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第九話 雇われ獣人の葛藤(アッシュside)
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彼女を初めて見た時、全身に衝撃が走った。
「初めまして、サリーナといいます。」
小さな体を小鹿のように震えさせ、こちらを不安そうな顔で見上げる彼女から視線が外せなかった。
緊張から、つい素っ気ない態度を取ってしまった。
しかも、クエストに行った先でも、あまりの衝撃に自分の方がミスをしないかと、そればかりが気になってしまい、彼女と会話すらまともに出来やしなかった。
しかも、大分冷たい態度を取っていた自信がある。
後から気づいて、もっと優しくできなかったのかと頭を抱えたくらいだ。
そして、彼女とのクエストもようやく終わり帰ろうとした所、なんと彼女から食事に誘われたのだった。
しかし放心状態だった俺は、彼女の誘いを断ってしまったのだった。
過去に戻れるのなら、あの時の俺を殴ってやりたい。
そして失敗に気づき項垂れながら家に帰ったアッシュは、誰もいないリビングで盛大な溜息を吐いたのだった。
「まさか番が、あんなにも凄いものだったなんて……。」
アッシュはそう呟きながら昔、成人し家を出る時に親父から言われた言葉を思い出していた。
「お前も、ようやく独り立ちか……。だが気を抜くなよ、番を見つけてこそ一人前なのだからな。」
あの時言われた言葉の意味が、ようやく理解できた。
番なんていう一生に一度現れるかどうかわからないものに、何をそんなに躍起になっているんだと、あの当時は正直バカにしていた。
たかだか結婚相手が見つかる位だろうと、高を括っていたのだ。
それなのに……
「番の吸引力、やべぇ。」
アッシュは、搾り出すような声で呟いたのであった。
見た瞬間、ビビっと電流が走り、それからは彼女の事ばかり気になってしまって仕方が無かった。
常に側に居ないと不安になり、危険に晒された時なんかはもう……
今すぐにでも、誰にも見つからない場所に閉じ込めてしまいたくなる衝動にかられて大変だった。
アッシュとしては、そんな事はしたくはない……したくはないが、本能がそうしろと命令してくるのだ。
囲ってお前のものにしてしまえ、と悪魔の声が直ぐ近くで囁いているような感覚に見舞われ、その衝動と葛藤で大変だった。
「そんな事できねぇし、したくもない……。」
アッシュは己の中で燻る本能に向かって、吐き捨てるように呟いたのであった。
次の日、何とか平静を装ってギルドに向かうと、幸運なことに彼女の姿は無かった。
アッシュは若干落胆しつつ、ギルドの奥にある控室に入ると、そこには受付嬢達が居た。
彼女たちは日課の掃除をしていたらしく、いつもの軽快な挨拶をしてきた。
アッシュはそれに軽く手を上げて応えると、所定の位置に腰掛ける。
すると受付嬢達は、何やらこちらを見ながらヒソヒソと内緒話をしていたのであった。
女はああいうの好きだよな、と無視を決め込んでいると受付嬢達が声をかけてきた。
「あの~、アッシュさん。」
「……なんだ?」
アッシュは受付嬢の言葉に、わざと眠そうな声で返した。
しかし次の瞬間、受付嬢から発せられた言葉に目を剥くのであった。
「もしかして……番、見つかりました?」
思わず受付嬢達を見ると、彼女たちは「やっぱり♪」と目を輝かせながら、興奮気味に騒ぎ出したのだった。
「きゃ~合ってたわよ、どうする?」
「うっそ、マジ!?」
「やっぱり、相手はサリーナさんですか?」
きゃっきゃっ、とはしゃぐ受付嬢達からド直球な質問をされ、アッシュは思わず咽てしまったのであった。
「ああ~、大丈夫ですか~?」
「あらあら♪でも、番が見つかって良かったですね~♪」
「なっ、ちがっ!」
「うふふふ~照れなくていいんですよ~もう♪」
アッシュは違うと否定したかったが、三人の受付嬢達のマシンガントークにアッシュの声が掻き消されてしまう。
あわあわしているうちに、受付嬢達は言いたい事を言って気が済んだのか、「頑張ってくださいね~♪」と言いながら部屋を出て行ってしまったのであった。
後に残されたアッシュは、まだ誰も居ない部屋の中で真っ赤な顔で口を開けたまま佇んでいたのであった。
こーなったら、あの受付嬢達にも協力させてやる!
受付嬢達の面白がる姿に、とうとう堪え切れなくなったアッシュは開き直ったのだった。
早速、受付嬢達を捕まえると協定を結ばせたのであった。
「いいか、サリーナがサポートを受ける際はバディは俺にしろ。」
「え、でもぉ……。」
「俺に番ができて嬉しいんだろ?応援するんだろ?」
渋る受付嬢達に、アッシュがそう言って凄むと、彼女たちは渋々引き受けたのであった。
そしてアッシュの命令通り、サリーナのバディはアッシュが受け持つようになった。
しかもそれとなく、他のバディたちにも相談という名の釘を刺しておいたお陰で、誰も無理に彼女のバディになろうというものは居なかった。
それよりも、応援してくれる者まで居て非常に助かったのであった。
そんなこんなで、外堀から埋め始めたアッシュは、サリーナと親しくなるために、血の滲む様な努力をしたのであった。
まず最初に指摘されたのは、言葉遣いと素っ気ない態度であった。
『それでは、幾ら顔が良くても女性に嫌われてしまう』
と、先輩や同僚たちからアドバイスを受け、彼女の前で極力優しい態度と言葉遣いを心掛けた。
そのお陰で半年もすると、彼女から警戒されるような事が無くなり、今では信頼の眼差しを向けて貰えるようになった。
これには、思わずガッツポーズをしてしまった。
無邪気に笑う彼女に何度癒された事か。
お陰で、身の内に燻る本能に抗うのも苦では無かった。
相変わらず、押し倒してしまいたくなる衝動はあったが、彼女の笑顔を見れるだけで我慢できる。
しかしそんな折、何故か彼女がパーティーを探し始めたのだった。
その事に気づいた時、「何故?」と頭の中がパニックになった。
しかしアッシュは直ぐに我に返ると「それが彼女に必要な事ならば見守ってやらねば」と、思う事にした。
そんな考えができたのも、彼女からの信頼を得られて余裕があったお陰だった。
しかし……
そんなアッシュの思いも虚しく、サリーナにパーティーの相手が決まりそうになると、気が付くと彼女の背後で威嚇している己がいたのだった。
何度も自己嫌悪に陥りながら辞めようと努力してみるのだが、それでも無意識の内にやってしまうのでどうする事も出来なかった。
受付嬢達にジト目で見られながら、アッシュは己の決心の弱さに項垂れるのであった。
そして、そんな事をしている内に事件は起きた。
何故か、知り合いの獣人が彼女に喧嘩を売ってきたのである。
騒然とするギルドの中で、彼女が攻められている姿を見て頭に血が昇ってしまった。
気がついたら、彼女を庇うように前に出て女獣人に威嚇していたのだった。
俺の怒りに恐れを成して怯んだ女獣人は、何か言っていたが俺が真面目に答えていると、何故か大声を上げて立ち去ってしまったのだった。
そんな女獣人を冷めた目で見た後、彼女に怪我はなかったかと心配していると、彼女がお礼を言ってきてくれたのであった。
その言葉に、彼女を守れて良かったと嬉しくなる。
そして彼女は、その時を境に一層クエストに精を出すようになり、俺はそんな彼女をできる限り応援したのであった。
そして、彼女と出会ってから早2年。
とうとう彼女は銀等級を手に入れたのであった。
そして嬉しい事に、彼女からクエストの同行の誘いが来た俺は、このクエストが終わった後、彼女に告白することを決心したのであった。
しかし――
「まさか、あそこで別れを切り出されるとは思わなかった……。」
アッシュは当時の事を思い出しながら、しみじみと呟いていたのであった。
その横では、当時の彼の話を聞いていたサリーナが、神妙な顔で俯いている姿があった。
「ま、まさか、そんな風に思ってくれてたなんて知らなくて……その……」
「ん?」
「そ、その……すみません。」
小さく縮こまるサリーナが、これまた小さな声で謝罪の言葉を伝えると、アッシュは目を丸くして彼女を見てきた。
そして、すぐに優しい眼差しで彼女を見る。
「別に、怒ってないさ。俺もあの時は、すまなかった。」
「え?」
アッシュの言葉に、サリーナはキョトンとする。
「いや……その、なんだ……あの時はいきなり押し倒したりしたし……それに、それ以上の事も……。」
意味が分からないと見上げてくるサリーナに、アッシュは恥ずかしそうに言い淀む。
しかし、アッシュの言葉を聞いていたサリーナも彼の言いたい事に気づいたのか、同じように頬を染めると首を横に振ってきたのだった。
「わ、私も怒っていません。そ、その……私もアッシュさんのこと好きでしたから……。」
「ほ、ほんとうか!?」
思わぬ彼女の告白に、アッシュはがばりと身を起こす。
「きゃっ。」
「ああ、すまない!」
その途端、アッシュの膝の上に座っていたサリーナが落ちそうになってしまい、アッシュは慌てて彼女を抱き抱えたのだった。
「だ、大丈夫です。」
「そうか。でも、もう自分だけの体じゃないから気を付けないとな。」
「は、はい……。」
アッシュの言葉に、サリーナは恥ずかしそうに頷く。
そんな彼女を、アッシュは大事そうに抱え直すと少しだけ膨らんできたお腹を擦ってきたのであった。
「早く会いたいな。」
「ええ。」
アッシュの言葉にサリーナも頷く。
「……あの二人、ここがギルドだって気づいてるんですかねぇ?」
「う~ん、二人の世界に入ってるから、見えてないんじゃない?」
その横では、ギルドのカウンターで暇を持て余していた受付嬢達が、過保護すぎるアッシュを見ながら、ヒソヒソと話していたのであった。
あの後、ようやくギルドへと戻ってきたアッシュとサリーナはパーティーを組んだ。
しかも、結婚までしてしまったのである。
結婚については、アッシュは元々そのつもりだったようだ。
そんなアッシュに受付嬢達は、どうやって口説き落したのかと、しつこく聞いてきたのであった。
「まさか、家まで用意していたなんて思わなかったけどね~。」
「そお?アッシュさんってば、それとなくサリーナさんから好みを聞いてたわよ?」
「それ本当!?」
「本当に、不器用何だか器用なんだか分からない人よね~。
「ほんとほんとw。」
受付嬢達は、イチャイチャする新婚夫婦を遠巻きに眺めながら呆れたように肩を竦めたのであった。
まあ何はともあれ、元々惹かれ合っていた二人の事に最初から気づいていた受付嬢達は、そんな二人がいつくっ付くのかとヤキモキしていたのだが、二人が一緒になるという報告を聞いて、「ようやく落ち着く所へ落ち着いたか」とホッと胸を撫で下ろしたのであった。
そして、そんなサリーナとアッシュは今ではギルドでは有名な、おしどり夫婦として仲睦まじく暮らしたのであったとさ。
おわり
---------------------------------------------------------------------------------------
やっと終わりました!
アッシュsideいかがでしたでしょうか?
番の色気に対する彼の葛藤やら努力やらが読者の皆様に伝わったのか不安ですが……(汗)
とりあえず二人は、ずっとイチャイチャラブラブ夫婦で、後にお子ちゃまたくさん生まれて幸せに暮らす事になります(笑)
それでは、最後までお読み頂きありがとうございました!
「初めまして、サリーナといいます。」
小さな体を小鹿のように震えさせ、こちらを不安そうな顔で見上げる彼女から視線が外せなかった。
緊張から、つい素っ気ない態度を取ってしまった。
しかも、クエストに行った先でも、あまりの衝撃に自分の方がミスをしないかと、そればかりが気になってしまい、彼女と会話すらまともに出来やしなかった。
しかも、大分冷たい態度を取っていた自信がある。
後から気づいて、もっと優しくできなかったのかと頭を抱えたくらいだ。
そして、彼女とのクエストもようやく終わり帰ろうとした所、なんと彼女から食事に誘われたのだった。
しかし放心状態だった俺は、彼女の誘いを断ってしまったのだった。
過去に戻れるのなら、あの時の俺を殴ってやりたい。
そして失敗に気づき項垂れながら家に帰ったアッシュは、誰もいないリビングで盛大な溜息を吐いたのだった。
「まさか番が、あんなにも凄いものだったなんて……。」
アッシュはそう呟きながら昔、成人し家を出る時に親父から言われた言葉を思い出していた。
「お前も、ようやく独り立ちか……。だが気を抜くなよ、番を見つけてこそ一人前なのだからな。」
あの時言われた言葉の意味が、ようやく理解できた。
番なんていう一生に一度現れるかどうかわからないものに、何をそんなに躍起になっているんだと、あの当時は正直バカにしていた。
たかだか結婚相手が見つかる位だろうと、高を括っていたのだ。
それなのに……
「番の吸引力、やべぇ。」
アッシュは、搾り出すような声で呟いたのであった。
見た瞬間、ビビっと電流が走り、それからは彼女の事ばかり気になってしまって仕方が無かった。
常に側に居ないと不安になり、危険に晒された時なんかはもう……
今すぐにでも、誰にも見つからない場所に閉じ込めてしまいたくなる衝動にかられて大変だった。
アッシュとしては、そんな事はしたくはない……したくはないが、本能がそうしろと命令してくるのだ。
囲ってお前のものにしてしまえ、と悪魔の声が直ぐ近くで囁いているような感覚に見舞われ、その衝動と葛藤で大変だった。
「そんな事できねぇし、したくもない……。」
アッシュは己の中で燻る本能に向かって、吐き捨てるように呟いたのであった。
次の日、何とか平静を装ってギルドに向かうと、幸運なことに彼女の姿は無かった。
アッシュは若干落胆しつつ、ギルドの奥にある控室に入ると、そこには受付嬢達が居た。
彼女たちは日課の掃除をしていたらしく、いつもの軽快な挨拶をしてきた。
アッシュはそれに軽く手を上げて応えると、所定の位置に腰掛ける。
すると受付嬢達は、何やらこちらを見ながらヒソヒソと内緒話をしていたのであった。
女はああいうの好きだよな、と無視を決め込んでいると受付嬢達が声をかけてきた。
「あの~、アッシュさん。」
「……なんだ?」
アッシュは受付嬢の言葉に、わざと眠そうな声で返した。
しかし次の瞬間、受付嬢から発せられた言葉に目を剥くのであった。
「もしかして……番、見つかりました?」
思わず受付嬢達を見ると、彼女たちは「やっぱり♪」と目を輝かせながら、興奮気味に騒ぎ出したのだった。
「きゃ~合ってたわよ、どうする?」
「うっそ、マジ!?」
「やっぱり、相手はサリーナさんですか?」
きゃっきゃっ、とはしゃぐ受付嬢達からド直球な質問をされ、アッシュは思わず咽てしまったのであった。
「ああ~、大丈夫ですか~?」
「あらあら♪でも、番が見つかって良かったですね~♪」
「なっ、ちがっ!」
「うふふふ~照れなくていいんですよ~もう♪」
アッシュは違うと否定したかったが、三人の受付嬢達のマシンガントークにアッシュの声が掻き消されてしまう。
あわあわしているうちに、受付嬢達は言いたい事を言って気が済んだのか、「頑張ってくださいね~♪」と言いながら部屋を出て行ってしまったのであった。
後に残されたアッシュは、まだ誰も居ない部屋の中で真っ赤な顔で口を開けたまま佇んでいたのであった。
こーなったら、あの受付嬢達にも協力させてやる!
受付嬢達の面白がる姿に、とうとう堪え切れなくなったアッシュは開き直ったのだった。
早速、受付嬢達を捕まえると協定を結ばせたのであった。
「いいか、サリーナがサポートを受ける際はバディは俺にしろ。」
「え、でもぉ……。」
「俺に番ができて嬉しいんだろ?応援するんだろ?」
渋る受付嬢達に、アッシュがそう言って凄むと、彼女たちは渋々引き受けたのであった。
そしてアッシュの命令通り、サリーナのバディはアッシュが受け持つようになった。
しかもそれとなく、他のバディたちにも相談という名の釘を刺しておいたお陰で、誰も無理に彼女のバディになろうというものは居なかった。
それよりも、応援してくれる者まで居て非常に助かったのであった。
そんなこんなで、外堀から埋め始めたアッシュは、サリーナと親しくなるために、血の滲む様な努力をしたのであった。
まず最初に指摘されたのは、言葉遣いと素っ気ない態度であった。
『それでは、幾ら顔が良くても女性に嫌われてしまう』
と、先輩や同僚たちからアドバイスを受け、彼女の前で極力優しい態度と言葉遣いを心掛けた。
そのお陰で半年もすると、彼女から警戒されるような事が無くなり、今では信頼の眼差しを向けて貰えるようになった。
これには、思わずガッツポーズをしてしまった。
無邪気に笑う彼女に何度癒された事か。
お陰で、身の内に燻る本能に抗うのも苦では無かった。
相変わらず、押し倒してしまいたくなる衝動はあったが、彼女の笑顔を見れるだけで我慢できる。
しかしそんな折、何故か彼女がパーティーを探し始めたのだった。
その事に気づいた時、「何故?」と頭の中がパニックになった。
しかしアッシュは直ぐに我に返ると「それが彼女に必要な事ならば見守ってやらねば」と、思う事にした。
そんな考えができたのも、彼女からの信頼を得られて余裕があったお陰だった。
しかし……
そんなアッシュの思いも虚しく、サリーナにパーティーの相手が決まりそうになると、気が付くと彼女の背後で威嚇している己がいたのだった。
何度も自己嫌悪に陥りながら辞めようと努力してみるのだが、それでも無意識の内にやってしまうのでどうする事も出来なかった。
受付嬢達にジト目で見られながら、アッシュは己の決心の弱さに項垂れるのであった。
そして、そんな事をしている内に事件は起きた。
何故か、知り合いの獣人が彼女に喧嘩を売ってきたのである。
騒然とするギルドの中で、彼女が攻められている姿を見て頭に血が昇ってしまった。
気がついたら、彼女を庇うように前に出て女獣人に威嚇していたのだった。
俺の怒りに恐れを成して怯んだ女獣人は、何か言っていたが俺が真面目に答えていると、何故か大声を上げて立ち去ってしまったのだった。
そんな女獣人を冷めた目で見た後、彼女に怪我はなかったかと心配していると、彼女がお礼を言ってきてくれたのであった。
その言葉に、彼女を守れて良かったと嬉しくなる。
そして彼女は、その時を境に一層クエストに精を出すようになり、俺はそんな彼女をできる限り応援したのであった。
そして、彼女と出会ってから早2年。
とうとう彼女は銀等級を手に入れたのであった。
そして嬉しい事に、彼女からクエストの同行の誘いが来た俺は、このクエストが終わった後、彼女に告白することを決心したのであった。
しかし――
「まさか、あそこで別れを切り出されるとは思わなかった……。」
アッシュは当時の事を思い出しながら、しみじみと呟いていたのであった。
その横では、当時の彼の話を聞いていたサリーナが、神妙な顔で俯いている姿があった。
「ま、まさか、そんな風に思ってくれてたなんて知らなくて……その……」
「ん?」
「そ、その……すみません。」
小さく縮こまるサリーナが、これまた小さな声で謝罪の言葉を伝えると、アッシュは目を丸くして彼女を見てきた。
そして、すぐに優しい眼差しで彼女を見る。
「別に、怒ってないさ。俺もあの時は、すまなかった。」
「え?」
アッシュの言葉に、サリーナはキョトンとする。
「いや……その、なんだ……あの時はいきなり押し倒したりしたし……それに、それ以上の事も……。」
意味が分からないと見上げてくるサリーナに、アッシュは恥ずかしそうに言い淀む。
しかし、アッシュの言葉を聞いていたサリーナも彼の言いたい事に気づいたのか、同じように頬を染めると首を横に振ってきたのだった。
「わ、私も怒っていません。そ、その……私もアッシュさんのこと好きでしたから……。」
「ほ、ほんとうか!?」
思わぬ彼女の告白に、アッシュはがばりと身を起こす。
「きゃっ。」
「ああ、すまない!」
その途端、アッシュの膝の上に座っていたサリーナが落ちそうになってしまい、アッシュは慌てて彼女を抱き抱えたのだった。
「だ、大丈夫です。」
「そうか。でも、もう自分だけの体じゃないから気を付けないとな。」
「は、はい……。」
アッシュの言葉に、サリーナは恥ずかしそうに頷く。
そんな彼女を、アッシュは大事そうに抱え直すと少しだけ膨らんできたお腹を擦ってきたのであった。
「早く会いたいな。」
「ええ。」
アッシュの言葉にサリーナも頷く。
「……あの二人、ここがギルドだって気づいてるんですかねぇ?」
「う~ん、二人の世界に入ってるから、見えてないんじゃない?」
その横では、ギルドのカウンターで暇を持て余していた受付嬢達が、過保護すぎるアッシュを見ながら、ヒソヒソと話していたのであった。
あの後、ようやくギルドへと戻ってきたアッシュとサリーナはパーティーを組んだ。
しかも、結婚までしてしまったのである。
結婚については、アッシュは元々そのつもりだったようだ。
そんなアッシュに受付嬢達は、どうやって口説き落したのかと、しつこく聞いてきたのであった。
「まさか、家まで用意していたなんて思わなかったけどね~。」
「そお?アッシュさんってば、それとなくサリーナさんから好みを聞いてたわよ?」
「それ本当!?」
「本当に、不器用何だか器用なんだか分からない人よね~。
「ほんとほんとw。」
受付嬢達は、イチャイチャする新婚夫婦を遠巻きに眺めながら呆れたように肩を竦めたのであった。
まあ何はともあれ、元々惹かれ合っていた二人の事に最初から気づいていた受付嬢達は、そんな二人がいつくっ付くのかとヤキモキしていたのだが、二人が一緒になるという報告を聞いて、「ようやく落ち着く所へ落ち着いたか」とホッと胸を撫で下ろしたのであった。
そして、そんなサリーナとアッシュは今ではギルドでは有名な、おしどり夫婦として仲睦まじく暮らしたのであったとさ。
おわり
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やっと終わりました!
アッシュsideいかがでしたでしょうか?
番の色気に対する彼の葛藤やら努力やらが読者の皆様に伝わったのか不安ですが……(汗)
とりあえず二人は、ずっとイチャイチャラブラブ夫婦で、後にお子ちゃまたくさん生まれて幸せに暮らす事になります(笑)
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冒頭の遣り取りに繋げるため、ヒロインの心理描写は極力少なくしておりました。サリーナが先に告白しちゃうと成り立たないので(笑)まあ後は、作者の力不足です^^;
最後までお読み頂きありがとうございました。
面白くて一気読みをしました❤️
感想ありがとうございます。
面白いと言って頂いて恐縮です^^
読んで頂きありがとうございました!
感想ありがとうございます。
それを聞いて安心しました^^; ヒーローsideは近日中に掲載する予定です。もうしばらくお待ちくださいませ^^
お読み頂きありがとうございました。