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4章 ついに始まる乙女ゲーム

3話 全て疲れのせいに

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入学から3週間がたち、ようやく学園生活にも慣れてきた頃。

「イリス様よ!格好いいわぁ…。」
「マシュリッド様、いつみてもお可愛らしいわ。」
「アルフレッド殿下は今日もお美しい…。」

緊張が抜けてきたからか、こういった年頃の女の子特有の…と言っていいのかは分からないが黄色い歓声に似たざわめきが、廊下を歩くたびに聞こえてくるようになった。
そんなイケメン3人組と言われ、アイドルのような扱いを受けている彼らと一緒に行動することが多いわたくしは、早くもクラスから浮いていた。

「姉さん?どうしたの?」

放課後、移動教室からホームルーム教室に帰る廊下を歩いている最中。女子からの熱い視線に気付いているのかいないのか、平然と前を歩く3人。それに少し遅れるように歩いていると、マシューが振り返り、こてんと首を傾げる。
それだけで小さい悲鳴があがるのだからすごいよね。こんなの小説の中だけだと思っていたわ。

「何でもないわ…。」

貴方達に向けられる視線とは別の質のものに辟易しているのよ、とは言えず軽く首をふって答える。
アイドルのような扱いも本当にあるんだ、と思ったが、この嫉妬のまじった敵意のこもった視線をあびることも、まさか自分が体験するとは思わなかった。

わたくしが公爵令嬢だからこのくらいですんでいるが、もっと家位が低かったらと思うとぞっとする。
いやまぁ公爵令嬢に敵意のこもった視線を向けること自体危ないんだけどね。わたくしだから問題にならない…もとい、いちいち注意するのもめんどくさくて不問にしているだけである。

ホームルーム教室につき、1番後ろの席にそろって座る。前の方に座ると注目を集めすぎて授業にならないから、という理由で後ろになったのだ。
わたくしはあまり関係ないので前に座ろうとしたら、何でだ?みたいな顔を3人にされたのでもれなくわたくしも後ろに。
周りに誰もよってこないので楽っちゃ楽だけども。
一応公爵令嬢だから仲良くなろうと近寄ってくる下心丸見えなやつとかもこなくなるし。


「そういえば、光の精霊加護持ちが見つかったらしいな。」
ふと思い出したかのように呟くフレディ様。
「あ、俺もその噂聞いたよ。もうすぐこの学園にくるんだっけ?」
「らしいな。」

そう、『光の精霊加護持ちがあらわれた』という噂が、さらにわたくしの心を暗くしていた。
ここ最近、学園でもこの噂で持ちきりだ。
光の精霊加護持ち、それすなわち乙女ゲームの主人公。

光の精霊加護持ちは、他の精霊加護持ちよりも重宝される。強力な癒し魔法が使えることに加え、浄化や緑を豊かにすることもできると言われており、神のように崇められていた時代もあったとか。加護持ち自体もともと少ないが、光の精霊加護持ちはその中でも最も少なく、1人現れればその子の生きている間は国は安泰だ、とまで言われる。

そんな光の精霊加護持ちが見つかった。国としては、言い方は悪いがこの地に縛りつけて起きたいと思うのは当然だろう。
そこで差し向けられるのが同い年で、まだ婚約者が確定していないフレディ様だ。
わたくし含め数人の令嬢はあくまで婚約者である。

命令で、主人公を落としてこい、と言われたフレディ様が声をかけてくるのがきっかけでフレディ様ルートははじまる。


「シア?」
つらつらと色んなことを、特に乙女ゲームのことを思い出していると、いつの間にか視線が下がっていたのかイリスくんの声にハッと顔をあげる。

「最近ぼーっとしていることが多いが、どうかしたか?」
フレディ様も心配そうにのぞきこんでくる。
「何でも、ありませんわ。慣れない生活の疲れが出たのかしら。」
馬鹿正直に言えることでもないので、へらりと笑って誤魔化す。

「大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。ごめんなさいね。
それで、光の精霊加護持ちだったかしら?」
無理矢理話題を元にもどす。

「そう。このまま上手くいけばエルと婚約、だったのにな。
好きにさせられればいいんだけどな。」
自分の役目をちゃんと分かっているフレディ様は、苦笑混じりに呟く。

「最悪この国の貴族と結婚してくれれば大人たちは万々歳だろうな。」
「そうだね。でも、できれば恋愛結婚させてあげたいから。子爵のお手つきの子だったけ?ほとんど平民だもんね。」
「わたくし達とは、考え方が異なるもの。政略結婚なんてさせたくないわよね。
でも、大丈夫よ。きっと、大丈夫だわ…。」

わたくしは、結果を知ってしまっているから。どう転んでも、主人公はハッピーエンド。このゲームはバッドエンドでも、不幸にはならない。

「まぁ、加護持ちさんが来てみないと分かりませんわ。
今日はそろそろ帰りましょう?」
少し暗くなってしまった空気を切り替えるように明るく告げ、カバンを持つ。

「そうだな。
シアも、今日は早めに休めよ。」
「ええ、そうするわ。ありがとう。」


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