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4章 ついに始まる乙女ゲーム

4話 主人公登場

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「皆さんおはようございます。」
ベイナージ先生のあいさつに、いつもは静かになるはずの教室が今日はざわざわと騒がしい。
それもそのはずで…。
「もう分かっているようですね。それではさっそく入ってきてもらいましょう。」
先生の声のあと、ガラガラっと音をたてて扉が開く。
「今日から少し遅れて皆さんのクラスメイトになる、リリアンネ・ダズフストさんです。」
「り、リリアンネです。皆さんよっよろしくお願い、しましゅ!!…します。」
顔を真っ赤にしながらガバッと頭をさげた女の子。ふわふわのストロベリーブロンドの髪の毛を可愛らしく薄ピンクのリボンでハーフツインテールにしている可愛らしい彼女こそ、この乙女ゲームアザレアの主人公その人である。

アザレアのパッケージに書かれていた名前もない彼女が、今わたくしの目の前にリリアンネとして現れた。乙女ゲームの、はじまりを意味する今日この日。わたくしのテンションはただ下がり。過去最低である。さすがにそれを表に出したりはしないけど。

「可愛い子だね。」
「確かに、貴族にはいないタイプだね。平民クラスにはいそうだけど。」
「あの子このクラスでやってけるのかな?」
「どうだろうな。」
3人はのんきにリリアンネ・ダズフストの評価をしている。

「あ、あの、隣いいですか?」
ぼーっと3人の会話を聞いていると、通路からかかる声。はっと見上げると、恥ずかしそうに顔を赤らめ、こてん、と首も傾げたリリアンネ・ダズフストがいた。

「先生が、ここがいいだろうって…。ダメ、ですか?」
わたくしが何も返さないまま固まっていると、顔をくもらせた彼女が何故こちらに来たのかの理由とともにもう一度問いかけてくる。
「ごめんなさい、少しぼーっとしていたわ。
どうぞ。わたくしはエリューシアですわ。エルと呼んでくださいね。」
慌てて笑みをはりつけ座るよう促す。
「エル様ですね!よろしくお願いします。」
沈んだ表情から一転、ぱぁっと花開くように顔を明るくした彼女。ころころ変わる表情。女の子らしく、小動物みたいで可愛らしい。

そんな彼女を他の生徒から守るため、そして王子との関係を持たせるために、わざと先生はここの席を進めたのだろう。乙女ゲームでは王子の隣だったし。
ちらりと先生を見ると、ちょうど彼女もこちらを見上げていて目が会う。軽く頷かれたので予想はあっていたのだろう。

「朝の連絡は以上です。皆さん、彼女と仲良くしてあげてくださいね。
一時間目には遅れないように。それでは。」
それだけ告げて教室を出ていくベイナージ先生。

先生が出ていくと、一斉に皆が立ち上がりこちらを見る。こちらを…というよりリリアンネ・ダズフストを、だが。
しかしここは一応貴族クラス。ぐいぐい押し掛けてくるほどマナーのなってないやつは…いない、はず何だけどなぁ…。

「リリアンネさん、あなた光の精霊から加護をもらってるんですって?」
「まぁすごい。」
「え、あ、あの?」
特攻を仕掛けてきたお馬鹿令嬢達。それに戸惑う彼女に、助け船をだしたのは…。
「落ち着きなよ。リリアンネ嬢はまだ慣れていないんだ。そんなに皆で囲んだら可哀想だろう?」
「俺たちもいるの忘れるなよ。」
「1人ずつ、だよ。」

わたくしの前の机に並んで座っていた友人達。
フレディ様は紳士的に。イリスくんはうるさいのが苦手だからか、不機嫌そうに。マシューは可愛らしく、めっ!とでも言いそうな勢いで。
彼女を助ける様は、乙女ゲームの再現のようだった。…だめね、何でもかんでも結びつけてしまうのは。

「ご、ごめんなさぁい。私達ぃリリアンネさんと仲良くなりたくてぇ…。」
媚びるような令嬢達の声。うるうると目を潤ませ彼らに謝る彼女たちは、さぞ自分の演技に自信があるのだろう。

「仲良くなりたいのなら、自分から名乗ってはいかがですか?非常識でしてよ。」
うっすらと笑みをうかべ、注意をする。わたくしの顔に顔を青ざめ散っていく令嬢達。
失礼な。わたくしは注意しただけなのに。まぁ悪役顔なのは自覚しているけれども。

「大変ですわね。でも、大丈夫ですわ。わたくしもいますし、何よりこの3人が守ってくれますわよ。」
なるべく優しそうに見えるよう微笑みかけ、戸惑っているリリアンネ・ダズフストに声をかける。

「あ、ありがとうございます!今まで街の方で生活していて…慣れなくて…。実はちょっと、怖かったんです。」
彼女はエメラルドの瞳を、さっきの令嬢達とは違い演技なしで潤め安堵のため息をはく。

「俺たちがいるから安心するといい。俺はアルフレッド、フレディと呼んでくれ。」
「イリス。」
「マシュリッドだよ。マシューって呼んでね。リリーでいいかな?」
「はっはい!フレディ様に、イリス様に、マシュー様ですね。
どうぞリリーとお呼びください。」

安心したのか、にっこりと天使のような笑みを浮かべた彼女。どこをどうみても可愛い。少したれ目な目も、柔らかそうなふわふわの髪も、屈託のない純粋な笑顔も…。

どうしても、暗い方向に思考がいってしまう。

「姉さん?移動教室だよ?」
「あら、もうそんな時間?行かなきゃね。リリアンネさんはまだ分からないでしょう?この学園、広いものね。よかったら一緒に行きましょう。」
前世含め磨きあげた演技で、暗い感情や考えは全て内に隠し微笑む。

こういう時、みんなに心配をかけないでいられる、から…演技が出来て、よかったと心底思った。


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