僕のおつかい

麻竹

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第二章【旅路編】

14.雷皇山

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足元に気を付けながら暫く山を登って行くと、吹雪の中に薄っすらと明かりが見えてきた。

「たぶんあそこです!」

二コルの声を合図に、急ぎ足で明かりを目指す。
そして、ようやく目の前に大きな建物が現れると、マクレーン達は驚いた様子で、その建物を見上げた。
その建物は、まるで目印のように建物全体が煌々と明るく輝いていたのだった。

「確か、黄の魔女様が発明家や研究者の方達用に建てた施設なのですが、登山者用の仮眠室も用意されてるんですよ。あと、こうやって吹雪いた時には遭難者が分かりやすいようにって、建物中をランプで覆っているんだそうです。ありがたいですよね。」

二コルは自慢げに言いながら、屋敷のような施設の扉を叩いた。
暫くすると、扉の中央に付いていた小窓から声が聞こえてきた。

「はい。」

「あ、あの、僕達山で遭難してしまって……。」

「……少しお待ちください。」

応答してきたのは男性の声で、淡々とした遣り取りの後、ブツリ、という無機質な音が小さく聞こえたかと思ったら、屋敷の扉がガチャリと開いた。

「どうぞ、お入りください。」

そう言って扉を開けて招き入れてくれたのは、白衣に身を包んだ無精髭を生やした男だった。
扉の小窓で対応していた声と同じところを見ると、同一人物らしい。
どこかの科学者のような出で立ちをした男は、淡々とした声でマクレーン達に話しかけてきた。

「今居る場所がエントランスで、左右にある扉が休憩所兼仮眠室となっています。奥の中央階段から上は研究施設となっているので、部外者は入らないでください。それでは僕は研究がありますので。」

白衣の男は、早口にそう言うと、さっさと中央階段を上って奥の部屋へと入って行ってしまった。
その場に取り残されたマクレーン達は、お礼を言うのも忘れてぽかんとしている。

「と、とりあえず、入れて貰えて良かったですね。」

「そ、そうですね。」

「あ~腹減った~、何か食べる物あるかな?」

なんとか笑顔で場を取り繕っていると、空気を読まない男の声が聞こえてきた。
その声に、マクレーンの米神が久々に、ぴきりとなる。

「とりあえず、部屋を借りましょう。中に温まれる場所があるといいんですが……。」

「あ、中に休憩用の大部屋と暖炉もありますよ!他にも扉があるので、そこが仮眠室みたいですね。」

マクレーンの言葉に、二コルがすかさず部屋の中を確認しながら教えてきてくれた。

「良かった、じゃあ火をつけて体を乾かしましょう。カーラお願いできる?」

「任せて♪」

マクレーンの言葉に、火の精霊は部屋に入ると暖炉に積んであった薪に火を点けてくれた。
精霊の力のお陰か、火は勢いよく燃え出しあっという間に部屋中を暖かくした。
そして火の精霊は、一仕事終わったと大きな欠伸をしたあと「少し休むわね~」と言って、暖炉の火の中に吸い込まれるように消えてしまったのだった。
マクレーン達はとりあえず、濡れてしまった防寒具を脱いで壁に掛けると、部屋の中に幾つかある椅子に腰かけて暖炉にあたった。

「ふう、一時はどうなる事かと思いましたね。……て、アランさん何してるんですか?」

暖炉で体を乾かしていたマクレーンが、安堵の息を吐きながら、ふとアランの行動に気が付き声をかけてきた。

「ん~?いや、何かないかな~って……。」

そう言って振り向いたアランの手には、何かが入った籠が抱えられていた。
そして、ぽりぽりと何かを食べている。

「……アランさん、それ、どこで見つけてきたんですか?」

「ん?なんか扉の前にあったぞ。」

そう言って、また籠の中から一つ取り出すと、口の中に放り込んでいた。
ぽりぽりと、咀嚼音だけが虚しく響いてくる。

「変なもの拾ってこないでください!!」

ややあってから、マクレーンがくわっと目を見開いてそう叫んできた。

「え?変なものなのかこれ?なんかクッキーみたいだし、美味いぞ。」

そう言ってまた一つ口の中に入れる。
その緊張感のないアランの様子に、マクレーンは口をパクパクさせながら固まってしまった。

「いや、アランさん、さすがに誰が持ってきたかもわからないものを、口に入れるのはちょっと……。」

アランに遠慮がちにそう言いながら、二コルも口元を引き攣らせていた。

「あ、何か籠に手紙のようなものが入ってますよ?」

二コルの指摘に、籠の中を覗くと、こんがり焼けたクッキーの他に、二つに折られた小さな紙切れが入っていた。
マクレーンは紙を手にすると、広げてみた。

そこには――

――私を食べて――

と、書いてあるだけだった。
その文章を見て、マクレーンはぴしりと固まる。

「食べてって書いてあるから、別に食べてもいいんじゃないか?」

マクレーンの手の中を覗いていたアランが、呑気に言ってきた。

「いや、アランさん……これ、どう見ても怪しいですって……。」

「そうか?なんともないぜ。」

そう言ってアランがもう一つ、とクッキーを口に放り込もうとした時――

ぱしり

口目がけて放ったクッキーを、マクレーンが払い除けてきた。

「マクレーン?」

ぽとり、と床に落ちたクッキーとマクレーンを交互に見ながら、アランが驚いたように声をかけてくる。

――これ、なんかの童話で読んだ気がする!!

マクレーンは、こちらを恐る恐る窺うアラン達を放置しながら、胸中で叫んでいた。

――いやいやいや、ここにあの人がいるわけないし、これは何かの悪戯、そう悪戯かもしれない!!

そうマクレーンがぶつぶつと呟きながら考え込んでいると、近くからぼふん、という音が聞こえてきた。
そして続く「アランさん!!」という、二コルの切羽詰まったような声にマクレーンは青褪める。
油の切れたブリキ人形の如く、ギギギとぎこちない動きで音のした方へ首を巡らすと、そこに居たはずのアランの姿が忽然と消えていた。

「マクレーンさん、足元です!!」

よく気の利く金髪碧眼美人さんに、そう教えてもらい、祈るような気持ちで足元を見ると居た。

「………………。」

マクレーンは足元を見つめながら頭を抱える。
そこには――

何故か、親指ほどの大きさに縮んでしまった、アランが居たのだった。
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