僕のおつかい

麻竹

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第二章【旅路編】

1.東の大地へようやく帰ってきました!

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シュン、という音と共に転柱門から二人の人影が出現した。
赤の魔女が治める東の大地ウエストブレイ――そこに唯一設置されている転柱門があるベルジャラに、マクレーン達は戻ってきたのだった。



「はあ~、やっぱり故郷はいいなぁ~。」

巨大な転柱門から降りながら、大きな体をうーんと目一杯伸ばして、アランがしみじみと言う。

「そうですか、それは良かったですね。では、僕はこれで。」

そう言ってマクレーンは、さっさと外へ出ようとすると、アランが慌てて追いかけてきた。

「ちっ、なんで着いてくるんですか?」

「おい、ちって舌打ちすることないだろう!なんで置いて行こうとするんだよ!?」

マクレーンの相変わらずな塩辛対応に、アランが突っ込みを入れる。

「何でって、僕は家に帰るんですけど。」

何を言ってるんですか?と、さも当然のようにマクレーンは答えた。
その返答にアランは、「え?」と驚いたような顔になる。

「帰るって、どうして?」

「はあ?何言ってるんですか?僕のお使いが済んだから帰るんですよ。」

まるで、帰ることが信じられないと言わんばかりのアランの言葉に、マクレーンは何言ってるんだこの人、という視線を向けながら答えた。
そんなマクレーンに、アランは「でも魔女が……」などとブツブツ言い続けていたので、マクレーンはうんざりしながら、とある言葉をアランにぶつけてみた。

「それとも、アランさんも帰る方向が同じなんですか?」

そう言ってマクレーンは、アランの様子を観察する。
案の定、その言葉にアランは動揺し始めた。

やっぱり。

マクレーンはアランの反応を見ながら自分の予想が、あながち間違っていなかった事を悟った。
実は、アランと一緒に旅をしていて気になっていた事があった。
アランは良く家族の話をしてくれるのだが、しかし何故か故郷や実家の場所を聞こうとすると、のらりくらりと交わされてしまうのだ。

これはもう、触れて欲しくないという事だよね!

マクレーンは確信したとばかりに、目をかっと見開くと、アランに更に攻撃を仕掛けていった。

「もし、家までの方向が一緒でしたら、そこまでご一緒しましょう。僕は東の森のすぐ先までですけど、アランさんは、どこまでですか?」

東の森までは、いくつか大きな街が点在している。
そして東の森の更に進んだ先は、小さな町や村があるだけだった。
さて、彼は何処の出身なのだろうか……。
マクレーンは少しだけアランの故郷に興味があった、本当に少しだけだが。
アランがどう答えるのかと待っていると、彼は重い口を開いてこう言ってきた。

「いや……実家には帰らない。」

その答えにマクレーンはやっぱり、と内心で嘆息する。

「まだ、赤の魔女に会えてないからな。」

そう言って、何かを期待するような目でマクレーンを見てきた。

「……そうですか。」

相変わらずブレない青年に、マクレーンは仕方がないと顔を上げる。

「言っときますけど、僕じゃ赤の魔女には会えませんよ。」

マクレーンはここへ来て、ようやく真実を告げた。

「へ、な、なんで?」

マクレーンの言葉に、アランは目を丸くしながら聞き返してきた。
マクレーンは、そんなアランの反応を見ながら、やっぱりわかってなかったか、と盛大な溜息を吐いた。

「それは、僕が赤の魔女に会う理由が無いからです。そもそも何度も無理ですって、言っていたじゃないですか。」

マクレーンは無情にも事実を告げる。
その言葉にアランは、今気づきましたという顔で驚いていた。

やっぱりわかってなかったんだ、この人。

そう、マクレーンは何度も断っていた。
その理由には、面倒だという自分都合な部分も多分に含まれていたのだが、しかし、そもそもマクレーンには魔女に会う理由も無ければコネもなかった。
それは殆どの一般人に共通することで、実は魔女に会うには相当な理由とコネが無いと無理な話なのだ。
それこそ、魔女の使途にならない限りは。

まあ、気合と根性で、あの森を攻略しようとしてた時点で怪しいとは思っていましたが……。

マクレーンは、アランの考え無しな性格を薄々気づいてはいたが、まさか大の大人がそこまで馬鹿だなんて本気では思っていなかった。
しかし、アランにはそれが当て嵌まるようだ。

さて実家云々はさて置いて、そろそろアランさんには本気で諦めてもらいましょう。

あとは帰るだけのマクレーンは、強気だった。

「アランさん、申し訳ないですけど、今言った通りなんです。僕は貴方を、赤の魔女に会わせてあげられる事はできません。」

マクレーンはもう一押し、と申し訳なさそうな顔をしながら深々と頭を下げた。
暫く経ってから頭を上げてアランを見ると、何とも言えない顔で、こちらを見ている。

可哀想だけど、こればっかりはどうしようもないよね。

マクレーンは胸中で呟きながら、アランの反応を待った。

「く、そういう事なら仕方がないな……。」

苦渋の決断のように、アランが声を絞り出してくる。
その哀愁漂う姿に心が揺さぶられかけたが、マクレーンは黙って続きを待った。

そして――

それでも魔女に会いたいというアランに、旅は道連れ世は情けとばかりに、森まで同行してあげることにしたマクレーンだった。







東の森――クリムゾンフォレスト。

マクレーン達は、ここに足を踏み入れた瞬間、信じられないものを見るような目で立ち止まったのだった。

「なん、で、あなたたちが……。」

驚愕し目を見開くマクレーン達の目の前には、ここには居る筈もない人物たちがいた。

「やあ、待ってたよ。」

「うふふ、お帰りなさい。」

「あらあら、随分遅かったわねぇ。」

そこに居たのは、マクレーンの姉達だった。
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