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「これで最後です。
 3つ目に、………わたしをあなたのパートナーとして対等に扱ってください。
 女だからと決めつけず、わたし自身を見て、評価してください」

 そんなの無理だってわかっている。
 男尊女卑の傾向が激しいこの国で、この時世で、わたしが言っていることはめちゃくちゃだ。受け入れてもらう以前の問題だ。

 でも、わたしはこの人に賭けてみたいと感じた。

「———それだけでいいのか?」
「え?」
「そのくらいなら簡単に飲める。流石に王家簒奪とかを言い出したら止めようと思っていたのだが………、そのくらいお安いご用だ。それに、願ってもない提案でもある」

 1度瞳を隠しきり、再びゆっくりと瞳を外気に晒した旦那さまは、その無表情に困った色を宿す。

「俺はいまだに女が嫌いだし、女を愛せる自信がない。お前のことは人として尊敬に値するとは思っていても、女として愛しているかと聞かれれば、答えは否だ。
 宝石商として働くのは………、正直一瞬止めようかと悩んだ。だが、屋敷内でやるのならば構わない。警備の関係上新たに店を持たせてやることはできないが、サロンを開くついでに商売をするのならば、誰も文句は言えないだろう。
 パートナー関係については、後で俺から提案しようと考えていた。俺はお前と対等でありたい。まっすぐと意見をぶつけ合う気持ちよさは、1度体験してしまうと中々に手放し難いものだからな。だから、お前は今まで通り俺に対してあけすけに不遜に振る舞えばいい。俺はそれを望む」

 多分旦那さまは、わたしがその言葉に、その態度に、どれだけ救われたかを知らない。
 たった数十秒の彼の言葉が、わたしの全てを肯定したことに、気づいていない。

「でしたら、気になる節も願いもありません。あなたのパートナーになりましょう」

 デマントイドガーネットの指輪を受け取ったわたしは、自らの手でその指輪を自らの薬指にはめる。

 わたしと旦那さまの間には、誰もが望むであろうチョコレートみたいにどろどろな“愛”も、砂糖菓子みたいに甘々な“恋”も存在していない。

 あるのはダイヤモンドみたいに硬質な誓いのみ。
 けれど、それがわたしには何よりも心地よくて、何よりも幸せだった。

 独身貴族を謳歌したかった男爵令嬢であるわたしは、女嫌いな公爵さまと結婚して、かけがえのない理解者を手に入れました。

*************************

読んでいただきありがとうございました🐈🐈🐈
これにて完結になります!!
最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました😊
次の話にキャラクタープロフィールを更新しておきます。
番外編や続編のご依頼を受けようと思っています。
ご希望の方は感想欄からお知らせください!!

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