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羞恥

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「鈴春。あーん」
「? あー、」

 旦那さまのお声に従ってお口をあけると、お口の中にころんと甘いものが広がりました。

「頑張った鈴春へのご褒美だよ」

 コロコロと転がすようにして、その硬く乾燥されている甘味がほろほろとお口の中で解けていくのを楽しみます。

「落雁、ですか?」
「あぁ、そうだ。先日着物を撮りに行った際に見つけてな。お前が好きそうだと買い求めておいた。気に入ったか?」
「はい!とっても」
「そうか」

 旦那さまの微笑みに、わたしも微笑みを返します。

「それでは、わたしはお皿を片付けてきますね」
「あぁ、いってらっしゃい」
「はい」

 昔習った畳の歩き方を思い出しながら、わたしは旦那さまのお部屋から退出します。1畳を3~5歩かつ左足で越えれるように、しゃっしゃという擦れる音が鳴るように工夫して、そして何よりお皿を落とさないように、………うぅー、難しいです。

 やっとのことで旦那さまのお部屋を出たわたしは、台所へと戻ってきます。
 お皿や作った時に使った道具を片付けながら思い出すのは、もちろん先ほどの旦那さまの甘やかな表情と仕草。

「はうぅー、」

 水を出しっぱなしにしている流しに腕を置いたまま、わたしはしおしおと萎れるようにして座り込みました。多分ほっぺたとお耳、あとは首が真っ赤っかになっている気がします。

 旦那さまはあの一件以来、とっても甘くなりました。言いたいことを好きに言うように、言わせるようになりましたし、わたしのことを隠さず可愛がるようになりました。その中の1つに、ことあるごとに、わたしを餌付けするというのがあるのです。

*************************

読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

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