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4章 ついに始まる乙女ゲーム
10話 私と彼の関係は
しおりを挟むわたくし達は…わたくしとオーリは今、何故かクリストフ・アズラルの部屋で、仲良く彼の淹れたお茶を飲んでいた。
何故か、と言っても誘われて仕方なく付いていった結果なのだが…。
「美味しいでしょこのお茶。いおりんは懐かしい、かな?」
仮にも皇子という立場の彼が手ずから淹れてくださったお茶は、日本茶に似た味わいで、確かに懐かしさは感じていた。
「あの、いい加減いおりんって呼ぶの止めてくれませんか?」
「アズラル帝国の特産品でさぁ、飲んだときびっくりしたな。」
何度言ってもなおらない呼び方に苦言を呈すが、そんなことなどどこ吹く風、といったように話を続ける彼に、思わず顔をしかめる。
「わたくしは、エリューシアですわ。」
「知ってるよ、そんなこと。ただ俺にとって君は伊織なんだよ。
…それに、いおりんってかわいいでしょ?
君だって役名で呼ばれるよりもよくない?」
「わたくしはエリューシアを役名だと思ったことはっ…!」
「ないとは言えないでしょー?特に今とかさ。」
2人で言い合いを続けていると、あの…、と小さく会話をとめる声がした。
はっと声のした方をみると、困惑顔のオーリが…。
彼がいることを忘れていた…なんてことは決してない。うん。
「あ、ごめんレオルド先生。
そういえば自己紹介がまだだったね。
まぁ知ってるだろうけど僕はクリストフ・アズラル。一応アズラル帝国第十一皇子で、留学生なのに何故か生徒会の会計をさせられてて…。
それから、いおりん…エリューシアの前世の友人さ!」
何でもないことのように暴露したクリストフにわたくしはため息を吐く。隣に座っていたオーリなんて目を丸くして固まっている。
「クリスさん…。そういうのはもっと順を追って説明しないと…。」
「結果的には変わらないでしょ?」
「レオルド先生…いえ、オーリ。わたくしがちゃんと説明いたしますわ。だから固まっていないでしっかり思考を働かせて聞いてくださいまし。
…そのあと、いくらでも質問を受け付けますわ。」
諦めにも似た気持ちでオーリに笑いかける。彼はゆっくりと、頷いた。その顔はどうしてか、今にも泣き出しそうに見えて…。
そんな顔を見たくなくて、私は俯きがちに話し始めた。
ことは数日前に遡る。
ベイナージ先生のすすめもあり生徒会の庶務に任命された数日後。
生徒会室に集められた他の役員達にあいさつをすませ、帰路につこうとしたときだった。
ここまではよかったのだ。
「ねぇ、エリューシアさん。」
彼に声をかけられたのはそんなとき。
「…何でしょうかアズラル様。」
少し警戒しながら振り向くと、にこやかに笑うクリストフ・アズラル。
「ちょっと話があるんだけど、時間ある?」
「…大丈夫、です。」
「そう、それは良かった。じゃあ、こっち。
アンディ!僕がこの子案内しとくね~。」
「ああ、任せた。
エルちゃん、いってらっしゃい。」
アンディ…生徒会長のアンドリュー王太子殿下は、こちらに軽く手をふると、自分の執務に戻ってしまった。
「とりあえず先に案内しちゃうねぇ。
庶務の仕事はさっき説明された通り。庶務の人は他の人の部屋に行くことが多いからちゃんと覚えてね。」
そういってきちんと案内をしてくれるクリストフ・アズラルに付き従うように生徒会棟を見て回る。
三階建てのこの棟は最上階の三階に生徒会室、その下の階にそれぞれ役員の部屋や、備品室などがあるという。
一通り回り終えると、クリストフ・アズラルの部屋に入るよう促される。
ガチャ、と扉を閉めると
「それじゃあ、早速本題だけど」
そういってこちらを振り返った笑顔に、何故か見覚えがある気がして─。
「ねぇ、君は誰?エリューシア・イルファスじゃないよね?」
告げられた言葉が予想外すぎて、先程の既視感の正体も分からないまま思考が停止する。
「俺の知ってるエリューシア・イルファスとはまるで別人みたいだ。だって本物のエリューシアは君みたいに大人しくない。もっと高慢なはず。
君は、転生者?」
「わた、くしは…。」
何を言っているのだろうか、この人は。
何を、知っているのだろうか─。
言葉を詰まらせたわたくしに一歩、一歩と詰め寄るように、近づいてくる。
「君から、懐かしい感じがするんだ。これはただの直感にすぎないけど…。もしかして─前世の知り合い、だったり、ね?」
そう首を傾げた彼が、ある人と重なる。
既視感の正体はこれだったのだ。
「比留川、連…?連…さん…?」
「そう、やっぱり君は伊織だったんだね。」
すぐ側まできた彼は優しい顔で微笑む。
「エリューシアの行動がおかしいとは思ってたんだ。
でもそれだけだと転生なのか、ただ僕の頭がおかしいのか、何かのバグなのか…分からなかったから、この話をするかは本人に会ってから決めようと思っていたけど─。
案外、あった瞬間に分かるものだね。姿形が変わっても、何故か君が水島伊織だって確信できた。
でも、鎌をかけるようなことしてごめんね。」
感覚的なものだったから確かめたくて、と申し訳なさそうなクリストフ・アズラル─前世の比留川連。私の兄の友人。いつも兄の後ろから、心配そうにこちらを見ていた人。
─唯一、私に心から優しくしてくれた人。
会えることも、話せることも少なかったが、確かに私に愛をくれた。私の全てを知ってなお、優しくしてくれた。
それは、血の繋がった兄よりも兄らしく、家族愛に似たもの。
何故、彼もここにいるのか。何故、彼がクリストフ・アズラルなのか。
そんなことはどうでも良かった。ただ、無性に懐かしくて、優しくされた記憶がよみがえって、泣きたくなった。
おいで、と彼が優しく手を広げるから、前世と同じように、優しげに笑うから、吸い寄せられるように彼に近づきわたくしは、私は、思い切り彼に抱きつき、泣いてしまった─。
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