が漏れた。  胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。  ──アイクは浮気していた。

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

大嫌いな令嬢

緑谷めい
恋愛
 ボージェ侯爵家令嬢アンヌはアシャール侯爵家令嬢オレリアが大嫌いである。ほとんど「憎んでいる」と言っていい程に。  同家格の侯爵家に、たまたま同じ年、同じ性別で産まれたアンヌとオレリア。アンヌには5歳年上の兄がいてオレリアには1つ下の弟がいる、という点は少し違うが、ともに実家を継ぐ男兄弟がいて、自らは将来他家に嫁ぐ立場である、という事は同じだ。その為、幼い頃から何かにつけて、二人の令嬢は周囲から比較をされ続けて来た。  アンヌはうんざりしていた。  アンヌは可愛らしい容姿している。だが、オレリアは幼い頃から「可愛い」では表現しきれぬ、特別な美しさに恵まれた令嬢だった。そして、成長するにつれ、ますますその美貌に磨きがかかっている。  そんな二人は今年13歳になり、ともに王立貴族学園に入学した。

処理中です...