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奮闘後

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 雹をだんだんと大きくし、あの憎い男を殺そうとしていたわたしは、慌ててひゅっと手を引きました。
 大きくなった雹がガツンという鈍い音を立てて、氷に包まれた部屋の中に落ちる。
 氷にヒビが入り、ひゅっと飲み込んだ冷たい空気に涙が出てきて身体が震え上がるくらいに咳き込む。

(無理をし過ぎたようですね)

 口元を抑えていた紅葉みたいな手には、真っ赤な鮮血がべっとりと塗られています。

 片角にしてはものすごく頑張ったのではないでしょうか。
 自らの敵を薙ぎ払うことに失敗したとしても、わたしは十分に満足しています。だって、あの男はわたしに怯えた視線を向けているから。この世の怖いもの全てを煮詰めて作り上げたお薬を見たかのようなあの表情を見られたら、それで満足です。

「うっ、」

 下方から聞こえる呻き声に、わたしの意識は急激に浮上しました。

「っ!!」

 血に彩られた手がぴくっと震えて、わたしは多分今、………信じられないものを見たかのような表情をしていると思います。

「だん、なさま………?」

 わたしの震える声に、霜の降った漆黒のまつ毛を上げた旦那さまは、緩慢な仕草で起き上がると、わたしの凍りついた身体を躊躇いなくぎゅっと抱きしめました。

「ーーー大丈夫か?鈴春」

 ゆっくりと頭を、背中を撫でられ、安堵させるような仕草で角の付け根に触れられます。
 その優しさに埋もれるようなのにべとっと血のつく撫で方に、声に、わたしはやってしまったことの大きさを理解する。

「やっ、」

 ぐっと旦那さまのお身体から離れようとするのに、上手に拒絶できません。
 震える手は言うことを聞いてくれなくて、それどこらか耳鳴りが聞こえ始めてしまいます。キーンという不愉快極まりない音は、やがて幻聴のようにお父さまやお母さま、お兄さまのお声に変化して、わたしを責め立てる。
 ぎゅっと耳を引っ掻くように握りしめたわたしの手を優しく外した手が、頭を撫でる。

「………だいじょうぶだ」

 耳元にやけに大きく響いた音を最後に、わたしの耳鳴りは消え失せました。
 代わりに響くのはお父さまとお母さま、お兄さま、そして旦那さまの穏やかで優しい声でした。

*************************

読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

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