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1章:逢魔時
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しばらく無言で歩き続け公園にさしかかった時、ベンチが見えたので、一端休憩と情報整理をしようと中に入る。
「……んじゃあ、お互いの意見交換、するか」
二人はベンチに座り話始める。
「ええと……まず私達は辰野市のほたる祭りに行くために、電車に乗った」
その後、眠ってしまい、目が覚めると目的の駅だったのでホームに降りたが誰もいなかった。さらに電車や線路が消え大きな穴が広がっていた。まるでそれは『ここで世界は終わった』と思う程の穴だった。
そして記憶に曖昧な部分があると気づいた。しかしそれは、探索を始めたら戻ってきた。
もう一つ分かったのは、時間が進まないということ。腕時計を見ても、スマホを見ても、未だに十六時である。先程から一分も進んでいない。
この夕暮れの町からの脱出の糸口は見つからない。しらみ潰しに探してもただ疲れて、イライラして、結局どうにもならなくなる。二人は溜息を吐いた。
会う者皆物言わぬ影ならば、もう何処を探せばいいのか検討もつかない。
二人ベンチでどうするか頭を悩ませていると、どこからかサアァァァ……と、雨が降る音が聞こえてきた。辺りを見回すと、公園の入り口に真っ赤な傘と白い服が目に入った。雨は降っていないのに、何故か静かな雨音だけが未だに聞こえてくる。
「あの……どちら様でしょうか?」
螢はベンチから立ち上がり、ここに来て初めてみる色のついた人らしきモノに近づき尋ねる。その人はスッと螢の方を見た。振り返ったその人物は、和傘を差し着物を着た女性だった。血の気があまりなく、すらりとした体格。まっすぐ伸びた長い黒髪が白い着物に映えている。少し切れ長の目、整った顔立ちだ。だがその人はなぜか全身がびしょ濡れだった。
「どちら様……ね。それはこちらに台詞なのだけど、まぁいいわ。
私は雨女。貴方達は、そう、人間ね。……境界が少し緩くなる『逢魔時』にこちらのに迷い込んでしまったのね。たまにいるのよ、人間がこちらの世界に来ることは」
「ち、ちょっと待ってくれ! 『迷い込んだ』ってなんだ、『こちらの世界』ってなんだよ……それにアンタの名前まるで〝妖怪〟じゃ……」
信乃は雨女の側に駆け寄り彼女の言葉をさえぎり疑問を口にする。そんな信乃を一瞥し溜息を吐いた雨女は目を閉じ冷静に言った。
曰く、──ここは裏の世界。普段、螢や信乃たちが住む、表の世界の人間は誰一人として察知することはない。が、『逢魔時』に限り裏の世界と表の世界の境界線が緩くなる。その際人間が希に『こちらの世界』に迷い込んでしまう、いわゆる『神隠し』と呼ばれる現象が起きてしまうことがある。
「こちらに来た人間は貴方達だけじゃなかった。でも早く帰らないとこちらに肉体が馴染んであちらに帰ることを拒絶し始める」
雨女は更に続ける。
「それと、こちらには人間は限りなくゼロに近いわ。いるのは先程貴方が言った『妖怪』と呼ぶ者達……私もそう。貴方達、あちらの人間に好意的な者もいるにはいるけれど、そうじゃない者もいるわ。それだけは覚えておいて」
人間は限りなくゼロに近い……。だがゼロに近いだけで別にいないわけではない。であれば、まずはその人間に会って話をするべきではないのか、と信乃は思った。
しかし、残りは先程自分の言葉を肯定した『妖怪』のみ。しかもこちらに友好的では無い者もいるという。行動を起こすにも慎重にならなければいけない。雨女だって嘘を吐いている可能性もあるのだ。
「その話、嘘じゃないんだな」
信乃が問うのに、雨女は視線を合わせ頷く。
彼女は信じてもよさそうだった。ここで嘘を吐いても仕方ないのだろう、と信乃は納得する。
「あの……ここは裏の世界という事は分かりました。でも、『ここはどこ』なんですか?」
螢が聞く。
「ここは、『幽明ヶ原』。〝最期の場所〟よ」
雨女が静かに告げた。
「……んじゃあ、お互いの意見交換、するか」
二人はベンチに座り話始める。
「ええと……まず私達は辰野市のほたる祭りに行くために、電車に乗った」
その後、眠ってしまい、目が覚めると目的の駅だったのでホームに降りたが誰もいなかった。さらに電車や線路が消え大きな穴が広がっていた。まるでそれは『ここで世界は終わった』と思う程の穴だった。
そして記憶に曖昧な部分があると気づいた。しかしそれは、探索を始めたら戻ってきた。
もう一つ分かったのは、時間が進まないということ。腕時計を見ても、スマホを見ても、未だに十六時である。先程から一分も進んでいない。
この夕暮れの町からの脱出の糸口は見つからない。しらみ潰しに探してもただ疲れて、イライラして、結局どうにもならなくなる。二人は溜息を吐いた。
会う者皆物言わぬ影ならば、もう何処を探せばいいのか検討もつかない。
二人ベンチでどうするか頭を悩ませていると、どこからかサアァァァ……と、雨が降る音が聞こえてきた。辺りを見回すと、公園の入り口に真っ赤な傘と白い服が目に入った。雨は降っていないのに、何故か静かな雨音だけが未だに聞こえてくる。
「あの……どちら様でしょうか?」
螢はベンチから立ち上がり、ここに来て初めてみる色のついた人らしきモノに近づき尋ねる。その人はスッと螢の方を見た。振り返ったその人物は、和傘を差し着物を着た女性だった。血の気があまりなく、すらりとした体格。まっすぐ伸びた長い黒髪が白い着物に映えている。少し切れ長の目、整った顔立ちだ。だがその人はなぜか全身がびしょ濡れだった。
「どちら様……ね。それはこちらに台詞なのだけど、まぁいいわ。
私は雨女。貴方達は、そう、人間ね。……境界が少し緩くなる『逢魔時』にこちらのに迷い込んでしまったのね。たまにいるのよ、人間がこちらの世界に来ることは」
「ち、ちょっと待ってくれ! 『迷い込んだ』ってなんだ、『こちらの世界』ってなんだよ……それにアンタの名前まるで〝妖怪〟じゃ……」
信乃は雨女の側に駆け寄り彼女の言葉をさえぎり疑問を口にする。そんな信乃を一瞥し溜息を吐いた雨女は目を閉じ冷静に言った。
曰く、──ここは裏の世界。普段、螢や信乃たちが住む、表の世界の人間は誰一人として察知することはない。が、『逢魔時』に限り裏の世界と表の世界の境界線が緩くなる。その際人間が希に『こちらの世界』に迷い込んでしまう、いわゆる『神隠し』と呼ばれる現象が起きてしまうことがある。
「こちらに来た人間は貴方達だけじゃなかった。でも早く帰らないとこちらに肉体が馴染んであちらに帰ることを拒絶し始める」
雨女は更に続ける。
「それと、こちらには人間は限りなくゼロに近いわ。いるのは先程貴方が言った『妖怪』と呼ぶ者達……私もそう。貴方達、あちらの人間に好意的な者もいるにはいるけれど、そうじゃない者もいるわ。それだけは覚えておいて」
人間は限りなくゼロに近い……。だがゼロに近いだけで別にいないわけではない。であれば、まずはその人間に会って話をするべきではないのか、と信乃は思った。
しかし、残りは先程自分の言葉を肯定した『妖怪』のみ。しかもこちらに友好的では無い者もいるという。行動を起こすにも慎重にならなければいけない。雨女だって嘘を吐いている可能性もあるのだ。
「その話、嘘じゃないんだな」
信乃が問うのに、雨女は視線を合わせ頷く。
彼女は信じてもよさそうだった。ここで嘘を吐いても仕方ないのだろう、と信乃は納得する。
「あの……ここは裏の世界という事は分かりました。でも、『ここはどこ』なんですか?」
螢が聞く。
「ここは、『幽明ヶ原』。〝最期の場所〟よ」
雨女が静かに告げた。
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