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36,自慰
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「けど、たまにはヌイた方がいいぞ」
「ヌクって?」
「あー…」
自慰の仕方など、王子に教えていいものだろうかと蓮は悩む。しかし、他に教える者がいないとも思う。
「ティル、来い」
「うん」
呼ぶと王子は素直にそばに来る。蓮はベッドに乗ってあぐらをかき、王子の腰を持ってひざの上に座らせた。
「?」
背後から手を伸ばし、よくわかっていないであろう王子のズボンのベルトを緩める。
「ひょわぁっ?!な、何するのっ?!」
蓮の手が下着に触れたことでようやく気づいたらしく、王子はあわててその手を押さえる。
「出さないとヌケないだろ」
「うぇっ?!で、でも…っ!」
「ヘーキだって。マジのビョーキになるぞ」
「…っ!う、うん…」
観念したようで、押さえていた手を離した。蓮はガラス製のものを扱うかのように、王子のものをそっと下着から出す。
キレイだ。と、単純に思った。
大きさこそ蓮のものと変わらないが、誰も触れたことのないそれは白く、幼く、穢れがない。
「ん…っ」
王子は恥ずかしいやら怖いやらで両手で口をふさぎ、ぎゅっとつぶった目尻に涙がにじんでいる。
「ティル、手」
「ふえ…っ?」
「フツーは自分でやんだよ」
「や、え、え…っ?」
蓮は王子の手を取り、彼の下半身へ導く。
「ほら、こうして握って」
「ひゃうぅ…っ!」
頭をもたげているものを握らせると、びくんと王子の身体が跳ねる。
「あっ!は、あ…っ!」
王子の手に手を添えてしごき、だんだんとそこが硬さをもってくる。
「ヨクなってきたろ…?」
「ん…っあ、わ、わかんない…っ」
耳元でささやけば、王子はびくびくと身体を震わせていっそうほほを上気させた。
「ひっ?!や、やだ…っ待って!レン…っ!」
やがて先端から透明な先走りが出始め、滑りが良くなってくるとびくっと身体を強ばらせて手を止めようとする。
「ん…イキそうか?」
絶頂が近いとわかり、蓮は止めさせまいとしごく手を速める。
「あ、あ…っ!わかんな、いぃ…!」
王子は初めての感覚にただただ戸惑い、蓮に従って右手を動かしながら、反対の手で蓮の左手をぎゅっと握る。
「ガマンすんな、ティル…」
「っ!!ひぁああっ!!」
蓮がふうっと熱い息を耳元で吐くと、大きく王子の背が反り、ふたりの手の中に白濁を吐き出した。
「気持ち良かったろ」
ぐったりと背中を預けてくる王子に、蓮はにっと笑って聞く。
「ふぅー…はぁあ…つ、疲れたよ…」
王子は大きく肩で息をしながら、真っ赤な顔で見上げてくる。
「…!!」
蓮は王子の顔を見て、思わず息を飲む。涙で潤む元々きれいな金色の瞳が、まばゆいほどの輝きを放っていた。まるで宝石のような、いや、夜空に輝く星をすべて集めたような。そんな言葉では表せられない美しさ。えぐり取ってずっと見ていたい衝動にかられる。
「レン…?」
黙ってしまった蓮に、王子が声をかける。
「あ…何でもねー…」
蓮ははっとして、握られた左手にぎゅっと力をこめる。
「休むか?」
「うん…」
疲れてうとうとし始めていた王子がゆっくりと目を閉じ、安堵してため息をついた。
危なかった。
蓮は王子をベッドに横たえた後、手についたものを拭き取っていた。
『金眼は性的な快感で輝きを増し、価値が上がる』
『金眼の者との性交は狂うほど快感』
それらを真似事だが目の当たりにしてしまい、この眼の持つ力は絵空事ではないと実感する。同時にこれを狙う者たちの気持ちも味わったようで、複雑な気分になった。
「…っ」
つーか、俺もヤバい。蓮は不自然に腰を曲げたまま、トイレにかけ込んだ。さすがに王子の眠っている横でやるのは気が引ける。トイレ内で自身を慰めた後、これがシオンにバレたら一緒に入浴した時以上に怒られるだろうなと思った。
「また寝ちゃってごめんね、レン」
1時間後。二度目の昼寝から起きた王子は申し訳なさそうに謝る。
「気にすんな」
ふたりは用意してもらったお茶とリンゴのケーキを並べたテーブルにつき、アフタヌーンティーを楽しんでいた。
「あと、あの…その、ありがとう…」
「あ、ああ」
もじもじと顔を伏せて礼を言われ、蓮は多少の気まずさを感じながらうなずく。
「次は自分でやれよ」
「え…っうん…」
そもそも自慰なのだから、他人にやってもらうものではない。
「ホントは女とすんのが一番だけどな」
「女の人と?」
「セックス」
「ほあっ?!お、お、女の人となんて無理だよっ!!」
その意味は知っていたようで、王子は顔を真っ赤にして叫ぶ。会話は優雅なアフタヌーンティーに似つかわしくない。
「まぁ急ぐことねーし」
この国の適齢期はわからないが、王子のペースで進んでいけばいいと蓮は思う。
「僕…と、いい…」
「あ?」
「レンとがいい…。するなら…」
まさかの誘いに、口をつけたカップのお茶を吹き出しそうになる。
「…い、急ぐことねー…から」
「…うん」
蓮が目を反らすと、王子は拒否と受け取って残念そうにうなずく。王子とこれ以上の一線を越えるつもりはない。自慰の仕方を教えたことを、蓮は少し後悔した。
翌朝。
「ふぉっひょわあぁぁーっ?!」
久しぶりに王子の奇妙な叫び声が彼の自室に響きわたる。
「…はよ、ティル」
どこで寝ようが上着を脱いでしまう蓮は朝から耳痛えと身体を起こす。
ふたりはあれから5カ月前のように共に過ごし、同じベッドで眠った。蓮の自室の狭いシングルベッドではなく、王子のキングサイズの広いベッドだが。
「お、お、おはようーっ!ふ、服…着てっ!レン!」
ちゃんとあいさつをしつつ、王子は蓮の裸体を見まいと真っ赤にした顔を枕で覆う。
「いい加減慣れろよ」
「な、慣れないよ…っ」
蓮はあきれて上着を羽織り、王子はぷるぷる震えながらようやく枕を顔から外す。
「あれ?レンってそんな首飾りしてたんだ」
ふと、王子は蓮の首元をかざるチョーカーに気づく。蓮は普段一切アクセサリーを着けないので、珍しく思ったのだ。
「ああ…もらった」
「もらいもの?誰から?」
「…親」
この世界に来る前、両親から誕生日プレゼントとしてもらったもの。気恥ずかしかったが、シオンの言葉を思い出して着けていたのだ。
「へぇー、誕生日に贈り物をするなんて素敵だね!」
ウェア王国では記念日に贈り物をするという習慣がない。説明をすると、王子は感激して金色の瞳を輝かせる。
「僕も何か…」
「いらねーよ」
プレゼントをしたいと言うと思ったので、蓮は食い気味に断る。
ちなみにシオンはもちろん、クラウドにもチョーカーに気づかれ、説明すると同じ反応だった。このふたりもプレゼントだ何だと言い出し、色々と面倒なので断った。
「お前にはもうもらってるし」
「え?」
王子は何かあげた覚えはないけどと首をかしげる。
「それより、これやるよ」
蓮は両手を首の後ろに回して、チョーカーの金具を外す。
「ふえっ?!だ、ダメだよ!ご両親からもらったものでしょう?!」
それを差し出され、王子はあわてて断る。
「お前にやったって言えば、文句言わねーよ」
「ダメだよ。これはレンが持っていないと」
一度チョーカーを受け取り、蓮の首に着け直す。
「けど…今日から、また会えなくなるんだろ?だから、これを、俺だと…思って…」
蓮は首に回した王子の腕を握り、言いながらだんだん恥ずかしくなって最後の方は口ごもる。
「レン…」
王子もぽっとほほを赤らめる。
「それなら、継承式の時に貸してくれる?レンがそばにいると思って、持っているから」
「ああ」
「ありがとう」
蓮がにっと笑い、王子も微笑む。ふたりはそのまま引き寄せ合うように抱きしめあった。
「レン…大丈夫だよね、僕が国王になっても」
王子の手は震えていた。生まれた時から決まっていたことで、そうなるのが当たり前で。しかし、不安がない訳はない。18年分しかない経験で、一国の命運を背負わせられるのだ。どれだけの責任と重圧を感じているだろう。蓮には想像も出来ない。
「ああ、当然だろ」
「うん…」
「継承式終わったら、約束、な」
「うん…っ」
だから、こうして抱きしめて、こんな軽い言葉しか言ってやれないけれど。多分、そうするのが『友達』だから。
その時、重厚な扉をノックする音と鍵の開く音がした。
「王子、レン様、おはようございます」と、シオンの声。
「チッ…」
蓮は王子にわからないよう、顔を反らして舌打ちする。
「もう、時間だね」
王子も残念そうにつぶやく。
「ん…」
「またね、レン」
「ああ、またな」
顔を見合わせて笑い、ほほと唇に軽いキスを交わした。
「ご有意義な時間を過ごせましたか」
シオンは蓮のやや後方を歩きながら聞く。先ほど、王子は国務大臣たちや王室護衛たちに見送られ、自室にこもった。今日から王位継承式の最終日までの2週間、誰とも顔を合わさずに過ごすのだ。
「ああ」
返事をする蓮の表情は晴れやかだった。今回、ウェア王国に来訪してから精神的に不安定だった蓮が落ち着いたようで、シオンはとりあえず安堵する。その理由が王子と共に過ごしたからだと認めてもいる。だから、昨日はふたりの行動を把握しつつ、邪魔が入らぬよう配慮もした。しかし、ふたりの関係に対する邪な感情がないかと言えば嘘になる。
「それは良かったです」
表面には出さず、口角を上げた。『蓮が何を望んでいるか』が第一だ。
「では、小会議場に参りましょう」
シオンは蓮の背に手を添える。
「あ?」
「説明会を行います」
蓮はあからさまな「面倒くせえ」という顔をした。
「ヌクって?」
「あー…」
自慰の仕方など、王子に教えていいものだろうかと蓮は悩む。しかし、他に教える者がいないとも思う。
「ティル、来い」
「うん」
呼ぶと王子は素直にそばに来る。蓮はベッドに乗ってあぐらをかき、王子の腰を持ってひざの上に座らせた。
「?」
背後から手を伸ばし、よくわかっていないであろう王子のズボンのベルトを緩める。
「ひょわぁっ?!な、何するのっ?!」
蓮の手が下着に触れたことでようやく気づいたらしく、王子はあわててその手を押さえる。
「出さないとヌケないだろ」
「うぇっ?!で、でも…っ!」
「ヘーキだって。マジのビョーキになるぞ」
「…っ!う、うん…」
観念したようで、押さえていた手を離した。蓮はガラス製のものを扱うかのように、王子のものをそっと下着から出す。
キレイだ。と、単純に思った。
大きさこそ蓮のものと変わらないが、誰も触れたことのないそれは白く、幼く、穢れがない。
「ん…っ」
王子は恥ずかしいやら怖いやらで両手で口をふさぎ、ぎゅっとつぶった目尻に涙がにじんでいる。
「ティル、手」
「ふえ…っ?」
「フツーは自分でやんだよ」
「や、え、え…っ?」
蓮は王子の手を取り、彼の下半身へ導く。
「ほら、こうして握って」
「ひゃうぅ…っ!」
頭をもたげているものを握らせると、びくんと王子の身体が跳ねる。
「あっ!は、あ…っ!」
王子の手に手を添えてしごき、だんだんとそこが硬さをもってくる。
「ヨクなってきたろ…?」
「ん…っあ、わ、わかんない…っ」
耳元でささやけば、王子はびくびくと身体を震わせていっそうほほを上気させた。
「ひっ?!や、やだ…っ待って!レン…っ!」
やがて先端から透明な先走りが出始め、滑りが良くなってくるとびくっと身体を強ばらせて手を止めようとする。
「ん…イキそうか?」
絶頂が近いとわかり、蓮は止めさせまいとしごく手を速める。
「あ、あ…っ!わかんな、いぃ…!」
王子は初めての感覚にただただ戸惑い、蓮に従って右手を動かしながら、反対の手で蓮の左手をぎゅっと握る。
「ガマンすんな、ティル…」
「っ!!ひぁああっ!!」
蓮がふうっと熱い息を耳元で吐くと、大きく王子の背が反り、ふたりの手の中に白濁を吐き出した。
「気持ち良かったろ」
ぐったりと背中を預けてくる王子に、蓮はにっと笑って聞く。
「ふぅー…はぁあ…つ、疲れたよ…」
王子は大きく肩で息をしながら、真っ赤な顔で見上げてくる。
「…!!」
蓮は王子の顔を見て、思わず息を飲む。涙で潤む元々きれいな金色の瞳が、まばゆいほどの輝きを放っていた。まるで宝石のような、いや、夜空に輝く星をすべて集めたような。そんな言葉では表せられない美しさ。えぐり取ってずっと見ていたい衝動にかられる。
「レン…?」
黙ってしまった蓮に、王子が声をかける。
「あ…何でもねー…」
蓮ははっとして、握られた左手にぎゅっと力をこめる。
「休むか?」
「うん…」
疲れてうとうとし始めていた王子がゆっくりと目を閉じ、安堵してため息をついた。
危なかった。
蓮は王子をベッドに横たえた後、手についたものを拭き取っていた。
『金眼は性的な快感で輝きを増し、価値が上がる』
『金眼の者との性交は狂うほど快感』
それらを真似事だが目の当たりにしてしまい、この眼の持つ力は絵空事ではないと実感する。同時にこれを狙う者たちの気持ちも味わったようで、複雑な気分になった。
「…っ」
つーか、俺もヤバい。蓮は不自然に腰を曲げたまま、トイレにかけ込んだ。さすがに王子の眠っている横でやるのは気が引ける。トイレ内で自身を慰めた後、これがシオンにバレたら一緒に入浴した時以上に怒られるだろうなと思った。
「また寝ちゃってごめんね、レン」
1時間後。二度目の昼寝から起きた王子は申し訳なさそうに謝る。
「気にすんな」
ふたりは用意してもらったお茶とリンゴのケーキを並べたテーブルにつき、アフタヌーンティーを楽しんでいた。
「あと、あの…その、ありがとう…」
「あ、ああ」
もじもじと顔を伏せて礼を言われ、蓮は多少の気まずさを感じながらうなずく。
「次は自分でやれよ」
「え…っうん…」
そもそも自慰なのだから、他人にやってもらうものではない。
「ホントは女とすんのが一番だけどな」
「女の人と?」
「セックス」
「ほあっ?!お、お、女の人となんて無理だよっ!!」
その意味は知っていたようで、王子は顔を真っ赤にして叫ぶ。会話は優雅なアフタヌーンティーに似つかわしくない。
「まぁ急ぐことねーし」
この国の適齢期はわからないが、王子のペースで進んでいけばいいと蓮は思う。
「僕…と、いい…」
「あ?」
「レンとがいい…。するなら…」
まさかの誘いに、口をつけたカップのお茶を吹き出しそうになる。
「…い、急ぐことねー…から」
「…うん」
蓮が目を反らすと、王子は拒否と受け取って残念そうにうなずく。王子とこれ以上の一線を越えるつもりはない。自慰の仕方を教えたことを、蓮は少し後悔した。
翌朝。
「ふぉっひょわあぁぁーっ?!」
久しぶりに王子の奇妙な叫び声が彼の自室に響きわたる。
「…はよ、ティル」
どこで寝ようが上着を脱いでしまう蓮は朝から耳痛えと身体を起こす。
ふたりはあれから5カ月前のように共に過ごし、同じベッドで眠った。蓮の自室の狭いシングルベッドではなく、王子のキングサイズの広いベッドだが。
「お、お、おはようーっ!ふ、服…着てっ!レン!」
ちゃんとあいさつをしつつ、王子は蓮の裸体を見まいと真っ赤にした顔を枕で覆う。
「いい加減慣れろよ」
「な、慣れないよ…っ」
蓮はあきれて上着を羽織り、王子はぷるぷる震えながらようやく枕を顔から外す。
「あれ?レンってそんな首飾りしてたんだ」
ふと、王子は蓮の首元をかざるチョーカーに気づく。蓮は普段一切アクセサリーを着けないので、珍しく思ったのだ。
「ああ…もらった」
「もらいもの?誰から?」
「…親」
この世界に来る前、両親から誕生日プレゼントとしてもらったもの。気恥ずかしかったが、シオンの言葉を思い出して着けていたのだ。
「へぇー、誕生日に贈り物をするなんて素敵だね!」
ウェア王国では記念日に贈り物をするという習慣がない。説明をすると、王子は感激して金色の瞳を輝かせる。
「僕も何か…」
「いらねーよ」
プレゼントをしたいと言うと思ったので、蓮は食い気味に断る。
ちなみにシオンはもちろん、クラウドにもチョーカーに気づかれ、説明すると同じ反応だった。このふたりもプレゼントだ何だと言い出し、色々と面倒なので断った。
「お前にはもうもらってるし」
「え?」
王子は何かあげた覚えはないけどと首をかしげる。
「それより、これやるよ」
蓮は両手を首の後ろに回して、チョーカーの金具を外す。
「ふえっ?!だ、ダメだよ!ご両親からもらったものでしょう?!」
それを差し出され、王子はあわてて断る。
「お前にやったって言えば、文句言わねーよ」
「ダメだよ。これはレンが持っていないと」
一度チョーカーを受け取り、蓮の首に着け直す。
「けど…今日から、また会えなくなるんだろ?だから、これを、俺だと…思って…」
蓮は首に回した王子の腕を握り、言いながらだんだん恥ずかしくなって最後の方は口ごもる。
「レン…」
王子もぽっとほほを赤らめる。
「それなら、継承式の時に貸してくれる?レンがそばにいると思って、持っているから」
「ああ」
「ありがとう」
蓮がにっと笑い、王子も微笑む。ふたりはそのまま引き寄せ合うように抱きしめあった。
「レン…大丈夫だよね、僕が国王になっても」
王子の手は震えていた。生まれた時から決まっていたことで、そうなるのが当たり前で。しかし、不安がない訳はない。18年分しかない経験で、一国の命運を背負わせられるのだ。どれだけの責任と重圧を感じているだろう。蓮には想像も出来ない。
「ああ、当然だろ」
「うん…」
「継承式終わったら、約束、な」
「うん…っ」
だから、こうして抱きしめて、こんな軽い言葉しか言ってやれないけれど。多分、そうするのが『友達』だから。
その時、重厚な扉をノックする音と鍵の開く音がした。
「王子、レン様、おはようございます」と、シオンの声。
「チッ…」
蓮は王子にわからないよう、顔を反らして舌打ちする。
「もう、時間だね」
王子も残念そうにつぶやく。
「ん…」
「またね、レン」
「ああ、またな」
顔を見合わせて笑い、ほほと唇に軽いキスを交わした。
「ご有意義な時間を過ごせましたか」
シオンは蓮のやや後方を歩きながら聞く。先ほど、王子は国務大臣たちや王室護衛たちに見送られ、自室にこもった。今日から王位継承式の最終日までの2週間、誰とも顔を合わさずに過ごすのだ。
「ああ」
返事をする蓮の表情は晴れやかだった。今回、ウェア王国に来訪してから精神的に不安定だった蓮が落ち着いたようで、シオンはとりあえず安堵する。その理由が王子と共に過ごしたからだと認めてもいる。だから、昨日はふたりの行動を把握しつつ、邪魔が入らぬよう配慮もした。しかし、ふたりの関係に対する邪な感情がないかと言えば嘘になる。
「それは良かったです」
表面には出さず、口角を上げた。『蓮が何を望んでいるか』が第一だ。
「では、小会議場に参りましょう」
シオンは蓮の背に手を添える。
「あ?」
「説明会を行います」
蓮はあからさまな「面倒くせえ」という顔をした。
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