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7.ただひたすらに心配で
しおりを挟む「……忙しくなるな」
アークはほんの少しだけ息を吐いて、携帯を取り出す。するとちょうど、新しい補佐官からメールが届いたところだった。メールを開くと、あと2時間程度で着くという知らせ。当たり障りのない返事を返して、朝ご飯を運んできたメアに気づき、ソファーから食卓の椅子へと席を移動した。
「お待たせアーク!今日はこんな感じにしてみました!」
「おお……さすがメア、見た目もすごく綺麗だな」
「えへへそうかな~」
「あぁ」
メアが作ったのは、綺麗な蜂蜜色をしたフレンチトースト、食べやすい大きさに切られた瑞々しい野菜のサラダ、それにメアが手作りした苺ジャムが乗せられたヨーグルト。そこにアークがいつも飲んでいるコーヒーとメアがいつも飲んでいる紅茶をつければ、完璧な朝食の完成だ。量も多すぎず少なすぎず、丁度良い。
調理器具の片付けを少しだけしていたメアが座り終わるのを待ち、アークは手を合わせる。
「いただきます」
「はーい!私もいただきます」
ナイフとフォークを優雅に使い、アークはフレンチトーストを口に運ぶ。その所作は身につけようとしてすぐに身につけられるものではなく、アークは染み付いた癖のようなものだと昔言っていた。それを唐突に思い出したメアは、アークに昔聞かされたことを確認するように問いかける。
「アークはその綺麗な食べ方、いつからなんだっけ?」
「ん、あぁ……16歳、だな。それまでも一応気をつけて食べてはいたんだが」
「そっか。私もこのぎこちない食べ方直さなきゃなぁ」
アークとは違い、メアのナイフとフォークの使い方はお世辞にも綺麗とは言えない。だが別に汚い食べ方をしているわけではなく、普通の所作ではあるがただどこかぎこちないのだ。
「気になるなら俺が今度教えるが……。別に頑張って直すものでもないだろう」
「でも、ほら……新しい補佐官来るし、あんまり見苦しいところは……」
「気にするな。どうしても嫌なら、補佐官が来る時は食べやすいカレーやシチューにすればいいだろう?」
「あ、そっか……うん、そうだね」
アークの言葉にほっとした表情を見せたものの、まだメアの表情は硬い。
__やはり補佐官のことが気になるのか。
アークはいつもより元気のないメアの様子を見て、少し心配になった。仕事が忙しくなると、その分補佐官に頼ることが増える。これからずっとこうではメアが心身共に参ってしまう……。しかし、自分達の仕事について来られるような女性補佐官の空きは今いないし、補佐官がいない生活はそろそろ限界だ。
ならば……。
アークは心の中であることを決心し、とりあえず今はいつも通りいこうと決めた。
「やっぱり美味しいな」
「でしょ~~もっと褒めてくれていいよ?」
「調子に乗ってるとお前の分まで食べるぞ?」
「えっそれは……」
「冗談だ。本気で悩むな」
「も~~~!」
ぷんぷんと小さく怒りながらも、メアの目は楽しそうに細められている。
__さて、俺達の仕事について来られるという優秀な男の補佐官はどんな奴だろうか。
アークは少しだけ冷めたコーヒーを飲みながら、どうかこの傷ついてしまった少女をこれ以上傷つけるようなことはしないでくれと、心の中で願うのだった。
~*~
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