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44,世界最強
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首長が謁見の間を出て扉が閉まると、手を差し出した時以外動かなかったティリアス王子はがくんと姿勢を崩した。
「キモ…っ」
と、かわいらしい顔をゆがませ、なでられた右手をブンブン振る。見知らぬ男に手をなでられるのがこんなに気色悪いとは。
「レン君、その顔、気をつけたまえ」
「あー…はいはい」
その様子にウォータ大臣が苦言し、王子…否、王子に扮した蓮は適当な返事をして表情を戻した。
外国からの来賓たちが継承式に招待されたと喜び勇んでお祝いに訪れ、己の地位安泰を願って触れている手は異世界から来た少年、蓮のもの。恩恵に預かろうと根拠のない迷信を信じてやって来たのに、面会したのは王子ですらないのだ。出回っている王子の写真と全く同じ顔なので、疑う余地もない。気の毒にも思うが、知らぬが仏とはこのことである。
「次の方がお入りになられます」
使用人がそう知らせ、大臣も護衛たちも姿勢を戻す。蓮も軽く息を吐いてから、さんざん練習させられた姿勢に座り直した。
「おお…ティリアス様!なんとお美しい…!」
「っ?!」
ある国の老王は祝いの言葉もそこそこに、蓮が手を差し出す前にぐいっと右手を引き寄せる。
「お手もなめらかで…美しい…」
「…っっ?!」
老王はうっとりと蓮の手をなでまわした後、ぶちゅっという擬音が聞こえそうなほど唇を押しつけた。
「~っ!!」
蓮は悲鳴こそ出なかったが全身を粟立たせ、さすがに手を振り払って蹴り倒してやりたくなる。しかし、ちらりと見たウォータ大臣に首を横に振られる。歯を食いしばってなんとかこらえ、老王に手をなでまわされ続けた。
十数人の来賓との面会を終えた時、使用人から次の来賓の到着が遅れているとの知らせが入った。
「では、到着まで休憩にしよう」
ウォータが一息ついて言い、謁見の間の緊張感がゆるむ。
「行くぞ、レン!」
それを待ち構えていたクラウドはぐったりと椅子にもたれていた蓮を抱きかかえ、台座の横にある扉から出て行った。
「クソー…っ!あの色ボケジジイども!!」
謁見の間に隣接する洗面所で、クラウドは文句を言いながら蓮の両手を洗ってやっていた。蓮はすでに疲れ果て、されるがまま手を出している。
「よし、本当は全身洗ってやりたいところだけどな」
石鹸の泡をよく洗い流すと、蓮にタオルを手渡す。
「なぁ」
蓮は手をふきながらクラウドを見上げる。
「ん?」
「お前、殺気出し過ぎじゃね?」
来賓に手を触れられるたび、隣に立つ彼からぞっとするほどの殺気を感じていた。実際に手を出しはしないだろうが、来賓に気づかれたら変な誤解をされるのではないかと気が気でなかった。
「仕方ないだろ!それにあのジジイどもにわかる訳がない」
「あ、そ…」
確かに、戦闘経験のない者に気づかれることはまれだろう。それに、もしこれを本当に王子がやっていたら、蓮も冷静でいられる自信がないので気持ちはわかる。
「レン」
「あ?」
「キスさせろ」
ふいたタオルを手渡すとクラウドが突然場違いなことを言い出し、蓮は絶句する。
「しないと、次のジジイぶっ飛ばすかも」
「ああ?ふざけ…っ!?」
拒絶など聞く気はなく、クラウドは蓮を抱き寄せると強引に唇をふさぐ。
「ん、んん…っ」
もがいていた蓮もしだいに力を抜き、クラウドのキスを受け入れ舌を絡ませる。クラウドはそれに気を良くし、蓮の柔らかな唇と口内をじっくり味わう。下心のある来賓に蓮を触れさせなければならないストレスを、少しは解消出来そうだった。
蓮は仕方ねぇヤツだとクラウドに身を任せながら、アイツはどう思っているのかと相変わらず感情を見せないシオンのことを考えていた。
来賓としてやって来る国の代表は基本友好的で、迷信を信じてひたすら手に触れてありがたがるか、容姿のかわいらしさにやられて触りまくるかの2パターンだが、中には違う対応をする者もいた。
「ウェア王陛下、この度はご即位おめでとうございます」
ある国の皇太子は多数の従者と兵士を引き連れてやって来ると、胸に片手を当てて頭を下げる。蓮はうなずき、手を差し出そうとすると
「噂は本当のようですな」
「?」
膝をつくこともせず、にらむように見上げてくるという今までの者と異なる彼の態度に少し驚く。
「かつて世界最強と言われたウェア王国が戦争を放棄し、武器を捨て、軍隊すら持っていないというのは」
「…」
そんな話を聞いたような気もするが、きちんとこの国の歴史を学んでいない蓮にはピンとこない。
「しかも、我々の帯刀を許しながら、たったこれだけの兵士で王を守ろうとは…」
皇太子は腰に下げた剣のつばに手をやり、国務大臣の後方に立つ20名ほどの護衛たちを見回す。
「平和ボケにも程がありますなっ!!」
と、素早く剣を鞘から引き抜き、蓮の鼻先に突きつけるつもりだった。
「が、ぁ…っ?!」
しかし、彼は剣を抜こうと構えた体勢から動けなくなっていた。蓮の両脇にいたはずの護衛、シオンの手がその剣の柄頭を押さえ、クラウドの手は彼の首に食い込んでいる。剣は片手で押さえられているだけなのに1ミリも動かせず、首に食い込む指はかろうじて息をさせていて、今にも首に穴が開きそうだった。引き連れてきた従者と兵士の前には他の護衛たちが立ちはだかり、助けもない。
殺される…!
皇太子は青ざめ、全身に冷や汗が吹き出る。
「止めなさい。彼の大切な剣が壊れてしまう」
ウォータ大臣が命じ、シオンとクラウドは彼から手を離すと蓮の両脇に戻る。それにならい、護衛たちも大臣らの後方に戻った。
「ひ、はぁっ!はぁっ!!」
死の恐怖から解放された皇太子は崩れるように膝をつき、四つん這いになって息を荒らげる。
「皇太子どの、お戯れが過ぎますぞ」
「は…っ」
ウォータが近づき、彼はびくっとして顔を上げる。
「彼らは兵士ではなく、王室護衛です。お間違えなきよう。それから、我々は歴史上武器を持ったことはありません。必要がないのです。ゆえにあなた方が帯刀しようとしまいと、我々にとって何の意味もなさないのですよ」
「…っ」
噂は本当だった。
『ウェア王国は世界最強。剣も銃も持たず、肉体のみで殺戮を繰り広げる戦闘集団』
それを実際に目の当たりにした皇太子は、ウォータの言葉で更に血の気がひく。ただ、一回り以上も年下の若造が自分より早く国王の座につくことが気に入らず、少しおどかしたかっただけだったのに。
「しかしながら、我が国王の面前でその振る舞いは感心しませんな。ご退出頂いてよろしいですかな?」
「ひぃ…っひぃいっ!」
彼は半分腰を抜かした状態で、カーペットを這うように引き返していく。連れてきていた多数の従者や兵士はすでに逃げてほとんど残っていなかった。
「…ははっ」
彼らの情けない様を呆然と見ていた蓮は両脇のシオンとクラウドを交互に見上げ、思わず笑ってしまっていた。
午後。午前中に面会を行った百人ほどの来賓を招待した披露宴が、応接間で行われていた。
応接間も謁見の間にひけをとらない広さときらびやかさで、輝くシャンデリアに細かな装飾のされた天井と壁、床には柔らかなじゅうたんが敷き詰められ、真っ白なクロスを敷いたテーブルが整然と並ぶ。着席した来賓の前には目にも鮮やかな食事が並べられていくが、それよりも彼らの注目は上座に座るティリアス王子…否、蓮だ。面会の時にまとっていた青いマントは外し、白を基調とした華やかな衣装が彼の美しさを引き立てていて。ワイングラスを口に運ぶ仕草も美しく、両隣に座る大臣の話にうなずいてふと見せる微笑に、皆うっとりと見惚れる。
再びそばに行き言葉を交わしたいところだが、着席の食事ではそれは叶わず、歯がゆい思いをしている来賓が多数だった。それはもちろん会話をすると王子ではないとすぐバレてしまうので、蓮が来賓の前で一言も発しないようにするためだ。また、国務大臣らとも会話しづらい配置になっているうえ、王国内での宿泊も許されておらず、来賓は披露宴終了後、すみやかに出国しなければならない。徹底的にウェア王国の情報収集をしにくくしているのだ。
数時間後、後ろ髪引かれる思いで来賓たちはウェア城を後にした。
「皆、ご苦労だった。レン君も初日にしては上出来だ。明日もこの調子で頼むぞ」
ウォータ大臣は機嫌よく護衛たちを労い、他の大臣らと共に談笑しながら応接間を出ていく。
「お疲れさまです!レン様!」
「お疲れさまです!!」
「ああ…」
護衛たちに口々に労われ、蓮はかろうじて返事をする。じっと動かずに座り、薄笑いを浮かべていることがこんなにキツイとは。いくら練習したとはいえ、慣れないことをし続けて肉体的にも精神的にも疲れきっていた。
「やべぇ…しんど…」
「お疲れさまでした、レン様」
「大丈夫か、レン」
椅子からやっと立ち上がった蓮の両脇に再びシオンとクラウドが陣取る。
「お食事は食べた気がしないでしょう。お部屋にご用意しましょうか」
「先に風呂、入りてー…」
「お、そうだな。俺が全身洗ってやるよ」
「断る」
「んなっ?!」
拒否され、クラウドはショックを受ける。
「私がお背中をお流ししますよ」
「お前も来んな」
「だってよ」
「あなたも含まれていますが」
同じく拒否されたシオンににやけて言ってやるが、言い返される。
「というかお前、俺とレンの会話に入ってくるなよ!」
「あなたが入ってきたのでは」
「もうコレ取っていいか」
言い合いがヒートアップしそうなシオンとクラウドを制するように、蓮は金髪のカツラとコンタクトレンズを外す。
「はい、お預りします」
シオンは蓮が投げ渡したそれらを受け取り
「おいレン!ここで脱ぐなよ!」
クラウドは衣装も脱ぎ始めてしまった蓮に、あわてて自分の黒コートを羽織らせた。
「外国のお偉方が見たら、ひっくり返るだろうな」
「信じられない光景だからな」
と、護衛たちは応接間を出ていく3人を苦笑いして見送る。
「お綺麗だったな、レン様…」
「ああ…」
そして、蓮の美しい姿を思い出し、うっとりしていた。
「キモ…っ」
と、かわいらしい顔をゆがませ、なでられた右手をブンブン振る。見知らぬ男に手をなでられるのがこんなに気色悪いとは。
「レン君、その顔、気をつけたまえ」
「あー…はいはい」
その様子にウォータ大臣が苦言し、王子…否、王子に扮した蓮は適当な返事をして表情を戻した。
外国からの来賓たちが継承式に招待されたと喜び勇んでお祝いに訪れ、己の地位安泰を願って触れている手は異世界から来た少年、蓮のもの。恩恵に預かろうと根拠のない迷信を信じてやって来たのに、面会したのは王子ですらないのだ。出回っている王子の写真と全く同じ顔なので、疑う余地もない。気の毒にも思うが、知らぬが仏とはこのことである。
「次の方がお入りになられます」
使用人がそう知らせ、大臣も護衛たちも姿勢を戻す。蓮も軽く息を吐いてから、さんざん練習させられた姿勢に座り直した。
「おお…ティリアス様!なんとお美しい…!」
「っ?!」
ある国の老王は祝いの言葉もそこそこに、蓮が手を差し出す前にぐいっと右手を引き寄せる。
「お手もなめらかで…美しい…」
「…っっ?!」
老王はうっとりと蓮の手をなでまわした後、ぶちゅっという擬音が聞こえそうなほど唇を押しつけた。
「~っ!!」
蓮は悲鳴こそ出なかったが全身を粟立たせ、さすがに手を振り払って蹴り倒してやりたくなる。しかし、ちらりと見たウォータ大臣に首を横に振られる。歯を食いしばってなんとかこらえ、老王に手をなでまわされ続けた。
十数人の来賓との面会を終えた時、使用人から次の来賓の到着が遅れているとの知らせが入った。
「では、到着まで休憩にしよう」
ウォータが一息ついて言い、謁見の間の緊張感がゆるむ。
「行くぞ、レン!」
それを待ち構えていたクラウドはぐったりと椅子にもたれていた蓮を抱きかかえ、台座の横にある扉から出て行った。
「クソー…っ!あの色ボケジジイども!!」
謁見の間に隣接する洗面所で、クラウドは文句を言いながら蓮の両手を洗ってやっていた。蓮はすでに疲れ果て、されるがまま手を出している。
「よし、本当は全身洗ってやりたいところだけどな」
石鹸の泡をよく洗い流すと、蓮にタオルを手渡す。
「なぁ」
蓮は手をふきながらクラウドを見上げる。
「ん?」
「お前、殺気出し過ぎじゃね?」
来賓に手を触れられるたび、隣に立つ彼からぞっとするほどの殺気を感じていた。実際に手を出しはしないだろうが、来賓に気づかれたら変な誤解をされるのではないかと気が気でなかった。
「仕方ないだろ!それにあのジジイどもにわかる訳がない」
「あ、そ…」
確かに、戦闘経験のない者に気づかれることはまれだろう。それに、もしこれを本当に王子がやっていたら、蓮も冷静でいられる自信がないので気持ちはわかる。
「レン」
「あ?」
「キスさせろ」
ふいたタオルを手渡すとクラウドが突然場違いなことを言い出し、蓮は絶句する。
「しないと、次のジジイぶっ飛ばすかも」
「ああ?ふざけ…っ!?」
拒絶など聞く気はなく、クラウドは蓮を抱き寄せると強引に唇をふさぐ。
「ん、んん…っ」
もがいていた蓮もしだいに力を抜き、クラウドのキスを受け入れ舌を絡ませる。クラウドはそれに気を良くし、蓮の柔らかな唇と口内をじっくり味わう。下心のある来賓に蓮を触れさせなければならないストレスを、少しは解消出来そうだった。
蓮は仕方ねぇヤツだとクラウドに身を任せながら、アイツはどう思っているのかと相変わらず感情を見せないシオンのことを考えていた。
来賓としてやって来る国の代表は基本友好的で、迷信を信じてひたすら手に触れてありがたがるか、容姿のかわいらしさにやられて触りまくるかの2パターンだが、中には違う対応をする者もいた。
「ウェア王陛下、この度はご即位おめでとうございます」
ある国の皇太子は多数の従者と兵士を引き連れてやって来ると、胸に片手を当てて頭を下げる。蓮はうなずき、手を差し出そうとすると
「噂は本当のようですな」
「?」
膝をつくこともせず、にらむように見上げてくるという今までの者と異なる彼の態度に少し驚く。
「かつて世界最強と言われたウェア王国が戦争を放棄し、武器を捨て、軍隊すら持っていないというのは」
「…」
そんな話を聞いたような気もするが、きちんとこの国の歴史を学んでいない蓮にはピンとこない。
「しかも、我々の帯刀を許しながら、たったこれだけの兵士で王を守ろうとは…」
皇太子は腰に下げた剣のつばに手をやり、国務大臣の後方に立つ20名ほどの護衛たちを見回す。
「平和ボケにも程がありますなっ!!」
と、素早く剣を鞘から引き抜き、蓮の鼻先に突きつけるつもりだった。
「が、ぁ…っ?!」
しかし、彼は剣を抜こうと構えた体勢から動けなくなっていた。蓮の両脇にいたはずの護衛、シオンの手がその剣の柄頭を押さえ、クラウドの手は彼の首に食い込んでいる。剣は片手で押さえられているだけなのに1ミリも動かせず、首に食い込む指はかろうじて息をさせていて、今にも首に穴が開きそうだった。引き連れてきた従者と兵士の前には他の護衛たちが立ちはだかり、助けもない。
殺される…!
皇太子は青ざめ、全身に冷や汗が吹き出る。
「止めなさい。彼の大切な剣が壊れてしまう」
ウォータ大臣が命じ、シオンとクラウドは彼から手を離すと蓮の両脇に戻る。それにならい、護衛たちも大臣らの後方に戻った。
「ひ、はぁっ!はぁっ!!」
死の恐怖から解放された皇太子は崩れるように膝をつき、四つん這いになって息を荒らげる。
「皇太子どの、お戯れが過ぎますぞ」
「は…っ」
ウォータが近づき、彼はびくっとして顔を上げる。
「彼らは兵士ではなく、王室護衛です。お間違えなきよう。それから、我々は歴史上武器を持ったことはありません。必要がないのです。ゆえにあなた方が帯刀しようとしまいと、我々にとって何の意味もなさないのですよ」
「…っ」
噂は本当だった。
『ウェア王国は世界最強。剣も銃も持たず、肉体のみで殺戮を繰り広げる戦闘集団』
それを実際に目の当たりにした皇太子は、ウォータの言葉で更に血の気がひく。ただ、一回り以上も年下の若造が自分より早く国王の座につくことが気に入らず、少しおどかしたかっただけだったのに。
「しかしながら、我が国王の面前でその振る舞いは感心しませんな。ご退出頂いてよろしいですかな?」
「ひぃ…っひぃいっ!」
彼は半分腰を抜かした状態で、カーペットを這うように引き返していく。連れてきていた多数の従者や兵士はすでに逃げてほとんど残っていなかった。
「…ははっ」
彼らの情けない様を呆然と見ていた蓮は両脇のシオンとクラウドを交互に見上げ、思わず笑ってしまっていた。
午後。午前中に面会を行った百人ほどの来賓を招待した披露宴が、応接間で行われていた。
応接間も謁見の間にひけをとらない広さときらびやかさで、輝くシャンデリアに細かな装飾のされた天井と壁、床には柔らかなじゅうたんが敷き詰められ、真っ白なクロスを敷いたテーブルが整然と並ぶ。着席した来賓の前には目にも鮮やかな食事が並べられていくが、それよりも彼らの注目は上座に座るティリアス王子…否、蓮だ。面会の時にまとっていた青いマントは外し、白を基調とした華やかな衣装が彼の美しさを引き立てていて。ワイングラスを口に運ぶ仕草も美しく、両隣に座る大臣の話にうなずいてふと見せる微笑に、皆うっとりと見惚れる。
再びそばに行き言葉を交わしたいところだが、着席の食事ではそれは叶わず、歯がゆい思いをしている来賓が多数だった。それはもちろん会話をすると王子ではないとすぐバレてしまうので、蓮が来賓の前で一言も発しないようにするためだ。また、国務大臣らとも会話しづらい配置になっているうえ、王国内での宿泊も許されておらず、来賓は披露宴終了後、すみやかに出国しなければならない。徹底的にウェア王国の情報収集をしにくくしているのだ。
数時間後、後ろ髪引かれる思いで来賓たちはウェア城を後にした。
「皆、ご苦労だった。レン君も初日にしては上出来だ。明日もこの調子で頼むぞ」
ウォータ大臣は機嫌よく護衛たちを労い、他の大臣らと共に談笑しながら応接間を出ていく。
「お疲れさまです!レン様!」
「お疲れさまです!!」
「ああ…」
護衛たちに口々に労われ、蓮はかろうじて返事をする。じっと動かずに座り、薄笑いを浮かべていることがこんなにキツイとは。いくら練習したとはいえ、慣れないことをし続けて肉体的にも精神的にも疲れきっていた。
「やべぇ…しんど…」
「お疲れさまでした、レン様」
「大丈夫か、レン」
椅子からやっと立ち上がった蓮の両脇に再びシオンとクラウドが陣取る。
「お食事は食べた気がしないでしょう。お部屋にご用意しましょうか」
「先に風呂、入りてー…」
「お、そうだな。俺が全身洗ってやるよ」
「断る」
「んなっ?!」
拒否され、クラウドはショックを受ける。
「私がお背中をお流ししますよ」
「お前も来んな」
「だってよ」
「あなたも含まれていますが」
同じく拒否されたシオンににやけて言ってやるが、言い返される。
「というかお前、俺とレンの会話に入ってくるなよ!」
「あなたが入ってきたのでは」
「もうコレ取っていいか」
言い合いがヒートアップしそうなシオンとクラウドを制するように、蓮は金髪のカツラとコンタクトレンズを外す。
「はい、お預りします」
シオンは蓮が投げ渡したそれらを受け取り
「おいレン!ここで脱ぐなよ!」
クラウドは衣装も脱ぎ始めてしまった蓮に、あわてて自分の黒コートを羽織らせた。
「外国のお偉方が見たら、ひっくり返るだろうな」
「信じられない光景だからな」
と、護衛たちは応接間を出ていく3人を苦笑いして見送る。
「お綺麗だったな、レン様…」
「ああ…」
そして、蓮の美しい姿を思い出し、うっとりしていた。
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