上 下
147 / 243

146 気が効くクラウゼル

しおりを挟む
「だって、そもそもの持ってるものが違うじゃん。前世の記憶然り、美貌然り、魔力属性然り、運動神経然り、私からしたら、梨瑞の持ってる物は遠くて遠くて届かないもん」
「そんなことないわ。あなたにはあなたにしかない、………かけがえのない才能がある」
(でなければ、たった数ヶ月でこんなに変われないもの)

 ベアトリスはやっぱり、マリアのことが羨ましい。心底羨ましくて、憎たらしくて、そしてなによりも親近感が湧いて愛おしい。愛憎は表裏一体とはよく言ったものだと思いながら、ベアトリスはマリアと共に馬車を降りて校舎内へと入っていった。

「遅い」
「知ってる」

 クラウゼルの隣の席に腰掛けながら、ベアトリスはべーっと舌を出した。悪戯っ子のような仕草はどうしても彼の前では抜けないという難点があるベアトリスは、やってしまったと後から後悔する。マリアを送り込んでくれたお礼を言おうと思っていたのにも関わらず、彼の意地悪な言葉のせいで言えなかった。
 なんだか気を使わせてしまったみたいで、少しだけ癪に触る。
 この借りはいずれ10倍にして返さなくてはならない。

「………何があったんだ?」
「ちょっと思い出しただけだから気にしないで」
「………俺は昔、お前に何かしたか?」
「していないわ」
「………イケメン嫌いは俺のせいじゃないのか?」
(そんなことを思っていたのね)

 ぱちぱちと瞬きをして、ベアトリスは驚きをできるだけ隠した。彼に気づかれていないわけがないが、どうしても顕著に驚くのは癪だ。
 それに、そもそも、彼にイケメン嫌いをしっかりと悟られているとも思っていなかった。
 やっぱり、凡人のベアトリスでは天才のクラウゼルにどう努力しても勝てない。


******************

読んでいただきありがとうございます🐈🐈‍⬛🐈

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです

朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。 この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。 そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。 せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。 どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。 悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。 ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。 なろうにも同時投稿

おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 サロン勤めで拘束時間は長く、休みもなかなか取れずに働きに働いた結果。 貯金残高はビックリするほど貯まってたけど、使う時間もないまま転生してた。 そして通勤の電車の中で暇つぶしに、ちょろーっとだけ遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したっぽい? あんまり内容覚えてないけど… 悪役令嬢がムチムチしてたのだけは許せなかった! さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドを堪能してくださいませ? ******************** 初投稿です。 転生侍女シリーズ第一弾。 短編全4話で、投稿予約済みです。

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

私と運命の番との物語

星屑
恋愛
サーフィリア・ルナ・アイラックは前世の記憶を思い出した。だが、彼女が転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢だった。しかもその悪役令嬢、ヒロインがどのルートを選んでも邪竜に殺されるという、破滅エンドしかない。 ーなんで死ぬ運命しかないの⁉︎どうしてタイプでも好きでもない王太子と婚約しなくてはならないの⁉︎誰か私の破滅エンドを打ち破るくらいの運命の人はいないの⁉︎ー 破滅エンドを回避し、永遠の愛を手に入れる。 前世では恋をしたことがなく、物語のような永遠の愛に憧れていた。 そんな彼女と恋をした人はまさかの……⁉︎ そんな2人がイチャイチャラブラブする物語。 *「私と運命の番との物語」の改稿版です。

処理中です...