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4章 ついに始まる乙女ゲーム
19話 思いを届ける sideオリヴァー
しおりを挟むエル様がすがるように涙をためた瞳で見上げてくる。瞳にたまったそれは今にもこぼれ落ちてしまいそうだった。
「エル様は、エル様だよ。」
できるだけ優しく見えるよう微笑む。
「俺の知ってるエル様は、優しくて思いやりがあって、たまに自分をないがしろにするのは心配だけど人のために動けるすごい人だよ。努力だってできるし、幼い頃から頑張ってきてること、知ってるから。エル様は決して駄目な子なんかじゃない。」
少しでもエル様に届けば…と諭すようにゆっくりと続ける。
「エル様は、俺たちをゲームの登場人物にしか見てなかったって言ったけど、嘘だよ。
もしそうだったら、たぶん俺たちはエル様のことを好きになってないしもっと違う結果だったと思う。
それに、少なくとも俺には、前世の記憶でもプログラムでもない、今俺の目の前にいるあなたが必要だった。俺は、あなただから…」
前世の記憶なんかどうでもいい、と言えば語弊があるが、全部ひっくるめてエル様で、俺はそんな彼女が好きなんだ。
「前世も何もかも混ざりあった、今俺の目の前にいるあなたこそが、伊織さんでもプログラムでもない、あなたこそがエリューシアだよ。あなたは要らない人なんかじゃない。」
泣きたいのはエル様のはずなのに…声が震えそうになる。
「わたくしは、わたくしでいていいの?今の、わたくしがエリューシア?こんなわたくしでも、必要だって言ってくれる…?」
「当たり前だよ。大切なんだ…幸せになってほしいと思ってる。だから、要らないなんて言わないでよ…。」
「おー、り…わたくし…わたくし…っ」
ぽろぽろと綺麗な涙がこぼれ落ちる。
「ほら、おいで。」
すがるように飛び付いてきたエル様を、いつかと同じように抱き締める。
「そんなに不安にならなくても大丈夫。俺は何があってもエル様の味方だよ。
そのげぇむ?だと俺も役割があるんでしょ?でも、その俺とは違う。エル様が行動したことで俺も、エル様も変わった。俺はエル様と会えて…あの時、エル様の家庭教師になれて良かった。エル様に感謝してるんだ。
大丈夫、もう未来は変わってるから、だから…エル様はエル様として生きていいんだよ。どうかあなたの幸せを、求めてほしい。」
俺の肩に顔をうずめ静かに涙を流し続けるエル様の頭を優しく、優しく撫でる。
少しでも俺の気持ちが届けばいい。エル様が元気になるなら、言葉にだって行動にだって示そう。
「オーリっ」
嗚咽をこぼしながら俺の名前を呼び、しがみついてくる仕草に胸が痛む。今にも消えてしまいそうな弱々しい彼女の体をぎゅうっと抱きしめた。
「大丈夫、俺はここにいるよ。どこにもいかないから。ずっと一緒にいるよ。」
「わたくしは、オーリを縛り付けたくない、から…そんなこと、言っては駄目よ。でもね、その、嬉しいわ。ありがとう。」
「エル様が望んでくれるなら、いつまででも一緒にいるよ。エル様が間違った時は側で俺が止めてあげる。だから安心して、俺たちの側にいてよ。それとも、エル様は俺たちといるの、いや?」
エル様の顔を覗きこみながら問う。我ながら卑怯な質問の仕方をしたと思うが、エル様の意思で、一緒にいたい、と思って口にしてもらいたかった。こうでもしないとエル様はきっと、また自分の気持ちを押し込んじゃうから…。
「そんなことないわ!わたくしは、オーリと…みんなと、ずっと一緒にいたい…っ。」
「うん、それでいいんだよ。一緒にいたいなら、いればいいんだ。俺たちだって一緒にいたいと思ってるんだから、ね?」
「ほんと?一緒に、いてもいい?」
「むしろ、一緒にいてください。」
ぽん、と頭を撫で微笑めば見つめた瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。綺麗な涙だった。
「ありがとう、オーリ…。」
「いつでも頼ってよ。
さて、お茶も冷めちゃったし、淹れなおしてお茶飲みながらお話でもしようか。」
にこっと笑顔をむけると最初の緊張なんてなかったようにほっとしたような顔のエル様が薄く微笑んで頷いてくれて…。
それからの時間は、お茶を飲みながら色々な話─途中から勉強の話になってしまったが─をしてゆったりとした時間を過ごした。
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