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選ばれた私と婚約者達

後編

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「あら、話は纏まったの?」

見ると、リーリエの親友であるルチアだった。
彼女は自然な動作でエドワードの隣に立ち、そっと彼の腕に手を添える。
そんな彼女に、顔を背けていた筈のリーリエが「え?」と驚いた顔をしながら見てきた。

「なんでルチアがここにいるの?」

リーリエは意味が解らないと首を傾げる。
すると、俯いていた筈のエドワードが説明してきた。

「君との婚約を破棄した後は、僕はルチアと婚約することになっているんだ。」

「は?」

エドワードの言葉に、リーリエはこれでもかという程目を見開いて疑問の声を上げてきた。

「ど、どういう事!?」

エドワードに詰め寄ろうとするリーリエを遮るように、今度はルチアが説明してきた。

「リーリエ、貴女は婚約者でありながらエドワードを放置して、他の男性とばかり一緒にいたからよ。」

「は?それのどこがいけない事なの?私は、ただみんなと仲良くしていただけよ。」

「そうね、貴女は皆にちやほやされて喜んでいただけ。でもね、婚約者以外の男性と仲良くする貴女を見て、エドワードが何も思わなかったと思うの?少しは彼の気持ちを考えたことが貴女にはあって?」

食って掛かるリーリエに、ルチアは淡々とその時の現状を説明してきた。
親友だと思っていたルチアの言い分に、リーリエは納得できない。

「だって、私は聖女なのよ!みんなに好かれるのは当たり前だし、私もみんなの事が好きなの!それが悪い事だと、あなたは言うの?」

彼女の言い分に、ルチアは溜息を吐きながら答えてきた。

「そうね、博愛は素晴らしい事だと思う。でもね、時と場合によると思うの。」

ルチアの言葉に、リーリエは握り締めた拳をぶるぶる振わせていた。

意味が解らないわ、みんなを愛することの何がいけないというの!?

そんな感情をこめて睨み付けてやると、ルチアは溜息を吐いて肩を落としてきた。
その小馬鹿にする様な態度に、リーリエは怒りで更に顔を赤くさせる。

「貴女と話していても平行線のままみたいね。もう婚約破棄は通ってしまったのだから、この話し合いも意味が無いわ、行きましょうエドワード。」

「そうだね、リーリエ元気で。」

ルチアがそう言うと、エドワードは彼女の肩を抱き寄せながら去って行ってしまった。
そんな彼等をリーリエは、言葉を発することなく睨み付けていたのだった。







その後、リーリエとエドワードの婚約破棄は正式に受理された。
そして、公爵家のエドワードの婚約者はルチアになり、彼女は公爵家で花嫁修業の毎日らしい。
そしてリーリエはと言うと……

「ど、どういうこと!?私と結婚してくれるって言ってたじゃない!!」

リーリエは、修羅場ともいえる場面に立ち会っていた。

「そんな事言った覚えは無いよ、僕はただ君といつまでも仲良くしていたいって言っただけなんだから。」

そう言って朗らかに微笑みながら言ってくるのは、取り巻きの中でも上位貴族に当たる青年だった。
リーリエはエドワードと婚約破棄した後、ならばと取り巻き達に婚約して欲しいと、おねだりしたのだった。
しかし、返ってきた答えは予想外のもので、何故か誰一人として婚約してくれる人がいなかったのだった。

『君はみんなの物だから、僕一人が独占なんて出来ないよ。』

『リーリエは、そのままでいいんだよ。』

等々、歯の浮くようなセリフを向けられながら、しかし誰もリーリエと結婚すると言ってくれる相手はいなかった。
そこでリーリエは一番の有力候補に、こちらから突撃してみたのだった。
結果は、先程の通りである。
しかも彼はリーリエに笑顔を向けてはいたが、その目は笑っていなかった。
更には

「君は聖女なんだ、男なんて選り取り見取りだろう?それに僕は、結婚するならちゃんとした相手と結婚しなきゃいけないからね。」

「それは、私がそうじゃないっていうの?」

「言葉の綾さ、君は聖女で誰のものでもない。私なんかが君を独占するのはルール違反というものだ。」

「そんなこと…」

「おや、すまない。婚約者と会う時間だ。」

「え?」

「あれ?言っていなかったっけ?私には、ずっと前から婚約者がいるんだよ。だから君との婚約はできない。それと、他の奴らも婚約者がいるはずだよ。ちゃんと確認を取らないとね。それではリーリエ、ご機嫌よう。」

彼はそう言うと、リーリエに爽やかな笑顔を向けながら去って行ってしまったのであった。
後に残されたリーリエは、状況が理解できずポカンとしたまま、その場に立ち尽くしていたのだった。





その後――

リーリエは幾度となく取り巻き達に婚約の打診を試みてみたが、誰も首を縦に振ってくれる者は居なかった。
そればかりか、フリーだと思っていた取り巻き達は、いつの間にか他の令嬢たちと婚約していて、気づけばリーリエだけが一人取り残されている形になっていた。

リーリエは、誰も居なくなった自室で国王から送られてきた書状に目を見張っていた。

「聖女リーリエ、貴女はこれより聖女教会で暮らして頂くことになります。」

「ちょ、ちょっと待って!そんなの聞いていないわ!!」

国王からの遣いの者に、リーリエは詰め寄る。
使者は顔色を変える事無く、淡々と説明し始めた。

「リーリエ様が学園を卒業した後は、聖女教会に入って頂く事は既に決まっていた事実でございます。卒業後、婚約またはご結婚なされていた場合は、教会への通いで済む手筈でしたが、リーリエ様は今の時点では、ご婚約をされておりません。よって、強制的に聖女教会への永住権が適用されます。これは法律で決まっている事ですので、ご了承くださいませ。」

「な、何よその制度は!?」

「はい、国の宝である聖女を保護することが、我々の目的であります。婚約及び婚姻を交わされていない聖女様を悪漢からお守りするのが、この制度の目的でして」

「そ、そんな……教会に入ったら、私は一生出られないってこと?結婚は?婚約は?それよりも、もうみんなと会えなくなるじゃない!!」

使者の言葉を遮るように、リーリエは捲し立ててきた。

「あ、いえ……婚約や結婚は、相手からの要望があれば面会の後、リーリエ様の了承を得られれば可能でございます。」

「え、そうなの?」

「はい。」

「なーんだ、それならそうと早く言ってよ!」

「は、はあ……。」

使者の説明に、リーリエは結婚が可能だと聞き胸を撫で下ろした。
そして、ふと教会で過ごすのも悪くはないかもしれないと思い始めたのだった。

こんな誰も居なくなった家にいるより、聖女として崇めて貰える教会にいた方が、より一層箔が付くかもしれないわね。そうすれば前よりもっと良い物件の男達が現れるかもしれないし……。

欲と打算まみれの思考を、顔から垂れ流しながらリーリエは、ほくそ笑む。
そんなリーリエを、離れた場所で見ていた使者が、どんな顔をしていたのかも知らずに、彼女は都合の良い想像に胸を膨らませていたのであった。





そして聖女教会へ、その足で向かった彼女を出迎えたのは初老のシスターだった。
彼女はリーリエを見るなり、にこりと人好きのする笑顔を向けて中へと招き入れた。
ここまで送って来た国王の使者は、男子禁制ですのでと、教会の入り口で足を止めたのだった。

「それではシスター元聖女様、よろしくお願い致します。」

「はい、お任せください。」

使者はシスターと、そんな遣り取りをすると足早に帰って行ってしまったのだった。
何も知らないリーリエは、疑う事無く教会の中に足を踏み入れる。
その背後では、シスターと呼ばれていた女性がぽつりと

「このも、私と同じ道を歩むのね」

と、憐れみを含んだ微笑を向けながら呟いていたのだった。





半時後、王城では――

「聖女は教会に行ったか?」

「はっ、滞りなく。」

「そうか……まったく、あの娘には困ったものだ……。」

玉座に座る国王に、先程リーリエを教会に送り届けてきた使者が、跪きながら報告していた。
国王の言葉に、使者も「全くです」と同意する。
実は、リーリエが学園を卒業する前から、多数の貴族達から苦情が寄せられていたのだった。
その内容は、どれも聖女の素行の悪さについてで、国王はその内容に頭を抱えていたのだった。

「どうしてこうも、聖女という者は二つに分かれるのだろうな……。」

国王は溜息交じりに呟く。
実は昔から、聖女には二つの特徴が見受けられた。

一つは、その慈悲深き精神で国の為に尽くし多大な功績を残す者。

もう一つは、己の境遇を勘違いし傲慢で我儘に己の欲望に溺れ自滅する者。

前者は国妃になり、後者は隠者となった。

そして、今回も……

「いつになったら、次代が現れるのかのう……。」

国王は頭痛を覚え、頭を押さえながら呟く。
その横では熱愛の末、己の妻になった妃が心配そうにこちらを見ていたのだった。



その後、教会に入ったリーリエの元に面会に来てくれる者は誰一人として居なかった。
そればかりか、世間では聖女リーリエは男を垂らし込む悪女として、貴族だけでなく平民の間にも広まっていったのだった。
そんな事とは露とも知らぬ彼女は、今日も教会の中で結婚相手が現れるのを待ち続けているのでしたとさ。



おわり
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