黄金色の君へ

わだすう

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39,探知機

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「レン様、もっと腕を上げて」

 城内にある応接室。テーブルに並べられたいくつもの食器類を前に、蓮は披露宴でのマナー講義を受けていた。先ほどから、グラスを手に乾杯の仕方を外部のマナー講師に教わっているのだが。

「上がんねーよ」

 窮屈な王子の衣装では上がる腕も上がらない。

「上がります!」
「いっ!?」

 強引に腕を上げさせられ、蓮はまた肩が外れるかと思う。

「そして、このように優雅に!」
「意味わかんねーよ」

 抽象的に言われるのが一番困る。この調子で続くのかと、ナルシスト気味な彼女を見ながらうんざりした。








「お疲れさまでした、レン」

 マナー講義をようやく終え、付き添っていたシオンが蓮を労う。

「アレ、やんなきゃいけねーことか…?」

 蓮はぐったりして窮屈な上着を脱ぎ、シオンに手渡す。

「はい。あなたと王子の違いは仕草だけですから、少しでも近づけるには必要なことです」
「あ、そ…」

 それは確かで、言い返す言葉がない。

「レン、私はこれから別の任務がありますのでおそばを離れますが…」
「護衛長、レン様、お疲れさまです!」

 シオンが蓮に言いながら廊下に出ると、非番の護衛たちがふたりにかけ寄り、片膝をつく。

「レン様のご公務は終わったのですかっ?」
「はい」
「では、これからお手合わせをお願いしてもよろしいですか!」

 蓮と戦闘訓練をしたくて待っていたらしい。蓮が許可を得ようと見上げると、シオンは口角を上げてうなずく。なるべく蓮を単独行動させたくない。これから離れなければならない自分に代わり、護衛たちと過ごすなら好都合だと思った。

「構いませんよ。よろしくお願いします」
「ありがとうございますっ!」
「参りましょう、レン様!」

 護衛長の許しが出、護衛たちは嬉々として蓮と共に闘技場へと向かった。









 2時間後。護衛たちと目一杯戦闘訓練を行い、講義でたまったストレスを発散出来た蓮は機嫌よく廊下を歩いていた。汗もかいたし、風呂に行こうかと考えていると

「ぐ…っ?!」

 突然、背後から口をふさがれ、首を腕で絞められる。

「はー…やっとですよ」

 新人護衛最強の実力者、ノームだった。

「うっ!んぅ…っ!」
「あれ以来、全っ然ひとりにならないんですもんね」

 もがく蓮をものともせず、ぐっと首に回した腕に力を込め、そのまま強引に歩かせる。

「ん、ん…っ!」
「まぁ、誰に何を言われようと襲ってしまってもいいんですが、一応世間体がありますし」

 人を拉致しようとしているとは思えない軽い口調で言いながら、蓮が来た道を引き返して行く。また闘技場へ連れ込むつもりなのだ。

「この時間なら、誰も来ないですよね」

 ノームは闘技場の扉を背と肘で押し開ける。そこは先ほど蓮と共に訓練をした護衛たちが清掃を終えていて、暗く静まり返っていた。

「んー…っ!!」

 中に入り、ノームの腕がやや弛んだ隙に蓮は身体を反らして彼の脇腹へ肘鉄をくらわせる。

「ぐぅっ?!」
「はぁ…っ!はぁっ!」

 不意打ちにさすがのノームもうめき、蓮は口を解放されて大きく息を吐く。

「無駄なことをしますね」
「ぅあっ!」

 ノームはすっと冷めた表情になると、蓮の後ろ髪をつかんで無理やり身体を反転させる。

「本当に、往生際の悪い…!!」
「がはっ!!」

 蓮の頭を押さえたまま、無防備な腹に拳を打ち込む。

「一発は一発ですから」
「ぐ…ぅう…っ」

 蓮は上がってきそうな胃液をこらえ、髪をつかまれていて膝もつけず、ただ痛みに耐える。

「床では色気がないですよね。休憩室にしましょうか」

 ノームはにこりと笑み、蓮の首を前からつかむ。

「あっ?!が…!」

 息が出来ず、ノームの決して太くはない腕をやっとつかみ、蓮は闘技場の奥へと引きずられていった。






「…っう!」

 休憩室に入ると、ソファーの上へ乱暴に放り投げられる。

「はっ!あ、はぁっ!はぁっ!」

 やっと呼吸ができ、生理的な涙を流して必死に酸素を取り込む。

「もう怪我はしたくないでしょう?素直に犯されてくれれば、乱暴しませんよ?」

 と、ノームはソファーの上で身を縮める蓮にまたがる。

「は…っふ、ざけん、な…っ」
「ふう…仕方ないですね」

 ノームは大げさにため息をつき、黒コートのポケットから革製の手錠を取り出す。

「あなたのために用意したんですよ」
「い…っ?!」

 蓮の腕をつかんで後ろ手にすると、それを器用に手首に巻きつけ、ぎゅっと締める。

「これなら、アザが出来るくらいで済みます」
「…っ」

 紐や縄と違い、厚みも幅もあって抜くことも千切ることも出来そうにない。

「楽しみましょう?レン様」

 ノームは青ざめる蓮に笑み、ズボンのボタンに手をかけた。






「ふ…っあ、ん…!」

 先走りで濡れるものをねちねちとしごかれ、後孔に入った2本の指が乱暴に抜き差しされる。

「ほら…イってもいいんですよ?」
「んん…っ」

 蓮は歯を食い縛り、首を横に振る。こんな遊び半分で犯されてイキたくない。必死に快感を逃がそうと息を吐き、身体を強ばらせる。

「強情ですね。それはそれでヤリがいがありますが」

 ノームはにやっと笑んで唇をなめる。苦しくなってきた下半身をくつろげようとした時

「誰か、いらっしゃるん…でぇえーっ?!!」
「!」

 休憩室のドアがそろそろと開き、中をのぞいて叫ぶのは新人護衛、カンパ。ノームは蓮に夢中で彼の気配に気づかなかった。

「の、の、ノームっ?!な、何で君がっ、れ、レン様あぁあっ?!」

 実力も人間性も優秀な同志が敬うべき特別な護衛を裸にし、組み敷いている。カンパは意味がわからない光景に混乱し、また叫ぶ。

「はぁー…またあんた?そういう探知機でも付いてんの?」

 ノームは盛大にため息をつき、素の口調になってカンパを見る。

「…ま、また…?まさか、以前にレン様がお怪我をされた時も君が…?」

 ノームの台詞でカンパははっとする。まさか同志が犯人だとは思いもしなかった。

「そうだよ。気づかなかったの?」

 ノームは悪びれることなく、くすりと笑う。

「な、何故…っ?!」
「ああ、あんたは知らないもんね。僕みたいな実力ある護衛は、レン様にこういうことするのが許されているんだよ」
「う…っ」

 びくびく震える蓮を無理やり抱き起こし、赤く染まるほほをつうっとなめる。

「あんた、この人にずいぶん入れ込んでるよね。どう?今なら憧れのレン様を抱けるまたとない機会だよ?」
「ん、ぁ…っ」

 呆然とつっ立っているカンパに見せつけるように蓮の尖った乳首をなで、太ももを押さえてひくつく後孔をあらわにする。蓮の姿にカンパがごくりとのどを鳴らしたのがわかり、ノームは不敵に笑む。

「ふ…っふざけるなぁっ!!」

 だが、カンパは握った拳を震わせ、一気に覇気を高めて怒鳴った。

「いくら許されたことであっても、お怪我をさせてまでしていい訳がない!!レン様を離せ!!」
「チッ」

 飛びかかってきたカンパに舌打ちし、ノームは突き出された手を避ける。

「ぐぅっ!」
「あ…レン様っ?!」

 その拍子に蓮がソファーから床へ転げ落ち、カンパはあわてて走り寄る。

「馬鹿だとは思っていたけど、ここまでとはね!」
「ぐはっ!!」

 蓮を抱き起こそうとしたカンパの顔を、ノームは思い切り蹴りあげた。カンパは勢いよく飛ばされ、壁に背を打ちつける。

「せっかく誘ってやったのに、普通断る?」
「うぐぁっ?!」

 ふたりの戦闘の力量の差は歴然。一撃で動けなくなり、床に倒れこんだカンパの腹を更に蹴りつける。

「…っおい、そいつ、関係ねーだろ…っ」

 彼を巻き込むのは不本意で、蓮はやっと顔を上げてノームに訴える。

「れ、レン様…!ご心配なく…っ!」

 カンパはよろよろと身体を起こすと、這いずるように蓮に近づく。

「私は王室護衛ですから…!あなたを、お守りします…っ」

 そして、蓮の身体の上に覆い被さった。

「な…っ?!」
「…!」

 彼の行動にノームも蓮も驚く。

「何考えてんだあんた?!どけよ!」
「が…っ!ぐぅっ!どかない…っ!」
「どけ!弱いくせに!」

 ノームは頭に血がのぼり、狂ったようにカンパの背や腹を何度も蹴る。カンパはその衝撃と痛みにうめきながら、蓮の上から動くまいと踏ん張る。

「も、やめろ…っ!お前、俺にかまうな!何されてもいーんだよ、俺は…っ」

 このままではノームは彼を殺しかねない。蓮は身体をよじらせ、カンパに怒鳴る。

「ぐ…っ!そ、そんなことっ、おっしゃらないでください…っう!レン様は、この国にとって、大切なお方です…っ!」
「…っ」
「それに…っ私は、あなたを王子以上にお慕い、していま…がふっ!あなたの傷ついたお姿など…っ見たくあり、ません…っ」

 顔をゆがませるカンパの目からこぼれた涙が、蓮のほほに落ちる。

「マジで…バカじゃねーの…」

 蓮は見ていられず顔を伏せ、どうしようも出来ない状況に唇を噛んだ。
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