僕のおつかい

麻竹

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第一章【出会い編】

25.次は西の大地です

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「はっ!!」

たっぷり数刻経ってから、やっとアランの意識は帰ってきた。

「お、俺はいったい・・・・。」

ぼ~っとする頭をぶんぶんと激しく振る姿は、まるで大型犬のようである。
その微笑ましい姿を忌々しそうに、ちらりと横目で見ながらマクレーンは嘆息した。

――意識がなくてもついて来るって何処の忠犬ですか・・・・。

ララと別れて半時、アランを引き摺ってきたマクレーンは途中で「連れて行かなくても良いんじゃないか?」と気づき、一人で先に行こうとしたのだが。
何故か意識の無いはずのアランは普通について来た。
しかもご丁寧に自分の三歩後ろを歩く、といったポジションでである。
本当は意識があってわざとやってるんじゃないか?と疑い時々立ち止まったりアランの顔の前で手を振ってみたりしたのだが・・・・。
アランの顔は、ぼ~っとしたままだった。
さながらゾンビ宜しく自分の後をついて来るので、気持ち悪い事この上なかった。
少々疲れきった様子のマクレーンは、また溜息を洩らすとアランに向き直った。

「大丈夫ですか?」

「あ、ああ・・・・そうだ!あの女は?」

無表情でアランに声を掛けるマクレーンに放心状態で頷いていたアランだったが、急にはっと我に返るとそんな事を聞き返してきた。

「もういませんよ、姉の用は済みましたから。」

ぶっきらぼうに答えるマクレーンにアランは「へ?」と間抜けな声をあげた。
ぱちくりと瞬きまでしている。
しかも首を傾げるといった大型愛玩動物さながらの、なかなかに愛らしい動作までつけてきた。
その仕草を半眼で見つめていたマクレーンは、ぷいっと前を向き歩き出してしまった。

「あ、ちょ、ちょっと待ってくれ。」

いきなり歩き出したマクレーンにアランは慌ててついていく。

「僕はこれからまだまだ用事が沢山あるんです、アランさんもいい加減諦めてください。」

ついて来るアランに、マクレーンは素っ気無く言い放った。
そんなマクレーンにアランは。

「そんな事言われてもなぁ、もうここまで来ちまったし・・・・。」

と暢気に答えながら早足で歩くマクレーンにアランは余裕の歩幅でついていく。
なんとなく不愉快に思ったマクレーンは少々意地悪な事を言ってやった。

「次に行くところはイーストウィンです。」

「へ?イーストウィンって西の大地の?」

「そうです。」

「・・・・・。」

マクレーンの言葉にアランは押し黙ってしまった。

――やっぱり!

マクレーンは内心ニヤリとした。
アランは他の場所の通行魔石を持っていないと踏んでいた。
まあ、キャセロに戻れば通行魔石の申請はできるのだが・・・・。
しかし申請してから魔石が手元に届くまでにはかなりの時間を要する。
魔石が手元に届くまでにはまず、教会に通行許可の申請を出し、そして教会で申請者の出身や移動の目的などが調べられる。
無事審査が通ったとしても魔石の発行には魔石を作れる魔女の許可が必要で、魔女の許可が降りてはじめて魔石が作られるのだ。
どんなに急いだとしても最低ひと月は待たされることになるのは必至。
もちろんアランの通行魔石が出来上がるまで待ってやる義理など無い。

「アランさん残念ですけどここまでです、短い間でしたが・・・。」

マクレーンが残念そうに(形だけ)言うと、アランはぽつりと呟いてきた。

「・・・・そうか次は西か。」

そう言ってニコニコ笑顔になると、懐からアランの通行証を取り出して見せてきた。

「なっ!!!!」

それを見た途端マクレーンは目を見開き固まる。
アランが差し出してきた通行証には通行魔石が嵌められていた。
しかもその魔石は赤でも黄色でもない。

「こ、これをどこで?」

マクレーンは驚いた表情のままアランを見上げた。

「ん、ああこれか?昔やっかいになってた城の城主からもらったんだ。」

アランは何て事のないようにさらりと爆弾発言を投下してきた。

――こ、これをアランさんに?しかも王様が??

アランの通行証には虹色の通行魔石が嵌め込まれていた。
虹色の通行魔石は滅多に世間には出回らない貴重な魔石だ。
これがあれば四大陸行き放題!
面倒な申請もいらず永久使用できるという優れもの!
その殆どの所有者は王族か権力者に限られており、いわば王室御用達の一品である。
そんなものを、いち傭兵である男にあっさりと渡してしまう王様とは、一体どんな人物なのかと気にはなるが・・・・。
だが重要なのはそんな事ではなかった。

――また・・・一緒に旅をしないといけないのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・。

「じゃ、西の大地へしゅっぱ~っつ♪」

にこにことこれ以上ないくらいの笑顔で言うアランに対し。
この世の終わりと思えるほど、がっくりと項垂れるマクレーンの姿があった。



そして――。

マクレーン達から数十キロ離れたとある場所――。

「は、はじめまして。」

「やあ待ってたよ。」

「お、お目にかかれて光栄です。」

「ふふふ。ああそうだ、少し頼まれてくれないかな?」

豪華な金の巻き髪を高い位置で束ねた美女が金髪碧眼の美青年に何事かを頼む姿があった。

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