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「蓮くん、検温するから脇上げてね」
「触んな。自分でやる」
蓮はバイタルチェックに来た看護師から仏頂面で体温計を取り上げ、自分で脇にはさむ。
「もう…。気分はどう?ご飯は食べれた?」
「フツー」
「普通じゃわからな…」
「ご気分はよろしいようです。朝食は完食されました」
素っ気ない態度の蓮を見かね、シオンが代わりに答える。
「ありがとうございます、シオンさん」
看護師はぽっとほほを染め、長身の見舞い客に礼を言う。
「いえ。36度2分です」
シオンは手慣れた仕草で体温計を蓮の脇から抜き、正確に知らせた。
「日本の生活はどうですか?慣れました?」
看護師はカルテに記入しながら聞く。蓮の見舞いのために日本を訪れている外国人、ということにしているのだ。
「はい」
「私、もうすぐ勤務明けるので、良かったら観光に付き合いますけど…」
「ありがとうございます。では、機会がありましたらお願いします」
シオンはきれいに微笑み、遠回しに断った。
半月で蓮は普通に食事をとれるほど回復していた。まだ胸の傷口は痛々しく、手首と足首のアザもくっきり残っているが。
「お前、この病院の女全員に誘われてね?しかも全部フってんな」
蓮はからかうように言う。毎日足しげく病院に通う、長身長髪ミステリアスなイケメン外国人に惹かれる女性は当然多い。しかし、シオンは彼女らに全く興味がない。適当にあしらうだけでほとんど病室から出ず、ひたすら蓮の世話をしていた。
「何のことですか。それより、聞かれたことにはきちんとお答えください」
「るせーよ」
悪態を苦言され、蓮はふてくされた。
「なぁ」
「はい」
「お前、顔隠さないのか」
シオンは顔半分を隠す大きなサングラスをメンバル王国で外してから、着けていない。今までの表情を見せない近寄り難い雰囲気が薄れたため、余計に女性が魅了されてしまうのだ。
「はい、もうその必要がありませんから。変ですか」
「別に。いいんじゃね?」
深い紫色の瞳で見つめられ、蓮は目を反らす。
「それに、この方があなたの顔も良く見えますし」
「キモい」
ふっとシオンは微笑み、蓮の寝るベッドの端に腰かける。
「そろそろ限界なのですが」
「あ?」
「あなたに半月も触れていません」
手を伸ばし、蓮のほほに触れる。
「…なぁ」
乾燥気味な唇を指先がなぞり、蓮は口を開く。
「はい」
「あの、眼…どうすんだ」
顔を寄せてきたシオンの右目に眼帯の上から触れる。
「聞いていたのですか」
シオンは少し驚き、右目に触れる蓮の手に自分の手を重ねる。メンバル王国のイレグーが持っていたシオンの右目。蓮はもうろうとする意識の中、その会話を聞いていた。
「法律では他国から回収された『金眼』は遺族の求めがない限り、国で保管することになっていますので、そのようにしたいと思います。元には戻せませんしね」
と、シオンは残っている左目を伏せた。
「あ、そ…」
「もう、よろしいですか」
ぎゅっと蓮の手を握ると、ベッドに乗り、腰にまたがる。
「ちょ…?!いいワケ、ないだろ…っ」
「あなたに負担をかけませんから」
「ああ?!ヤること自体が負担…っんん…!」
迫るシオンを押しのけようとするが頭を抱えられ、唇をふさがれる。歯をなぞられ、唇を吸われ、舌をねっとりと絡ませ合う。患者衣の合わせにシオンの長い指がするりと入り、胸元に触れてゾクッと肌が粟立つ。
「はぁ…っや、触ん、な…!」
唇を離し、蓮は息を荒く吐きながらシオンの手首をつかむ。
「怖いのですか」
「…っ」
蓮の身体は小刻みに震え、ごまかすことも出来なくて唇を噛む。
「メンバル王国で…どのようなことをされたのですか」
「あ…?」
「どこを触られましたか。何度イカされましたか。気持ちいいと感じましたか」
「何で…っそんな」
思い出したくもないことを突然蒸し返され、うろたえる。
「教えてください、レン」
「あ、う…」
真っ直ぐ見つめてくるシオンの左目。赤くなったほほを優しくなでられると、話さなくてはならない気持ちになってしまう。
「胸…と、前とケツにも…何か、塗られて」
シオンの服をつかみ、ぎゅっと目をつぶる。
「気持ちワリ…のに触られ、て…っイキたくても、イケなくっ…て、苦し…ぅ、う…っ」
よみがえる辛くてたまらなかった身体の痛み、熱さ、苦しさ。そして、死の恐怖。涙があふれ、ほほを伝う。
「お前ら、が…早く…っ来ねー…からあぁっ!!」
シオンの肩にぶつけるように額を当て、泣き叫ぶ。蓮は意識を戻してから、シオンとクラウドを責めることを一切しなかった。責めても意味がないと思っていた。シオンにとっては罵られ、突き離されても足りないほどの失態で。ずっとそんな蓮が気がかりでしょうがなかった。これでようやく彼の気持ちを吐き出させられたと、安堵する。
「苦しかったのですね。本当に申し訳ありませんでした」
「うあ、あぁ…っ!」
震えて泣く蓮を優しく抱きしめ、黒髪をゆっくりなでる。
「もう大丈夫です。私が忘れさせて差し上げます」
顔を上げさせて流れる涙をなめとり、また唇を重ねた。
「ん…っは、ふぁ…っ」
病室に似つかわしくない、ベッドのきしむ音とあえぐ声。
「は…そんなに、強く抱きつかれると…動けないのですが」
首にぎゅうぎゅうと抱きつく蓮に、シオンは苦笑いする。
「や、シオン…っ動く、な…!」
「レン…」
いつもなら突き離そうとしてくる彼が嫌々と首を振り、すがりつく様はたまらなく愛しい。つなげた中はうごめいて締めつけ、気持ち良くはあるのだが、このままではお互いイクにイケない。
「あっ?!」
シオンは仕方なく蓮の反り返るものを強引にしごき、先端をぐりぐりとなでる。
「ひぁっ!ああぁ…っ!!」
その刺激で絶頂しそうになるが、蓮は射精を堪えてしまう。
「あ、ぐぅ、う…っ」
ガクガクと大きく身体が震え、涙がぼろぼろこぼれる。下半身が熱くて苦しい。けれど、イクことが怖いのだ。
「レン、怖くありませんから…イってください…!」
シオンはしごく手を止めずにぐいっと蓮の身体を持ち上げ、己を奥まで押し込んだ。
「くあぁっ!あ、あぁーっ!!」
びくんと身体を反らし、蓮は堪えられずに精を吐き出す。
「ん…っ」
大量に吹き出た白濁がお互いの腹に散り、シオンは蓮の中へとそれを注ぐ。
「ふ、は…っはぁ…っ」
「レン…愛しています」
脱力した蓮を抱きしめ、また深く唇を重ねた。
「こんにちは、クラウドさん!」
「今日こそ、一緒にランチ行きましょう?」
廊下からは見舞いに来たクラウドに、看護師たちが口々に話しかける賑やかな声が聞こえてくる。
「誰が行くか!俺はレンに会いに来たんだよ!」
彼女らを追い払い、クラウドは病室のドアを開ける。
「おーい、レン!来たぞ…って?!」
ベッド上の光景に固まる。ズバンっとドアを勢いよく閉め、衣服を整えているシオンにずかずか近寄る。
「な、ナニをしていたんだお前はぁあ?!」
患者衣を乱してぐったりと寝ている蓮と特有な匂いで何が行われていたかなど聞かなくてもわかるが、シオンの胸ぐらを怒鳴ってつかみ上げる。
「性交、ですが」
「やっぱりごまかしもしないのかよ?!」
堂々と宣言する同志に、天を仰いで嘆く。
「大丈夫か、レン?!身体は?!痛いところないか?!」
「どいてください、レン様のお身体を清拭しますから」
焦って蓮の身体をさするクラウドをしり目に、シオンは温かい濡れタオルを用意する。
「お前はレンに近づくな!俺がやる!!」
「あー…るせー…。お前ら、もう二度と俺に触んな」
と、蓮は気だるい身体をよじり、怒鳴り声に顔をしかめる。
「お、俺も?!何でだよ?!」
「お身体を拭いてからでよろしいですか」
病室のドア前で、少し遅れてやって来た梓が何やらもれ聴こえる会話に「仲がいいわね」とクスクス笑っていた。
ティリアス王子…否、ウェア王の執務室ではウォータ大臣を始め、数人の国務大臣と補佐官が分厚い資料を手に会議中だった。王位継承式を終えてから、彼は王として国政の中心となり、忙しい日々を送っている。
「陛下、メンバル王国の処遇ですがどのようにお考えですか」
下手な政治とイレグーの失脚で荒れ放題のメンバル王国をどうすべきか、大臣たちの中でも意見が割れていた。
「次の指導者が現れるまで、我が国の管理下に置く」
王は資料をめくりながら、そう決めていたかのように言う。
「しかし、かなりの費用が…」
管理するにも、通常の状態に戻すだけで莫大な費用が必要だろう。大臣たちの意見が割れている原因のひとつだ。
「構わぬ。先代の友人が愛した国だ。それに、国民に罪はないであろう」
と、王は渋い顔をしている大臣たちを見回した。
とりあえず方針は決定し、大臣たちの出払った王の執務室の扉がノックされる。
「失礼します、陛下。お茶をお持ちしました」
ライカがティーカップの乗ったトレーを手に扉を開けた。
「ありがとう」
王はほっとして資料を閉じる。
「先ほどシオンから連絡がありまして、明日、レン様と共に戻られるとのことです」
ライカはカップを置くと、片膝をついて報告する。
「…そうか。慰労の準備を頼む」
「はい!」
表情を変えずに指示する王に、嬉しさを隠せずニコニコと返事をした。
彼女が執務室を出た後、王は温かいお茶を口にし、机の引き出しを開ける。中にはハンカチに包まれた蓮のチョーカー。
もうすぐ返せるね、レン。
そっと触れ、微笑んだ。
「やっと見つけたぞ、城野蓮!2カ月もどこに行ってたんだ?!」
黒塗りの高級車を降り、使用人を引き連れて前に立ちふさがるのは三世議員を目指す大学生、菊川宏樹だ。
「誰だ?こいつ」
「レン様のお仕事相手ですよ」
顔をしかめて聞くクラウドに、シオンが答える。
蓮は今日無事退院し、荷物を提げるシオンとクラウドと共に自宅に帰る途中だった。
「?!何だあんたたち…ま、まさか、前に言っていた『王子様』…っ」
蓮を挟むように立つ、目付きの鋭い赤髪の男と長身長髪の男を見て宏樹はうろたえる。蓮が自分より大事な人を守っていると言っていたことをずっと気にしていたのだ。
「違ぇーよ、下僕だ」
「下僕?!」
否定する蓮に、クラウドはショックを受け、シオンはふっと笑む。
「そっ、そうだよな!本当に王子様を守っている訳が…」
「ああ、俺が守ってんの『王子サマ』じゃねーよ」
安堵する宏樹の横を通り過ぎながら、蓮は更に否定する。
「え?」
呆ける彼を振り返り、にっと笑う。
「『王サマ』」
終。
「触んな。自分でやる」
蓮はバイタルチェックに来た看護師から仏頂面で体温計を取り上げ、自分で脇にはさむ。
「もう…。気分はどう?ご飯は食べれた?」
「フツー」
「普通じゃわからな…」
「ご気分はよろしいようです。朝食は完食されました」
素っ気ない態度の蓮を見かね、シオンが代わりに答える。
「ありがとうございます、シオンさん」
看護師はぽっとほほを染め、長身の見舞い客に礼を言う。
「いえ。36度2分です」
シオンは手慣れた仕草で体温計を蓮の脇から抜き、正確に知らせた。
「日本の生活はどうですか?慣れました?」
看護師はカルテに記入しながら聞く。蓮の見舞いのために日本を訪れている外国人、ということにしているのだ。
「はい」
「私、もうすぐ勤務明けるので、良かったら観光に付き合いますけど…」
「ありがとうございます。では、機会がありましたらお願いします」
シオンはきれいに微笑み、遠回しに断った。
半月で蓮は普通に食事をとれるほど回復していた。まだ胸の傷口は痛々しく、手首と足首のアザもくっきり残っているが。
「お前、この病院の女全員に誘われてね?しかも全部フってんな」
蓮はからかうように言う。毎日足しげく病院に通う、長身長髪ミステリアスなイケメン外国人に惹かれる女性は当然多い。しかし、シオンは彼女らに全く興味がない。適当にあしらうだけでほとんど病室から出ず、ひたすら蓮の世話をしていた。
「何のことですか。それより、聞かれたことにはきちんとお答えください」
「るせーよ」
悪態を苦言され、蓮はふてくされた。
「なぁ」
「はい」
「お前、顔隠さないのか」
シオンは顔半分を隠す大きなサングラスをメンバル王国で外してから、着けていない。今までの表情を見せない近寄り難い雰囲気が薄れたため、余計に女性が魅了されてしまうのだ。
「はい、もうその必要がありませんから。変ですか」
「別に。いいんじゃね?」
深い紫色の瞳で見つめられ、蓮は目を反らす。
「それに、この方があなたの顔も良く見えますし」
「キモい」
ふっとシオンは微笑み、蓮の寝るベッドの端に腰かける。
「そろそろ限界なのですが」
「あ?」
「あなたに半月も触れていません」
手を伸ばし、蓮のほほに触れる。
「…なぁ」
乾燥気味な唇を指先がなぞり、蓮は口を開く。
「はい」
「あの、眼…どうすんだ」
顔を寄せてきたシオンの右目に眼帯の上から触れる。
「聞いていたのですか」
シオンは少し驚き、右目に触れる蓮の手に自分の手を重ねる。メンバル王国のイレグーが持っていたシオンの右目。蓮はもうろうとする意識の中、その会話を聞いていた。
「法律では他国から回収された『金眼』は遺族の求めがない限り、国で保管することになっていますので、そのようにしたいと思います。元には戻せませんしね」
と、シオンは残っている左目を伏せた。
「あ、そ…」
「もう、よろしいですか」
ぎゅっと蓮の手を握ると、ベッドに乗り、腰にまたがる。
「ちょ…?!いいワケ、ないだろ…っ」
「あなたに負担をかけませんから」
「ああ?!ヤること自体が負担…っんん…!」
迫るシオンを押しのけようとするが頭を抱えられ、唇をふさがれる。歯をなぞられ、唇を吸われ、舌をねっとりと絡ませ合う。患者衣の合わせにシオンの長い指がするりと入り、胸元に触れてゾクッと肌が粟立つ。
「はぁ…っや、触ん、な…!」
唇を離し、蓮は息を荒く吐きながらシオンの手首をつかむ。
「怖いのですか」
「…っ」
蓮の身体は小刻みに震え、ごまかすことも出来なくて唇を噛む。
「メンバル王国で…どのようなことをされたのですか」
「あ…?」
「どこを触られましたか。何度イカされましたか。気持ちいいと感じましたか」
「何で…っそんな」
思い出したくもないことを突然蒸し返され、うろたえる。
「教えてください、レン」
「あ、う…」
真っ直ぐ見つめてくるシオンの左目。赤くなったほほを優しくなでられると、話さなくてはならない気持ちになってしまう。
「胸…と、前とケツにも…何か、塗られて」
シオンの服をつかみ、ぎゅっと目をつぶる。
「気持ちワリ…のに触られ、て…っイキたくても、イケなくっ…て、苦し…ぅ、う…っ」
よみがえる辛くてたまらなかった身体の痛み、熱さ、苦しさ。そして、死の恐怖。涙があふれ、ほほを伝う。
「お前ら、が…早く…っ来ねー…からあぁっ!!」
シオンの肩にぶつけるように額を当て、泣き叫ぶ。蓮は意識を戻してから、シオンとクラウドを責めることを一切しなかった。責めても意味がないと思っていた。シオンにとっては罵られ、突き離されても足りないほどの失態で。ずっとそんな蓮が気がかりでしょうがなかった。これでようやく彼の気持ちを吐き出させられたと、安堵する。
「苦しかったのですね。本当に申し訳ありませんでした」
「うあ、あぁ…っ!」
震えて泣く蓮を優しく抱きしめ、黒髪をゆっくりなでる。
「もう大丈夫です。私が忘れさせて差し上げます」
顔を上げさせて流れる涙をなめとり、また唇を重ねた。
「ん…っは、ふぁ…っ」
病室に似つかわしくない、ベッドのきしむ音とあえぐ声。
「は…そんなに、強く抱きつかれると…動けないのですが」
首にぎゅうぎゅうと抱きつく蓮に、シオンは苦笑いする。
「や、シオン…っ動く、な…!」
「レン…」
いつもなら突き離そうとしてくる彼が嫌々と首を振り、すがりつく様はたまらなく愛しい。つなげた中はうごめいて締めつけ、気持ち良くはあるのだが、このままではお互いイクにイケない。
「あっ?!」
シオンは仕方なく蓮の反り返るものを強引にしごき、先端をぐりぐりとなでる。
「ひぁっ!ああぁ…っ!!」
その刺激で絶頂しそうになるが、蓮は射精を堪えてしまう。
「あ、ぐぅ、う…っ」
ガクガクと大きく身体が震え、涙がぼろぼろこぼれる。下半身が熱くて苦しい。けれど、イクことが怖いのだ。
「レン、怖くありませんから…イってください…!」
シオンはしごく手を止めずにぐいっと蓮の身体を持ち上げ、己を奥まで押し込んだ。
「くあぁっ!あ、あぁーっ!!」
びくんと身体を反らし、蓮は堪えられずに精を吐き出す。
「ん…っ」
大量に吹き出た白濁がお互いの腹に散り、シオンは蓮の中へとそれを注ぐ。
「ふ、は…っはぁ…っ」
「レン…愛しています」
脱力した蓮を抱きしめ、また深く唇を重ねた。
「こんにちは、クラウドさん!」
「今日こそ、一緒にランチ行きましょう?」
廊下からは見舞いに来たクラウドに、看護師たちが口々に話しかける賑やかな声が聞こえてくる。
「誰が行くか!俺はレンに会いに来たんだよ!」
彼女らを追い払い、クラウドは病室のドアを開ける。
「おーい、レン!来たぞ…って?!」
ベッド上の光景に固まる。ズバンっとドアを勢いよく閉め、衣服を整えているシオンにずかずか近寄る。
「な、ナニをしていたんだお前はぁあ?!」
患者衣を乱してぐったりと寝ている蓮と特有な匂いで何が行われていたかなど聞かなくてもわかるが、シオンの胸ぐらを怒鳴ってつかみ上げる。
「性交、ですが」
「やっぱりごまかしもしないのかよ?!」
堂々と宣言する同志に、天を仰いで嘆く。
「大丈夫か、レン?!身体は?!痛いところないか?!」
「どいてください、レン様のお身体を清拭しますから」
焦って蓮の身体をさするクラウドをしり目に、シオンは温かい濡れタオルを用意する。
「お前はレンに近づくな!俺がやる!!」
「あー…るせー…。お前ら、もう二度と俺に触んな」
と、蓮は気だるい身体をよじり、怒鳴り声に顔をしかめる。
「お、俺も?!何でだよ?!」
「お身体を拭いてからでよろしいですか」
病室のドア前で、少し遅れてやって来た梓が何やらもれ聴こえる会話に「仲がいいわね」とクスクス笑っていた。
ティリアス王子…否、ウェア王の執務室ではウォータ大臣を始め、数人の国務大臣と補佐官が分厚い資料を手に会議中だった。王位継承式を終えてから、彼は王として国政の中心となり、忙しい日々を送っている。
「陛下、メンバル王国の処遇ですがどのようにお考えですか」
下手な政治とイレグーの失脚で荒れ放題のメンバル王国をどうすべきか、大臣たちの中でも意見が割れていた。
「次の指導者が現れるまで、我が国の管理下に置く」
王は資料をめくりながら、そう決めていたかのように言う。
「しかし、かなりの費用が…」
管理するにも、通常の状態に戻すだけで莫大な費用が必要だろう。大臣たちの意見が割れている原因のひとつだ。
「構わぬ。先代の友人が愛した国だ。それに、国民に罪はないであろう」
と、王は渋い顔をしている大臣たちを見回した。
とりあえず方針は決定し、大臣たちの出払った王の執務室の扉がノックされる。
「失礼します、陛下。お茶をお持ちしました」
ライカがティーカップの乗ったトレーを手に扉を開けた。
「ありがとう」
王はほっとして資料を閉じる。
「先ほどシオンから連絡がありまして、明日、レン様と共に戻られるとのことです」
ライカはカップを置くと、片膝をついて報告する。
「…そうか。慰労の準備を頼む」
「はい!」
表情を変えずに指示する王に、嬉しさを隠せずニコニコと返事をした。
彼女が執務室を出た後、王は温かいお茶を口にし、机の引き出しを開ける。中にはハンカチに包まれた蓮のチョーカー。
もうすぐ返せるね、レン。
そっと触れ、微笑んだ。
「やっと見つけたぞ、城野蓮!2カ月もどこに行ってたんだ?!」
黒塗りの高級車を降り、使用人を引き連れて前に立ちふさがるのは三世議員を目指す大学生、菊川宏樹だ。
「誰だ?こいつ」
「レン様のお仕事相手ですよ」
顔をしかめて聞くクラウドに、シオンが答える。
蓮は今日無事退院し、荷物を提げるシオンとクラウドと共に自宅に帰る途中だった。
「?!何だあんたたち…ま、まさか、前に言っていた『王子様』…っ」
蓮を挟むように立つ、目付きの鋭い赤髪の男と長身長髪の男を見て宏樹はうろたえる。蓮が自分より大事な人を守っていると言っていたことをずっと気にしていたのだ。
「違ぇーよ、下僕だ」
「下僕?!」
否定する蓮に、クラウドはショックを受け、シオンはふっと笑む。
「そっ、そうだよな!本当に王子様を守っている訳が…」
「ああ、俺が守ってんの『王子サマ』じゃねーよ」
安堵する宏樹の横を通り過ぎながら、蓮は更に否定する。
「え?」
呆ける彼を振り返り、にっと笑う。
「『王サマ』」
終。
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これは伸びる予感…!
本当にありがとうございますヽ(*´∀`)ノ
作者様お疲れ様でございました!!
感想ありがとうございます。楽しんでもらえて良かったです。はい、たくさんの方に読んでいただければ嬉しく思います。こちらこそありがとうございました。
とても好きな作品でした。今後の展開もとても気になります。特に、大人になった蓮やティルはどうなっているかなあと考えてしまいます。
感想ありがとうございます。好きと言ってもらえて嬉しいです。続編もかく予定ですので、気長に待っていてください。