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24,告白
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「超鬼畜ドS…っ死ね…!」
蓮は自室のベッドに伏せ、身体のダルさと痛みに唸っていた。
「どえす…とは?」
温かいお茶をカップに注ぐシオンは、相変わらず何事もなかったかのように爽やかに聞く。
「お前みてーなヤツのことだよ」
「よくわかりませんが、怒っていらっしゃるのですね。申し訳ありませんでした」
と、カップをテーブルに置く。
「あなたが私の気持ちを受け入れてくださったことがあまりに嬉しく、加減が出来なかったのです」
「…何も言ってねーし」
加減出来てねえ自覚あるのかよとあきれつつ、蓮はぼそっと言う。
「私があなたを愛していることは構わないのでしょう?」
「だから、わかんねーよ…」
今冷静な状態で聞いても、何と答えたら良いかわからない。お前も愛せよとか付き合えなどと強要されているわけではなく、愛して良いかと問われているだけなのだから。
「それで良いのですよ、レン」
「…」
シオンはにこりと微笑み、蓮は返事も出来ずモヤモヤした気持ちで枕に顔を埋めた。
「~♪」
講義を終えた王子は鼻歌を歌いながら、蓮の自室に向かっていた。今日は蓮と何をしよう、その前にお昼ご飯を一緒に食べようとウキウキしながら歩く足取りは軽い。
蓮に施してもらった結界のおかげで、お付きの護衛たちは城内の移動くらいには付いて来ないし、ひとり寂しく暗い部屋に戻らなくていい。すべて蓮がいてくれたからであり、王子は彼に対して感謝しかない。何よりも大切で大好きな友達。彼を思うだけで自然と笑みがこぼれてしまう。
ふと前を見ると、護衛長シオンがこちらに向かって歩いて来ていた。シオンはさっと道を譲り、床に片膝を着けて頭を下げる。
「ふふ、シオンはそれやらなくていいって言ってるのに」
と、王子は笑う。シオンは王子が物心つく前からこの城におり、年齢が一番近かったこともあって、幼い頃は遊び相手だった。王室護衛となってからは主従関係になり、敬意を表さず気楽に話すなどもっての他。だが、王子は公の場以外は昔のように接している。
「そのような訳にはまいりません、王子」
シオンは更に頭を低くする。
「あ、誰かに頼もうと思ってたんだけど、お昼ご飯用意してもらっていい?レンの分も」
王子はそんなかつての遊び相手に苦笑いし、頼む。
「承知しました」
「あと…」
「はい」
「シオンはレンとよくお話しするの…?」
おずおずと蓮との関係を問う。昨夜、彼が蓮の自室にやってきた時の蓮とのやりとりが少し気になっていた。
「私はレン様の世話役を担っておりますので、必要な会話はいたします」
シオンは頭を下げたまま、変わらぬ口調で答える。
「そ、そうだよね。ごめんなさい、変なこと聞いて」
「いいえ。では、少々お部屋でお待ちください」
「うん!お願いね」
王子はにっこり笑い、廊下を歩いて行った。
こちらこそ、申し訳ありません。と、シオンは立ち上がり王子の背に謝る。従うべき君主が特別に思っている者を愛し、己の欲望のままに抱いていることは裏切りだろうか。答えのない問いを胸に押し込んだ。
その翌日。
「よう、レン」
王子が講義のため部屋を出たのを見計らったかのように、蓮の自室を訪れたのはクラウドだった。
「…」
蓮は薄く開けたドアから、満面の笑みで手を挙げる彼を冷めた目で見る。
「おいっ?!何も言わないで閉めるな!」
そのままドアを閉めようとするが、がっと手で阻止される。
「何しに来た、怪我人」
と、蓮は仕方なくドアを開けた。
「怪我なんかとっくに治ったぞ。金眼の血縁ナメるなって言っただ…っうぐぅ?!!」
得意げに蓮へ手を伸ばしてくるクラウドの胸に、軽く掌底をくらわせる。
「ぐぐ…っ」
「骨折が2日で治るわけねーだろ。帰れ」
クラウドが折れた肋骨の痛みにもだえるのをあきれて見て、蓮はドアを閉めようとするが
「痛ぅー…っま、待てよ!話が…っ」
こりずにまたドアを押さえられ、ため息をつく。
「何してーのかわかんねーけど、怪我治してから来いよ。俺、まだしばらくいるし」
「レン…心配してくれてるのか…?」
クラウドは蓮が自分の怪我をいたわっていると思い、感動する。
「あ?」
もちろん、蓮にそんな気持ちはない。
「わかった。一週間で治すから待ってろ」
「治るわけねーって。バカか?」
「金眼の血縁、ナメるなよ」
「知るか。早く帰れ」
「まぁ待てって。お前と話すくらい大丈夫だから、心配するな」
「…」
こいつとの会話、疲れるなと蓮は思う。
「なぁ、レン」
クラウドは改まって呼ぶと、蓮を見つめた。鋭い茶色い瞳が大きな黒い瞳をとらえる。
「俺、お前が好きだ」
「…あ?」
急な、まさかの告白。昨日のシオンより意味がわからず、蓮はワンテンポおいて間抜けな疑問符が出てしまう。
「言おうか迷ったけどな。お前本気にしなさそうだし」
と、クラウドは照れくさそうに頭をガリガリかく。
「…」
「お?意外と真面目にとってくれてるのか?」
笑うでもなく、嫌がるでもなく、困惑した顔の蓮に少し驚く。
「んなワケ、ねーし…」
かろうじて悪態をつくが蓮の表情は変わらず、クラウドは全く脈なしではないなと嬉しくなる。
「何だよ、俺が好きだって言ってるんだぞ?嬉しそうな顔しろよ」
「ぅぶ」
にかっと笑い、黙ってしまった蓮の両ほほをつまむ。
「すぐ返事しろとは言わない。でも、どんな返事だろうが俺の気持ちは変わらないからな」
ほほをふにふに触りながら、ちゅっと唇にキスをする。
「好きだ、レン」
そして、もう一度告げながら優しく抱きしめた。
そのまた翌日。蓮は廊下をぶらぶら歩いていた。王子が講義でいない間、ひとりで部屋にいたくなかった。きっとやって来るであろうシオンともクラウドとも、顔を合わせたくないのだ。何で逃げるようなマネしなきゃならないんだと思いつつ、ふたりからの告白は蓮を動揺させていた。
「おい、何してんだ?」
先の廊下を歩いている数人のトレーニングウェア姿の護衛たちが見え、蓮は声をかけた。
「レン様!」
「レン様、おはようございます!」
護衛たちは素早く蓮にかけ寄ると、片膝を着いて頭を下げる。
「…何してんだって聞いてんだけど」
この敬意の表し方が好きではない蓮はイラっとして言う。
「はいっ、失礼しました!」
「はい!我々はこれから…」
護衛たちはあわてて立ち上がり、話し始めた。
その少し後。蓮の自室前では蓮の予想通り、やって来たシオンとクラウドが鉢合わせていた。
「何のご用でしょうか」
「お前に言う必要ないね」
「そうですか。レン様はご不在のようなので、出直してはどうですか」
「は?いないのかよ。よくわかるな」
クラウドはドアも開けずに不在だとわかったシオンに感心する。
「気配でわかります。あなたが鍛練不足なだけですよ」
「チッ…いちいち腹立つな。どこ行ったんだ、あいつ」
「そうですね…。すみません」
「はっ、はい!」
そこに通りかかった使用人は護衛長のシオンに声をかけられ、驚いて立ち止まる。
「レン様をお見かけしませんでしたか」
「あ、はいっ、レン様でしたら、先ほど護衛の方たちと…お話ししているのをお見かけしましたが…っ」
ナンバー2のクラウドもいることで、どぎまぎしながら答える。
「何っ?!」
「そうですか。ありがとうございます」
「チッ…あいつら…っ!」
ふたりは顔色を変え、足早にその場を後にした。残った護衛たちを信用していないわけではないが、どうしても先日の事件を思い出してしまう。
「どこに行ったと思う…っ?」
「護衛たちと一緒なら、まずはあそこでしょう」
ふたりは足を速めた。
「は…っなるほど、ね」
着いたのは闘技場。ここを使用するのは王室護衛のみであり、蓮を連れ込むには適している。息を切らしたクラウドは脇腹を押さえ、納得する。闘技場内からは何かの打撃音と叫び声が漏れ聞こえてくる。ふたりは顔を見合わせ、勢い良く扉を開けた。
「うあぁっ!!」
ちょうどそこに吹っ飛んできた護衛のひとりがふたりの目の前で転がる。
「防御、遅い。受け身も出来てねー」
そんな彼にぶっきらぼうにアドバイスするのは蓮だった。
「ぅぐ…っは、はい…!ありがとうございました…っ!」
護衛は痛みをこらえて片膝を着き、頭を下げる。
「次」
「はい!お願いします!」
あっけにとられるシオンとクラウドをよそに、蓮は別の護衛と手合わせを始めた。
「ありがとうございました!!」
「お疲れさまでした、レン様!」
「またお願いいたします!!」
2時間みっちり戦闘訓練を行い、護衛たちは疲れ果てながらも嬉々として蓮に頭を下げる。
「ああ、お疲れ」
蓮は流れる汗を拭いながら応える。
「お疲れさまでした」
シオンは蓮に歩み寄ると、タオルと水の入ったボトルを差し出す。
「…いたのか」
彼がいたことを今気づいたかのように言い、蓮はそれらを受け取った。
「はい、手合わせの仕方も指摘の内容もお見事でした。彼らも良い訓練になったでしょう。ありがとうございます」
と、シオンは口角を上げる。以前のように余裕がなかったり、八つ当たりのようだったりではなく、護衛たちに合わせた的確な訓練と言え、蓮の指導者としての才能が見え隠れしていた。
「…あ、そ」
蓮はシオンと顔を合わせず、水を飲む。
「レン、待ってろよ」
「あ?」
ずっと不機嫌な表情で闘技場の扉に寄りかかっていたクラウドはポンと蓮の肩に手を置いてから、護衛たちにずかずか近寄る。
「おい、お前ら!!何で俺の許可なくレンと訓練なんかしてるんだよ?!」
「な、何故クラウドさんの許可が必要なのですか?!」
「それに、手合わせをしたいと申し出たのはレン様の方で…」
「うるさい!!お前ら今から外走って来い!!」
「ええぇ?!」
「理不尽です、クラウドさん!」
ぎゃあぎゃあ言い合うクラウドと護衛たちを蓮はあきれて見る。
「何してんだ、アイツ」
「彼らがうらやましいのです」
シオンは言いながら、歩きだした蓮についていく。
「手合わせをなさりたいのなら、私がお相手いたしますよ」
「お前とだけはしねー」
闘技場の扉を開け、やはり顔を合わせない蓮を先に促す。
「あ、おい!待ってろって言っただろ、レン!」
闘技場を出ていく蓮とシオンに気づき、クラウドがあわてて追いかける。残された護衛たちはほっとして掃除に取りかかった。
蓮は自室のベッドに伏せ、身体のダルさと痛みに唸っていた。
「どえす…とは?」
温かいお茶をカップに注ぐシオンは、相変わらず何事もなかったかのように爽やかに聞く。
「お前みてーなヤツのことだよ」
「よくわかりませんが、怒っていらっしゃるのですね。申し訳ありませんでした」
と、カップをテーブルに置く。
「あなたが私の気持ちを受け入れてくださったことがあまりに嬉しく、加減が出来なかったのです」
「…何も言ってねーし」
加減出来てねえ自覚あるのかよとあきれつつ、蓮はぼそっと言う。
「私があなたを愛していることは構わないのでしょう?」
「だから、わかんねーよ…」
今冷静な状態で聞いても、何と答えたら良いかわからない。お前も愛せよとか付き合えなどと強要されているわけではなく、愛して良いかと問われているだけなのだから。
「それで良いのですよ、レン」
「…」
シオンはにこりと微笑み、蓮は返事も出来ずモヤモヤした気持ちで枕に顔を埋めた。
「~♪」
講義を終えた王子は鼻歌を歌いながら、蓮の自室に向かっていた。今日は蓮と何をしよう、その前にお昼ご飯を一緒に食べようとウキウキしながら歩く足取りは軽い。
蓮に施してもらった結界のおかげで、お付きの護衛たちは城内の移動くらいには付いて来ないし、ひとり寂しく暗い部屋に戻らなくていい。すべて蓮がいてくれたからであり、王子は彼に対して感謝しかない。何よりも大切で大好きな友達。彼を思うだけで自然と笑みがこぼれてしまう。
ふと前を見ると、護衛長シオンがこちらに向かって歩いて来ていた。シオンはさっと道を譲り、床に片膝を着けて頭を下げる。
「ふふ、シオンはそれやらなくていいって言ってるのに」
と、王子は笑う。シオンは王子が物心つく前からこの城におり、年齢が一番近かったこともあって、幼い頃は遊び相手だった。王室護衛となってからは主従関係になり、敬意を表さず気楽に話すなどもっての他。だが、王子は公の場以外は昔のように接している。
「そのような訳にはまいりません、王子」
シオンは更に頭を低くする。
「あ、誰かに頼もうと思ってたんだけど、お昼ご飯用意してもらっていい?レンの分も」
王子はそんなかつての遊び相手に苦笑いし、頼む。
「承知しました」
「あと…」
「はい」
「シオンはレンとよくお話しするの…?」
おずおずと蓮との関係を問う。昨夜、彼が蓮の自室にやってきた時の蓮とのやりとりが少し気になっていた。
「私はレン様の世話役を担っておりますので、必要な会話はいたします」
シオンは頭を下げたまま、変わらぬ口調で答える。
「そ、そうだよね。ごめんなさい、変なこと聞いて」
「いいえ。では、少々お部屋でお待ちください」
「うん!お願いね」
王子はにっこり笑い、廊下を歩いて行った。
こちらこそ、申し訳ありません。と、シオンは立ち上がり王子の背に謝る。従うべき君主が特別に思っている者を愛し、己の欲望のままに抱いていることは裏切りだろうか。答えのない問いを胸に押し込んだ。
その翌日。
「よう、レン」
王子が講義のため部屋を出たのを見計らったかのように、蓮の自室を訪れたのはクラウドだった。
「…」
蓮は薄く開けたドアから、満面の笑みで手を挙げる彼を冷めた目で見る。
「おいっ?!何も言わないで閉めるな!」
そのままドアを閉めようとするが、がっと手で阻止される。
「何しに来た、怪我人」
と、蓮は仕方なくドアを開けた。
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得意げに蓮へ手を伸ばしてくるクラウドの胸に、軽く掌底をくらわせる。
「ぐぐ…っ」
「骨折が2日で治るわけねーだろ。帰れ」
クラウドが折れた肋骨の痛みにもだえるのをあきれて見て、蓮はドアを閉めようとするが
「痛ぅー…っま、待てよ!話が…っ」
こりずにまたドアを押さえられ、ため息をつく。
「何してーのかわかんねーけど、怪我治してから来いよ。俺、まだしばらくいるし」
「レン…心配してくれてるのか…?」
クラウドは蓮が自分の怪我をいたわっていると思い、感動する。
「あ?」
もちろん、蓮にそんな気持ちはない。
「わかった。一週間で治すから待ってろ」
「治るわけねーって。バカか?」
「金眼の血縁、ナメるなよ」
「知るか。早く帰れ」
「まぁ待てって。お前と話すくらい大丈夫だから、心配するな」
「…」
こいつとの会話、疲れるなと蓮は思う。
「なぁ、レン」
クラウドは改まって呼ぶと、蓮を見つめた。鋭い茶色い瞳が大きな黒い瞳をとらえる。
「俺、お前が好きだ」
「…あ?」
急な、まさかの告白。昨日のシオンより意味がわからず、蓮はワンテンポおいて間抜けな疑問符が出てしまう。
「言おうか迷ったけどな。お前本気にしなさそうだし」
と、クラウドは照れくさそうに頭をガリガリかく。
「…」
「お?意外と真面目にとってくれてるのか?」
笑うでもなく、嫌がるでもなく、困惑した顔の蓮に少し驚く。
「んなワケ、ねーし…」
かろうじて悪態をつくが蓮の表情は変わらず、クラウドは全く脈なしではないなと嬉しくなる。
「何だよ、俺が好きだって言ってるんだぞ?嬉しそうな顔しろよ」
「ぅぶ」
にかっと笑い、黙ってしまった蓮の両ほほをつまむ。
「すぐ返事しろとは言わない。でも、どんな返事だろうが俺の気持ちは変わらないからな」
ほほをふにふに触りながら、ちゅっと唇にキスをする。
「好きだ、レン」
そして、もう一度告げながら優しく抱きしめた。
そのまた翌日。蓮は廊下をぶらぶら歩いていた。王子が講義でいない間、ひとりで部屋にいたくなかった。きっとやって来るであろうシオンともクラウドとも、顔を合わせたくないのだ。何で逃げるようなマネしなきゃならないんだと思いつつ、ふたりからの告白は蓮を動揺させていた。
「おい、何してんだ?」
先の廊下を歩いている数人のトレーニングウェア姿の護衛たちが見え、蓮は声をかけた。
「レン様!」
「レン様、おはようございます!」
護衛たちは素早く蓮にかけ寄ると、片膝を着いて頭を下げる。
「…何してんだって聞いてんだけど」
この敬意の表し方が好きではない蓮はイラっとして言う。
「はいっ、失礼しました!」
「はい!我々はこれから…」
護衛たちはあわてて立ち上がり、話し始めた。
その少し後。蓮の自室前では蓮の予想通り、やって来たシオンとクラウドが鉢合わせていた。
「何のご用でしょうか」
「お前に言う必要ないね」
「そうですか。レン様はご不在のようなので、出直してはどうですか」
「は?いないのかよ。よくわかるな」
クラウドはドアも開けずに不在だとわかったシオンに感心する。
「気配でわかります。あなたが鍛練不足なだけですよ」
「チッ…いちいち腹立つな。どこ行ったんだ、あいつ」
「そうですね…。すみません」
「はっ、はい!」
そこに通りかかった使用人は護衛長のシオンに声をかけられ、驚いて立ち止まる。
「レン様をお見かけしませんでしたか」
「あ、はいっ、レン様でしたら、先ほど護衛の方たちと…お話ししているのをお見かけしましたが…っ」
ナンバー2のクラウドもいることで、どぎまぎしながら答える。
「何っ?!」
「そうですか。ありがとうございます」
「チッ…あいつら…っ!」
ふたりは顔色を変え、足早にその場を後にした。残った護衛たちを信用していないわけではないが、どうしても先日の事件を思い出してしまう。
「どこに行ったと思う…っ?」
「護衛たちと一緒なら、まずはあそこでしょう」
ふたりは足を速めた。
「は…っなるほど、ね」
着いたのは闘技場。ここを使用するのは王室護衛のみであり、蓮を連れ込むには適している。息を切らしたクラウドは脇腹を押さえ、納得する。闘技場内からは何かの打撃音と叫び声が漏れ聞こえてくる。ふたりは顔を見合わせ、勢い良く扉を開けた。
「うあぁっ!!」
ちょうどそこに吹っ飛んできた護衛のひとりがふたりの目の前で転がる。
「防御、遅い。受け身も出来てねー」
そんな彼にぶっきらぼうにアドバイスするのは蓮だった。
「ぅぐ…っは、はい…!ありがとうございました…っ!」
護衛は痛みをこらえて片膝を着き、頭を下げる。
「次」
「はい!お願いします!」
あっけにとられるシオンとクラウドをよそに、蓮は別の護衛と手合わせを始めた。
「ありがとうございました!!」
「お疲れさまでした、レン様!」
「またお願いいたします!!」
2時間みっちり戦闘訓練を行い、護衛たちは疲れ果てながらも嬉々として蓮に頭を下げる。
「ああ、お疲れ」
蓮は流れる汗を拭いながら応える。
「お疲れさまでした」
シオンは蓮に歩み寄ると、タオルと水の入ったボトルを差し出す。
「…いたのか」
彼がいたことを今気づいたかのように言い、蓮はそれらを受け取った。
「はい、手合わせの仕方も指摘の内容もお見事でした。彼らも良い訓練になったでしょう。ありがとうございます」
と、シオンは口角を上げる。以前のように余裕がなかったり、八つ当たりのようだったりではなく、護衛たちに合わせた的確な訓練と言え、蓮の指導者としての才能が見え隠れしていた。
「…あ、そ」
蓮はシオンと顔を合わせず、水を飲む。
「レン、待ってろよ」
「あ?」
ずっと不機嫌な表情で闘技場の扉に寄りかかっていたクラウドはポンと蓮の肩に手を置いてから、護衛たちにずかずか近寄る。
「おい、お前ら!!何で俺の許可なくレンと訓練なんかしてるんだよ?!」
「な、何故クラウドさんの許可が必要なのですか?!」
「それに、手合わせをしたいと申し出たのはレン様の方で…」
「うるさい!!お前ら今から外走って来い!!」
「ええぇ?!」
「理不尽です、クラウドさん!」
ぎゃあぎゃあ言い合うクラウドと護衛たちを蓮はあきれて見る。
「何してんだ、アイツ」
「彼らがうらやましいのです」
シオンは言いながら、歩きだした蓮についていく。
「手合わせをなさりたいのなら、私がお相手いたしますよ」
「お前とだけはしねー」
闘技場の扉を開け、やはり顔を合わせない蓮を先に促す。
「あ、おい!待ってろって言っただろ、レン!」
闘技場を出ていく蓮とシオンに気づき、クラウドがあわてて追いかける。残された護衛たちはほっとして掃除に取りかかった。
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