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第一話

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 光の渦が視界を覆う。
 体が宙に浮き、引きずり込まれる感覚。

 普通に道を歩いてただけなのに、何でこうなってるのー!?



 私は、野沢芹菜のざわせりな。普通の女子高生。
 なのに、一体何に巻き込まれてるんだろう。
 奇妙に冷静な頭で今の状況を考える。

 手足は動く。でも、流れるような感覚に逆らえない。
 まぁ、現代っ子として、長い物には巻かれがちだし、我が道を行くだけの意思も個性も無いと思うけどね。
 考えていても、今何が起きてるのか、私には全くわからないのであった。
 いい加減、誰か説明してくれないかなー。

「はーい、説明しますねー」

 あっ、返事があった。
 姿は見えないけど、誰かが私に話しかけている。

「ねぇ、これどういうこと?」
「あなたは異世界へ転移しつつあるのです」

 何だってー!?

「えぇー、ちょっと、予告ぐらいしといてよー!見たい漫画とか、持っていきたいものとかあるのにー!あのドラマの続きも気になるし、あれ?これって帰れるの!?お父さんとお母さんに説明とかできないの!?」
「いやー、すみませんねぇ。私の意思ではなくて、時空の渦に引きずり込まれたせいですよ。事故ですね、事故」

 えっ? 
 召喚されて世界を救えとかじゃないの?

 まぁ、その方が気楽でいいけど。
 聖女になってもあっさり使い捨てされたり、「真の主人公」に立場取られてざまぁされたり、最近の異世界召喚は怖いからね。

「最近、何の前触れもなく時空の渦が現れて、異世界へ引きずり込まれる人が多いですから、こうして説明に回っています。時空の渦については、まだ発生する原因もわからないのです」
「ねぇ、どうやって帰るの?」
「一度、異世界に着いてからでないと道を開けられないので、また後程」

 声が途絶えた。
 同時に光が消え、辺りは暗闇に包まれる。



 周囲が明るくなったと思ったら、いきなりどさりと地面に放り出された。

「うぎゃっ!?」

 落ちたのは、柔らかい草の上。
 怪我もしていないようだ。
 起き上がって周りを見渡すと、そこは花と緑に囲まれた広い場所。
 花や木の配置も綺麗に整っていて、ヨーロッパの観光地の庭園みたいだ。

 向こうから、人がこっちにやってくる。
 現れたのは、キラキラと眩しく輝く金髪の容姿端麗な男の人だった。
 ファンタジーで貴族が着ているような、高価そうな服を身に着けている。

 はっ!?

 今の私は、貴族の屋敷に不法侵入した不審者!?
 異世界に来た途端、ハイスペイケメンに保護され溺愛される……なんて都合のいい話とは限らないから、礼儀正しくしないと。

 ……と言っても、お貴族様の納得のいく礼儀なんて身に着けてるわけじゃない。
 うぅ、いきなり死刑!とかにならないといいなぁ……。

「突然お邪魔して申し訳ありません!私はセリナ・ノザワと申します。『時空の渦』というものに巻き込まれてしまったみたいなんですが、この場所の事も帰る方法もわからないので、私自身困惑しているところです。もちろん、今すぐ出て行けと仰るのでしたら、そうします。……あの、出口はどこでしょうか?」

 私の精一杯の説明に、貴公子は優しく微笑んだ。
 うーむ。イケメンが笑うと絵になるなぁ。かっこいいだけじゃなくて、気品とか優雅さとか諸々の萌え要素を詰め込んだ笑顔だ。
 貴公子は、その姿に相応しい美しい声で話し始めた。

「案ずるでない」

 私を安心させるように微笑んで、彼は言った。



麿まろはジェローム・プレヴェールでおじゃる」



 私の頭脳の回転が停止した。



 麿まろ

 おじゃる!



(この世界の人の言葉は、自動的にあなたの世界の言葉に変換されます。貴族の男性の話し方ってこういうものですよね。前の転移者の方に教えてもらいました)

 頭の中に先程の神様?の説明が響く。

(五十代の男性でしたから、若い人には馴染みの無い口調かもしれませんが)

 おっさん何してくれてんのー!?

 私は心の中で絶叫する。

 せっかくのイケメンが麿まろなんて!!
 もっとかっこいい話し方して欲しかった……。
 嘆く私を気にすることもなく神様?は話を続ける。

(ちゃんと保護してくれる人のところに誘導しましたから、しばらく待っていてください!)

 そうして、神様?は再び沈黙した。

若い女子おなごが困りおるというに、放り出すような真似はせぬ。安心してたもれ」
「あ……ありがとうございます」

 腹筋を最大限の努力で抑え、かろうじて私は噴き出すのをこらえた。
 こうして、一人称麿の貴公子との生活が始まった。
 慣れるまでに私の腹筋が持ちこたえるかどうか―――。

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