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1章 幸せの花園

1 ノアール・フォン・アイゼン (2)

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 今日もいつも通りの生活が流れていく。
 太陽が昇る前から起床して、お勉強をして、走り込んで、剣を習って、お勉強をして、ダンスを習って、お勉強をして、大臣との会談に参加して………、1秒単位で刻まれた過密スケジュールに慣れきってしまったのはいつのことだっただろうか。

 夜の12の刻を過ぎたあたりで、やっと今日の分のスケジュールを終えたノアールには、これから明日の予習が待っている。

「………あと、ちょっと………………、」

 うとうとする眼をゴシゴシと擦りながら、目の下を真っ黒に染めたノアールは若葉色の濁った瞳で帝王学の教本を読み込む。

 ———眠い、辛い、苦しい、さびしい。

 父王に『よくやった』と言って頭を撫でて欲しい。
 母妃に『愛してる』と言って抱きしめてほしい。

 ———僕の人生はそれだけで、たったそれだけで満たされる。

 迫り来る眠気によって霞む視界で、ノアールは必死にペンを握る。

 ———頑張らなくちゃ。だって僕は、………王子さまなのだから。

 ぱちんという音を立てて両頬を軽く叩いたノアールは、もう1度本に向かい、教本を頭の中に叩き込む。

「敵襲!!敵襲ーッ!!」

 ゴンゴンという大きな鐘の音と共に怒声が耳を振るわせる。
 震える両手で身体を抱きしめたノアールは、真っ白なパジャマの上に手触りの良い群青チェックのカシミヤストールを羽織り、部屋の外に出る。

「あ、あの………、」

 部屋の前で番をしている衛兵は険しい顔をしている。

「………警備の関係上、国王陛下と王妃殿下と共に固まって動いていただこうと思います。構いませんか?」
「大丈夫、です」

 漆黒のふわふわとした髪から覗く若葉のような瞳を不安にゆらめかせながらも、ノアールは毅然とした態度を保つ。
 周囲はそれだけで、僅かながらも安堵を抱くことができることを、ノアールは習っているからだ。

*************************

読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

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