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48,残念
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「チッ…」
バレた…!
蓮は舌打ちして、ぎゅっと唇を噛む。無視することも出来たが、どうしても触られたくなかった。王子に貸す約束をした、大切なチョーカーなのだ。
「小僧が…っ!!この私を騙しおって!!」
「っ!」
イレグーはずかずかと蓮に近寄ると、ほほに平手打ちする。
「騙したのは、そっちだろ…」
蓮は怯まず、ギロっとイレグーをにらむ。
「何だと?!」
「俺らは王サマに会いに来ただけだ。それが、この仕打ちかよ…。どっちがヒデーかもわかんねーのか?クソが」
「く…キサマ、己の状況をわかっているのか?今すぐにでも殺せるのだぞ?!」
「殺れよ」
「っ?!」
間髪入れずに答えた蓮に、イレグーの方が怯む。吊るされて身動きのとれないこの少年より、完全に立場は上のはずなのに。
「俺はあの国の人間じゃねーし、殺されようが何されようが何の意味もねー。それより、大臣や護衛を殺ったことの方がヤベーんじゃねーの」
確かに、これでは『金眼』が手に入らないばかりか、ウェア王国の国務大臣と補佐官、王室護衛を招いてただ殺してしまっただけ。それが世界中に広まってしまったら、どんな言い訳をしてもメンバル王国の国際的な立場は地に落ちる。イレグーはまたがく然とする。
「だ…黙れ!!ウェア王の『金眼』さえ手に入れば、そんなこと何の問題もなくなる…!」
「は…っアタマわいてんのか、成金」
「口の減らない小僧が…っ。キサマの状況を忘れてはいないか?偽者などにもう用はない。望みどおり殺してやろう…!!」
蓮の悪態に顔をゆがめて笑み、懐から拳銃を取り出す。
「…っ」
数センチ先でそれが胸に突きつけられる。どんなに下手でも外さないであろう至近距離。引き金に指がかかり、蓮はぐっと歯を食い縛る。
何で、何で来ないんだよ?!シオン!クラウド…!ティル…っ!!
「死ね!!」
乾いた破裂音と同時に弾き出された弾丸が蓮の胸を貫いた。
「ふわ?!ビックリした…っ」
お茶の入ったカップに突然ヒビが入り、手に取ろうとしていた王子は驚いて手を引く。
「気に入ってたのにな…」
これとお揃いのカップで蓮と一緒にお茶を飲んだことを思い出し、ガッカリする。
「…」
レンはおじさまに会えたかな。帰りはいつになるのかな。自分の代わりに、優しい父の友人に会いに行ってくれた大切な友達を思う。そして、何だかよくわからない漠然とした不安を感じていた。
「ふん…片付けておけ」
イレグーは返り血で赤く濡れた手と拳銃をいまいましげに拭く。
「は…はい!」
側近たちはその様に恐れながら、だらんとぶら下がっている蓮の手枷を外そうとした時、扉が開いた。
「い、イレグー様…っ申し訳ありません…!」
先ほど兵士を連れに出ていた側近の男が、青ざめた顔で謝りながら入ってくる。
「はい、ご苦労さん」
「うごっ?!」
彼の背後にいたクラウドに首を締め上げられ、気絶した。彼は召集されているはずの若い兵士たちを探しに出たところ、廊下を埋め尽くす大量の重傷者たちを目の当たりにし、がく然とした。一体何が起こったのか理解も出来ないうちにシオンとクラウドに見つかり、この部屋まで案内させられたのだ。
「な…っれ、レン?!」
クラウドは半裸で血にまみれ、鎖に繋がれてぶら下がる蓮を見て驚愕する。
「今の銃声は、やはり…!」
続いて部屋に入ってきたシオンも蓮の様を見て、最悪な事態におちいっていることがわかった。
ふたりともさすがに二千人近い兵士たちを相手にしたため、護衛の象徴の黒コートは破け、クラウドは頭から血を流し、シオンのサングラスはひび割れていた。
「レン…っ!」
「動くな!!」
「っ?!」
イレグーの怒鳴り声に、クラウドはびくっと動きを止める。従う気などないのに、足が動かない。
「ふは…っ動けないだろう?当然だ。私はこれを持っているのだからな…!」
と、イレグーは透明な小瓶を胸ポケットから出す。掲げたその中の液体に浮かぶのは金色に光る宝石…否、人の眼球。『金眼』だ。世界中の強欲な者が欲する、富、快楽、権力を一度に手に入れられるもの。イレグーはその保持者だったのだ。
「それは…我が国の元国務大臣、ザイルから持ち込まれたものでしょうか」
シオンはそれを見て、半年前の事件を思い出す。ザイルが王子の『金眼』を持ち込もうと繋がっていた国がどこなのか、まだ不明なままだった。
「そうだ、今さらわかったのか愚か者が…っ。3年前、メンバル王が死んだ頃にやってきた奴は王の死を知るとこれを差し出してきた。近々、ティリアス王子の眼をここに持参する。その代わりに滅びるであろうウェア王国から自分を匿ってほしい。そして、これはそれまでにメンバル王国を軍事国家にする準備に使ってくれとな」
ザイルが繋がっていた国はメンバル王国だった。友好国であったため、信用してろくに調べなかったのだ。
「奴は失敗して自害したらしいな。だが、国務大臣に裏切られるとはウェア王国も大した国ではないだろう。それに、これがあればキサマらふたりくらい簡単に殺せる。そして、ウェア王国に攻め入ってやるわ…!!」
「…そうかよ。待ってろ、レン!!」
クラウドは小瓶を手に誇らしげに笑うイレグーを一瞥すると、改めて蓮のそばにかけ寄る。
「う、動くな!!…っ何故動ける?!『金眼』の命令は絶対のはずだ!!」
「その眼は子どものものです。大した価値も力もありません。なんとなく逆らい難い、というくらいですね」
焦るイレグーに、シオンは淡々と話す。
「あなたが実権を握れていたのは元々の身分とあとは惰性でしょう。わかってしまえば、誰もあなたに従いませんよ」と、蓮から鎖を外すのに苦戦しているクラウドの元へ向かう。
「く…くそ…っ!だが、この近距離ならば、いくらキサマらでも…!!死ね!!」
イレグーは半ばやけになり、シオンとクラウドに向けて拳銃を乱射する。弾が切れ、ガチガチと引き金に手応えがなくなるまで撃ち、うるさい破裂音がコンクリートに残響する。
「そんなもの、我々には何の意味もないことなどご存じでしょう?」
と、シオンが握った手を広げると、ひしゃげた弾丸がバラバラと床に落ちる。
「チッ…痛えな…!」
クラウドは受け止めた片腕にぐっと力を入れ、血に濡れた弾丸を抜く。
「な…っな、に…」
万策尽きたであろうイレグーは拳銃を落とし、よろよろと後ずさる。
「それから」
シオンはひび割れたサングラスを外し、右目を隠す布をぐっと上げる。あらわになる、傷つき失った右目。
「…!?」
「その眼は私のものです。残念でしたね」
イレグーはどすっと尻餅をつき、金色の宝石が浮かぶ小瓶がその手から転がった。
「レン、外したぞ!動けるだろ?!」
クラウドは蓮の手枷と足枷をやっと壊して外し、黒コートを脱いで蓮の身体を包む。
「なぁ、レン!目を開けろよ!!」
ぐったりと目を閉じて動かない蓮を抱き上げ、揺り動かす。
「クラウド、動かさないでください!息はしておられます。ですが、一刻も早い治療が必要です」
シオンは蓮の口元に顔を寄せてわずかな呼吸を確かめ、我を失っているクラウドを制止する。銃創から流れる血がクラウドの腕まで真っ赤に濡らしていて、急所は外れているようだがこのままでは呼吸が止まるのも時間の問題。
「わかった…っ早く帰るぞ!!」
クラウドは少し冷静さを取り戻し、蓮を抱き立ち上がろうとする。
「ぅ…ま、待て、よ…」
すると、意識の戻った蓮が身動ぎ、クラウドの肩に手を置いて身体を起こす。
「レン!気がついたか!」
「クソ…っ痛ぇー…」
クラウドに支えられて床に足を着け、撃たれた胸と身体中の痛みにうめく。
「レン様、動かないでください!これ以上出血してはあなたのお命に関わります!」
「るせー…アイツ、殴らねーと…っ気が済まねーよ…!」
止めに入るシオンの手を払い、蓮は茫然自失で座り込んでいるイレグーをにらむ。
「…っ」
その蓮の顔を見てシオンは左目を見開き、手を下げていた。
「お前が…っ死ね!!」
蓮はよろよろとイレグーに近寄ると、振りかぶって思いきり殴った。
「ぐぶぉっっ!!」
イレグーは床にもんどり打ち、失神する。
「う…が…っ!」
「レン!!」
同時に銃創から血が吹き出し、激痛に倒れこむ蓮をクラウドが抱きとめる。
「ぐ…クソ…っ!殴り足りねー…っ」
「レン、もういい!!アイツなら後でいくらでも殴れ!帰るぞ!!」
なおももがく蓮を抱きしめて、必死に言い聞かせる。
「チッ…お前、らも…っ遅ぇーんだよ…来るのっマジ、死ぬ…か、と…」
蓮は力なくシオンとクラウドに文句を言いながら、ふっと意識を失った。
「レン…」
シオンは蓮を力ずくでも止められたのに、出来なかったことを心の中でわびる。血にまみれ、右目を金色に光らせた彼が幼い頃の自分と重なり、『金眼』を奪おうとする者を殴らせてやりたいと思ってしまった。しかし、今は後悔している場合ではない。冷静さを保ち、蓮の命を救う最善の行動を考え、実行するのだ。
「シオン!何をしているんだ?!行くぞ!!」
クラウドは蓮を抱きかかえ、動かないシオンに叫ぶ。
「待ってください…!彼らは我々をここから出すつもりがなかったでしょうから、飛行機も操縦士も始末されていると思います」
「はぁ?!どうやってウェア王国に帰ればいいんだよ?!」
「国に連絡し、迎えを待つ時間はありません。この国の飛行機をお借りしましょう」
「ひぃ…っ!?」
部屋の隅で震え、ことの成り行きを見ているしかなかったイレグーの側近3名にシオンは顔を向ける。
「お願い、出来ますね」
「は…はいっ!」
恐ろしいほどの威圧感に彼らは青ざめ、送迎車と飛行機を用意するべく弾かれるように走って行った。
バレた…!
蓮は舌打ちして、ぎゅっと唇を噛む。無視することも出来たが、どうしても触られたくなかった。王子に貸す約束をした、大切なチョーカーなのだ。
「小僧が…っ!!この私を騙しおって!!」
「っ!」
イレグーはずかずかと蓮に近寄ると、ほほに平手打ちする。
「騙したのは、そっちだろ…」
蓮は怯まず、ギロっとイレグーをにらむ。
「何だと?!」
「俺らは王サマに会いに来ただけだ。それが、この仕打ちかよ…。どっちがヒデーかもわかんねーのか?クソが」
「く…キサマ、己の状況をわかっているのか?今すぐにでも殺せるのだぞ?!」
「殺れよ」
「っ?!」
間髪入れずに答えた蓮に、イレグーの方が怯む。吊るされて身動きのとれないこの少年より、完全に立場は上のはずなのに。
「俺はあの国の人間じゃねーし、殺されようが何されようが何の意味もねー。それより、大臣や護衛を殺ったことの方がヤベーんじゃねーの」
確かに、これでは『金眼』が手に入らないばかりか、ウェア王国の国務大臣と補佐官、王室護衛を招いてただ殺してしまっただけ。それが世界中に広まってしまったら、どんな言い訳をしてもメンバル王国の国際的な立場は地に落ちる。イレグーはまたがく然とする。
「だ…黙れ!!ウェア王の『金眼』さえ手に入れば、そんなこと何の問題もなくなる…!」
「は…っアタマわいてんのか、成金」
「口の減らない小僧が…っ。キサマの状況を忘れてはいないか?偽者などにもう用はない。望みどおり殺してやろう…!!」
蓮の悪態に顔をゆがめて笑み、懐から拳銃を取り出す。
「…っ」
数センチ先でそれが胸に突きつけられる。どんなに下手でも外さないであろう至近距離。引き金に指がかかり、蓮はぐっと歯を食い縛る。
何で、何で来ないんだよ?!シオン!クラウド…!ティル…っ!!
「死ね!!」
乾いた破裂音と同時に弾き出された弾丸が蓮の胸を貫いた。
「ふわ?!ビックリした…っ」
お茶の入ったカップに突然ヒビが入り、手に取ろうとしていた王子は驚いて手を引く。
「気に入ってたのにな…」
これとお揃いのカップで蓮と一緒にお茶を飲んだことを思い出し、ガッカリする。
「…」
レンはおじさまに会えたかな。帰りはいつになるのかな。自分の代わりに、優しい父の友人に会いに行ってくれた大切な友達を思う。そして、何だかよくわからない漠然とした不安を感じていた。
「ふん…片付けておけ」
イレグーは返り血で赤く濡れた手と拳銃をいまいましげに拭く。
「は…はい!」
側近たちはその様に恐れながら、だらんとぶら下がっている蓮の手枷を外そうとした時、扉が開いた。
「い、イレグー様…っ申し訳ありません…!」
先ほど兵士を連れに出ていた側近の男が、青ざめた顔で謝りながら入ってくる。
「はい、ご苦労さん」
「うごっ?!」
彼の背後にいたクラウドに首を締め上げられ、気絶した。彼は召集されているはずの若い兵士たちを探しに出たところ、廊下を埋め尽くす大量の重傷者たちを目の当たりにし、がく然とした。一体何が起こったのか理解も出来ないうちにシオンとクラウドに見つかり、この部屋まで案内させられたのだ。
「な…っれ、レン?!」
クラウドは半裸で血にまみれ、鎖に繋がれてぶら下がる蓮を見て驚愕する。
「今の銃声は、やはり…!」
続いて部屋に入ってきたシオンも蓮の様を見て、最悪な事態におちいっていることがわかった。
ふたりともさすがに二千人近い兵士たちを相手にしたため、護衛の象徴の黒コートは破け、クラウドは頭から血を流し、シオンのサングラスはひび割れていた。
「レン…っ!」
「動くな!!」
「っ?!」
イレグーの怒鳴り声に、クラウドはびくっと動きを止める。従う気などないのに、足が動かない。
「ふは…っ動けないだろう?当然だ。私はこれを持っているのだからな…!」
と、イレグーは透明な小瓶を胸ポケットから出す。掲げたその中の液体に浮かぶのは金色に光る宝石…否、人の眼球。『金眼』だ。世界中の強欲な者が欲する、富、快楽、権力を一度に手に入れられるもの。イレグーはその保持者だったのだ。
「それは…我が国の元国務大臣、ザイルから持ち込まれたものでしょうか」
シオンはそれを見て、半年前の事件を思い出す。ザイルが王子の『金眼』を持ち込もうと繋がっていた国がどこなのか、まだ不明なままだった。
「そうだ、今さらわかったのか愚か者が…っ。3年前、メンバル王が死んだ頃にやってきた奴は王の死を知るとこれを差し出してきた。近々、ティリアス王子の眼をここに持参する。その代わりに滅びるであろうウェア王国から自分を匿ってほしい。そして、これはそれまでにメンバル王国を軍事国家にする準備に使ってくれとな」
ザイルが繋がっていた国はメンバル王国だった。友好国であったため、信用してろくに調べなかったのだ。
「奴は失敗して自害したらしいな。だが、国務大臣に裏切られるとはウェア王国も大した国ではないだろう。それに、これがあればキサマらふたりくらい簡単に殺せる。そして、ウェア王国に攻め入ってやるわ…!!」
「…そうかよ。待ってろ、レン!!」
クラウドは小瓶を手に誇らしげに笑うイレグーを一瞥すると、改めて蓮のそばにかけ寄る。
「う、動くな!!…っ何故動ける?!『金眼』の命令は絶対のはずだ!!」
「その眼は子どものものです。大した価値も力もありません。なんとなく逆らい難い、というくらいですね」
焦るイレグーに、シオンは淡々と話す。
「あなたが実権を握れていたのは元々の身分とあとは惰性でしょう。わかってしまえば、誰もあなたに従いませんよ」と、蓮から鎖を外すのに苦戦しているクラウドの元へ向かう。
「く…くそ…っ!だが、この近距離ならば、いくらキサマらでも…!!死ね!!」
イレグーは半ばやけになり、シオンとクラウドに向けて拳銃を乱射する。弾が切れ、ガチガチと引き金に手応えがなくなるまで撃ち、うるさい破裂音がコンクリートに残響する。
「そんなもの、我々には何の意味もないことなどご存じでしょう?」
と、シオンが握った手を広げると、ひしゃげた弾丸がバラバラと床に落ちる。
「チッ…痛えな…!」
クラウドは受け止めた片腕にぐっと力を入れ、血に濡れた弾丸を抜く。
「な…っな、に…」
万策尽きたであろうイレグーは拳銃を落とし、よろよろと後ずさる。
「それから」
シオンはひび割れたサングラスを外し、右目を隠す布をぐっと上げる。あらわになる、傷つき失った右目。
「…!?」
「その眼は私のものです。残念でしたね」
イレグーはどすっと尻餅をつき、金色の宝石が浮かぶ小瓶がその手から転がった。
「レン、外したぞ!動けるだろ?!」
クラウドは蓮の手枷と足枷をやっと壊して外し、黒コートを脱いで蓮の身体を包む。
「なぁ、レン!目を開けろよ!!」
ぐったりと目を閉じて動かない蓮を抱き上げ、揺り動かす。
「クラウド、動かさないでください!息はしておられます。ですが、一刻も早い治療が必要です」
シオンは蓮の口元に顔を寄せてわずかな呼吸を確かめ、我を失っているクラウドを制止する。銃創から流れる血がクラウドの腕まで真っ赤に濡らしていて、急所は外れているようだがこのままでは呼吸が止まるのも時間の問題。
「わかった…っ早く帰るぞ!!」
クラウドは少し冷静さを取り戻し、蓮を抱き立ち上がろうとする。
「ぅ…ま、待て、よ…」
すると、意識の戻った蓮が身動ぎ、クラウドの肩に手を置いて身体を起こす。
「レン!気がついたか!」
「クソ…っ痛ぇー…」
クラウドに支えられて床に足を着け、撃たれた胸と身体中の痛みにうめく。
「レン様、動かないでください!これ以上出血してはあなたのお命に関わります!」
「るせー…アイツ、殴らねーと…っ気が済まねーよ…!」
止めに入るシオンの手を払い、蓮は茫然自失で座り込んでいるイレグーをにらむ。
「…っ」
その蓮の顔を見てシオンは左目を見開き、手を下げていた。
「お前が…っ死ね!!」
蓮はよろよろとイレグーに近寄ると、振りかぶって思いきり殴った。
「ぐぶぉっっ!!」
イレグーは床にもんどり打ち、失神する。
「う…が…っ!」
「レン!!」
同時に銃創から血が吹き出し、激痛に倒れこむ蓮をクラウドが抱きとめる。
「ぐ…クソ…っ!殴り足りねー…っ」
「レン、もういい!!アイツなら後でいくらでも殴れ!帰るぞ!!」
なおももがく蓮を抱きしめて、必死に言い聞かせる。
「チッ…お前、らも…っ遅ぇーんだよ…来るのっマジ、死ぬ…か、と…」
蓮は力なくシオンとクラウドに文句を言いながら、ふっと意識を失った。
「レン…」
シオンは蓮を力ずくでも止められたのに、出来なかったことを心の中でわびる。血にまみれ、右目を金色に光らせた彼が幼い頃の自分と重なり、『金眼』を奪おうとする者を殴らせてやりたいと思ってしまった。しかし、今は後悔している場合ではない。冷静さを保ち、蓮の命を救う最善の行動を考え、実行するのだ。
「シオン!何をしているんだ?!行くぞ!!」
クラウドは蓮を抱きかかえ、動かないシオンに叫ぶ。
「待ってください…!彼らは我々をここから出すつもりがなかったでしょうから、飛行機も操縦士も始末されていると思います」
「はぁ?!どうやってウェア王国に帰ればいいんだよ?!」
「国に連絡し、迎えを待つ時間はありません。この国の飛行機をお借りしましょう」
「ひぃ…っ!?」
部屋の隅で震え、ことの成り行きを見ているしかなかったイレグーの側近3名にシオンは顔を向ける。
「お願い、出来ますね」
「は…はいっ!」
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