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ジュリアスは、緊張の面持ちで扉の前に来ていた。
ジュリアスが居るのは、ヴィヴィアーナの部屋の前だ。
ストラウスから、ヴィヴィアーナが目を覚ましたと報せを聞いて飛んできたのだが、彼は何故か部屋に入るのを躊躇っていた。
何故ならば、ストラウスの遣いから「お嬢様も会いたがっております」という言葉を聞いたからであった。
数日前、過去と同じことが起きてしまい助けに入ったジュリアスが聞いたのは、ヴィヴィアーナが記憶を取り戻しパニックになった悲痛の声だった。
あの時、彼女は酷く取り乱し当時の事を譫言で呟きながら気を失ってしまったのだった。
辛い記憶を思い出した彼女に、どんな顔で会えばいいのかわからず、ジュリアスが途方に暮れていると、突然目の前の扉がガチャリと開いたのだった。
「何やってるのさ?早く入りなよ。」
いつまで経っても入ってこない幼馴染に、業を煮やしたストラウスが内側から扉を開けてきてしまったらしい。
早く入れと目で脅されてしまい仕方なく中へ入ると、ベッドの上にいる婚約者と目が合い更に気まずくなってしまった。
「目が覚めたんだな……。」
ジュリアスは目を合わせないようにしながら、そんな言葉を掛けた。
すると、ジュリアスの背後から冷たい視線が突き刺さってきた。
ちらりと背後を見ると、ストラウスが何か言いたそうな顔をしながらこちらを見ていた。
気まずくなって視線を逸らすと、ストラウスは「はぁ」と大きな溜息を吐きながらヴィヴィアーナの側へ移動してきた。
そして、見せつけるように妹の肩を支えながら、こちらを見てきたのであった。
「久しぶりね、ジュリアス。」
ヴィヴィアーナは兄に支えられながら、ジュリアスに話しかけてきた。
「あ、ああ。」
ヴィヴィアーナの言葉に、ジュリアスは反射的に頷く。
しかし掛ける言葉が見つからず困っていると、しばらく沈黙が続いた後ヴィヴィアーナが話しかけてきた。
「わたくしね、昔の記憶を思い出したの。」
ヴィヴィアーナの言葉に、ジュリアスの肩が小さく跳ねる。
そんな彼を見ながら、ヴィヴィアーナは話を続けた。
「あの時、お兄様と貴方が助けてくれたんですってね、ありがとう。そして、ごめんなさい、お礼を言うのが大分遅くなってしまって……。」
そう言って申し訳なさそうに肩を竦めた彼女に、ジュリアスは首を振ると心配そうな顔をしながら見つめ返してきた。
「そ、その……大丈夫、なのか?」
「ええ……あれから随分経ったし私も、もう大人よ。」
そう言って、微笑むヴィヴィアーナの手は小刻みに震えていた。
「無理するな。」
ジュリアスは、そう言うとヴィヴィアーナの側へ行くと震える彼女の手を握り締めてきたのであった。
「ジュリアス……。」
ヴィヴィアーナは、ジュリアスの名を呼びながら涙目で見上げてくる。
見つめ合う二人。
そしてヴィヴィアーナは、徐に口を開き
「その……手を放して頂戴……。」
と、言ってきたのであった。
ジュリアスが居るのは、ヴィヴィアーナの部屋の前だ。
ストラウスから、ヴィヴィアーナが目を覚ましたと報せを聞いて飛んできたのだが、彼は何故か部屋に入るのを躊躇っていた。
何故ならば、ストラウスの遣いから「お嬢様も会いたがっております」という言葉を聞いたからであった。
数日前、過去と同じことが起きてしまい助けに入ったジュリアスが聞いたのは、ヴィヴィアーナが記憶を取り戻しパニックになった悲痛の声だった。
あの時、彼女は酷く取り乱し当時の事を譫言で呟きながら気を失ってしまったのだった。
辛い記憶を思い出した彼女に、どんな顔で会えばいいのかわからず、ジュリアスが途方に暮れていると、突然目の前の扉がガチャリと開いたのだった。
「何やってるのさ?早く入りなよ。」
いつまで経っても入ってこない幼馴染に、業を煮やしたストラウスが内側から扉を開けてきてしまったらしい。
早く入れと目で脅されてしまい仕方なく中へ入ると、ベッドの上にいる婚約者と目が合い更に気まずくなってしまった。
「目が覚めたんだな……。」
ジュリアスは目を合わせないようにしながら、そんな言葉を掛けた。
すると、ジュリアスの背後から冷たい視線が突き刺さってきた。
ちらりと背後を見ると、ストラウスが何か言いたそうな顔をしながらこちらを見ていた。
気まずくなって視線を逸らすと、ストラウスは「はぁ」と大きな溜息を吐きながらヴィヴィアーナの側へ移動してきた。
そして、見せつけるように妹の肩を支えながら、こちらを見てきたのであった。
「久しぶりね、ジュリアス。」
ヴィヴィアーナは兄に支えられながら、ジュリアスに話しかけてきた。
「あ、ああ。」
ヴィヴィアーナの言葉に、ジュリアスは反射的に頷く。
しかし掛ける言葉が見つからず困っていると、しばらく沈黙が続いた後ヴィヴィアーナが話しかけてきた。
「わたくしね、昔の記憶を思い出したの。」
ヴィヴィアーナの言葉に、ジュリアスの肩が小さく跳ねる。
そんな彼を見ながら、ヴィヴィアーナは話を続けた。
「あの時、お兄様と貴方が助けてくれたんですってね、ありがとう。そして、ごめんなさい、お礼を言うのが大分遅くなってしまって……。」
そう言って申し訳なさそうに肩を竦めた彼女に、ジュリアスは首を振ると心配そうな顔をしながら見つめ返してきた。
「そ、その……大丈夫、なのか?」
「ええ……あれから随分経ったし私も、もう大人よ。」
そう言って、微笑むヴィヴィアーナの手は小刻みに震えていた。
「無理するな。」
ジュリアスは、そう言うとヴィヴィアーナの側へ行くと震える彼女の手を握り締めてきたのであった。
「ジュリアス……。」
ヴィヴィアーナは、ジュリアスの名を呼びながら涙目で見上げてくる。
見つめ合う二人。
そしてヴィヴィアーナは、徐に口を開き
「その……手を放して頂戴……。」
と、言ってきたのであった。
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