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番外編② (2)
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▫︎◇▫︎
———コン、コン、コン、
眠ってしまった結菜の頭を撫でていると、ノックが響いた。
寒そうに身震いをした結菜の身体にしっかりと上掛けを掛け直した陽翔は、ノックの主に入室の許可を下す。
「どうぞ」
「失礼する」
静かに声を上げて入室した男はチラリと結菜を見つめ、そして微妙で筆舌しがたい表情を浮かべる。
「………妊娠中だろ。無理はさせるな」
「加減はしてるさ」
ふっと笑った陽翔は、愛おしい人の頭を撫でながら挑戦的な笑みを浮かべる。
「“お義兄さん”」
結菜の兄、唯斗が複雑そうだった顔をもっと顰めた瞬間、陽翔は表情を消す。
「………守備は?」
「俺に抜かりがあるとでも?と言いたいところだが、今回ばかりは俺の手に負える範囲ではない」
「………そうか」
僅かな落胆に苛まれながら、陽翔は苦笑する。
「———だが、方法がないわけではない」
「へぇ?」
陽翔は挑発的な笑みを浮かべた唯斗に面白いものを見たかのような表情を向けると、彼に口を開くように促す。
「簡単な話だ。———、———………、」
「———成る程な。確かにそれならば手の出しようもない」
にっこり笑った陽翔は、けれど心に影を落とす。
(これならばゆなも俺も自らの願いを叶えられる。だが、………………これは結構な賭けになりそうだ)
それから結菜が目覚めるまでの間綿密に計画を練った陽翔と唯斗は、結菜が目覚めた瞬間に彼女に服を着せ、即刻屋敷を出発した。
(………吉と出るか凶と出るか、………………危険な賭けであることには変わりない。準備に使えた時間はたった2時間。お義兄さんと小鳥遊先生の人脈を以てしてどこまで防げるのか、………………勝算は3割。阿呆な賭けだな………)
青い顔をした陽翔は車に揺られながら必死になって吐き気を我慢する。
「………綺麗だ」
ぽつりと呟いた声は、静寂に満ちたリムジンに吸い取られていった———。
*************************
読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈
———コン、コン、コン、
眠ってしまった結菜の頭を撫でていると、ノックが響いた。
寒そうに身震いをした結菜の身体にしっかりと上掛けを掛け直した陽翔は、ノックの主に入室の許可を下す。
「どうぞ」
「失礼する」
静かに声を上げて入室した男はチラリと結菜を見つめ、そして微妙で筆舌しがたい表情を浮かべる。
「………妊娠中だろ。無理はさせるな」
「加減はしてるさ」
ふっと笑った陽翔は、愛おしい人の頭を撫でながら挑戦的な笑みを浮かべる。
「“お義兄さん”」
結菜の兄、唯斗が複雑そうだった顔をもっと顰めた瞬間、陽翔は表情を消す。
「………守備は?」
「俺に抜かりがあるとでも?と言いたいところだが、今回ばかりは俺の手に負える範囲ではない」
「………そうか」
僅かな落胆に苛まれながら、陽翔は苦笑する。
「———だが、方法がないわけではない」
「へぇ?」
陽翔は挑発的な笑みを浮かべた唯斗に面白いものを見たかのような表情を向けると、彼に口を開くように促す。
「簡単な話だ。———、———………、」
「———成る程な。確かにそれならば手の出しようもない」
にっこり笑った陽翔は、けれど心に影を落とす。
(これならばゆなも俺も自らの願いを叶えられる。だが、………………これは結構な賭けになりそうだ)
それから結菜が目覚めるまでの間綿密に計画を練った陽翔と唯斗は、結菜が目覚めた瞬間に彼女に服を着せ、即刻屋敷を出発した。
(………吉と出るか凶と出るか、………………危険な賭けであることには変わりない。準備に使えた時間はたった2時間。お義兄さんと小鳥遊先生の人脈を以てしてどこまで防げるのか、………………勝算は3割。阿呆な賭けだな………)
青い顔をした陽翔は車に揺られながら必死になって吐き気を我慢する。
「………綺麗だ」
ぽつりと呟いた声は、静寂に満ちたリムジンに吸い取られていった———。
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