上 下
5 / 9

第1王子

しおりを挟む
 仄暗いアクアマリンの瞳に映る闇に、ジュリアンヌは微笑む。
 そして、彼とよく似た暗い瞳をしたミュリエラに視線を向ける。

「さて、わたくしはこのまま国を出るけれど、最後に何か言いたいことはあるかしら」

 ジュリアンヌの問いかけに、薄桃のふわふわとした髪を持つ彼女は、天真爛漫に微笑ん見せた。

「なーんにも!あーでも!結婚式譲ってほしーな!あたしだって女の子だし、結婚式への願望はあるからさ!!」
「そう。では、この式はあなたへの花向けに譲って差し上げましょう」
「ありがとーございます!」

 にっこり笑った彼女に微笑み返したジュリアンヌは、用は済んだと言わんばかりにもさったく伸ばしていた髪を綺麗に掻き分けた執事に視線を向ける。

「では参りましょう、アレク。いいえ、“アレクサンドル”さま」

 グレーアッシュの髪を掻き分けた彼の容姿に、多くの人間が息を呑む。
 アクアマリンの瞳が美しい彼の整った顔立ちが、あまりにも彼らの目の前に立つ愚かな人間とそっくりであったからだ。

「アレクサンドル第1王子殿下………」

 誰かのつぶやきを皮切りに、ざわめきが大きくなっていく。

 痘痕によって王位継承権を失った神童の名を、ある者は助けを求めるかのように呼び、またある者は恐るかのように呼ぶ。

「あに、うえ………、」

 呆然とした声をこぼした双子の弟であるレアンドルに冷たい表情を向けたアレクサンドルは、汚物を見るかのように口を歪める。

「“不敬罪でぶっ殺してやる”だったか?お前、いつからそんな口が聞けるようになったんだ?」
「それは、兄上だって知ら」
「問答無用。私利私欲で民を切り捨てる人間なぞ、王侯貴族には不要だ。疾くと王位を三男のグレンフォードに譲るといい。お前には分不相応だ」
「なっ!そんなこと兄上に言われる謂れなど!!」
「王位継承権を失おうとも、俺は第1王子だ。第2王子であり、無能王子と名高いお前にそんな権限がるのか?そもそも、立太子もしていない人間が王太子を名乗るなど言語道断。結婚式が終わったら冷宮にて頭を冷やしておけ」
「なっ!」

 唖然としているレアンドルは、すぐに周囲に助けを求める。
 けれど、彼に寄り添う人間はミュリエラ以外誰ひとりとしていない。

「じゃあ、最期まで結婚式をお楽しみくださいませ」

 顔色を青くして震えている貴族たちを放って、誰よりも洗練された礼を披露したジュリアンヌとアレクサンドルは花びらの舞う美しいバージンロードを、新郎新婦のように微笑みを振り撒いて歩いていく。

 多くの人間がハイヒールと革靴の鳴らす美しいハーモニーにうっとりとしているうちに、この国が誇る2つの最高の頭脳が国を捨ててしまったのだった———。

*************************

読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「妹にしか思えない」と婚約破棄したではありませんか。今更私に縋りつかないでください。

木山楽斗
恋愛
父親同士の仲が良いレミアナとアルペリオは、幼少期からよく一緒に遊んでいた。 二人はお互いのことを兄や妹のように思っており、良好な関係を築いていたのである。 そんな二人は、婚約を結ぶことになった。両家の関係も非常に良好であったため、自然な流れでそうなったのだ。 気心のしれたアルペリオと婚約できることを、レミアナは幸いだと思っていた。 しかしそんな彼女に、アルペリオはある日突然婚約破棄を告げてきた。 「……君のことは妹としか思えない。そんな君と結婚するなんて無理だ」 アルペリオは、レミアナがいくら説得しても聞き入れようとしなかった。両家が結んだ婚約を、彼は独断で切り捨てたのである。 そんなアルペリオに、レミアナは失望していた。慕っていた兄のあまりのわがままさに、彼女の気持ちは冷めてしまったのである。 そうして婚約破棄されたレミアナは、しばらくして知ることになった。 アルペリオは、とある伯爵夫人と交際していたのだ。 その事実がありながら、アルペリオはまだレミアナの兄であるかのように振る舞ってきた。 しかしレミアナは、そんな彼を切り捨てる。様々な要素から、既に彼女にはアルペリオを兄として慕う気持ちなどなくなっていたのである。 ※あらすじを少し変更しました。(2023/11/30) ※予想以上の反響に感想への返信が追いついていません。大変申し訳ありません。感想についてはいつも励みになっております。本当にありがとうございます。(2023/12/03) ※誤字脱字などのご指摘ありがとうございます。大変助かっています。

離縁します、さようなら

松茸
恋愛
貴族学園を卒業して半年。 男爵令嬢の私に、公爵家との縁談が決まった。 しかし縁談相手は最低な男で……

不貞の罪でっち上げで次期王妃の座を奪われましたが、自らの手を下さずとも奪い返してみせますわ。そしてあっさり捨てて差し上げましょう

松ノ木るな
恋愛
 カンテミール侯爵家の娘ノエルは理知的で高潔な令嬢と広く認められた次期王妃。その隠れたもうひとつの顔は、ご令嬢方のあいだで大人気の、恋愛小説の作者であった。  ある時彼女を陥れようと画策した令嬢に、物語の原稿を盗まれた上、不貞の日記だとでっち上げの告発をされ、王太子に婚約破棄されてしまう。  そこに彼女の無実を信じると言い切った、麗しき黒衣裳の騎士が現れる。そして彼は言う。 「私があなたをこの窮地から救いあげる。これであなたへの愛の証としよう」  令嬢ノエルが最後に選んだものは…… 地位? それとも愛?

【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!

つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。 他サイトにも公開中。

さようならお姉様、辺境伯サマはいただきます

夜桜
恋愛
 令嬢アリスとアイリスは双子の姉妹。  アリスは辺境伯エルヴィスと婚約を結んでいた。けれど、姉であるアイリスが仕組み、婚約を破棄させる。エルヴィスをモノにしたアイリスは、妹のアリスを氷の大地に捨てた。死んだと思われたアリスだったが……。

私が妻です!

ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。 王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。 侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。 そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。 世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。 5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。 ★★★なろう様では最後に閑話をいれています。 脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。 他のサイトにも投稿しています。

ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
ヒロインがいない。 もう一度言おう。ヒロインがいない!! 乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。 ※ざまぁ展開あり

幼馴染が好きなら幼馴染だけ愛せば?

新野乃花(大舟)
恋愛
フーレン伯爵はエレナとの婚約関係を結んでいながら、仕事だと言って屋敷をあけ、その度に自身の幼馴染であるレベッカとの関係を深めていた。その関係は次第に熱いものとなっていき、ついにフーレン伯爵はエレナに婚約破棄を告げてしまう。しかしその言葉こそ、伯爵が奈落の底に転落していく最初の第一歩となるのであった。

処理中です...