英雄の番が名乗るまで

長野 雪

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41.贈る意味

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「あの……もし良ければ、なんですけど、選んで貰えませんか?」
「いいのか?」
「はい、常識知らずの私が選ぶよりも、きっとフィルさんの選んだものの方が浮きませんし」
「だが、俺とて――」
「それに、その方が『贈られた』って感じがして良いと思うんです」
「分かった!」

 本音は前者だったのだが、むしろ後者に食いつかれ、ユーリはその気迫に半歩後退あとずさった。
 そんな彼女の様子にも気付かないようで、フィルは早速店員に駆け寄って、あれこれ話していた。ちょっぴり手持ち無沙汰になったユーリはせっかくだからと、どんなものがあるのか眺めていく。

(うーん、そこまでかけ離れているわけでもないのかな)

 ユーリの元の世界の感性でも問題ないような装飾品がずらりと並んでいる。ピアスなどの針が太いようにも思えるが、竜人は頑丈だと言うし、そういうものなんだろうと納得する。ただ、自分では絶対にあの太さのものは付けたくない。もしフィルが持って来たら拒否しようと心に決めた。

(それでも、ちょっと不思議なものもあるのは、この世界ならではなのね)

 ユーリが目を留めたのは、オプションメニューだ。どうも宝石には守護の力とやらを付与できるらしく、護身や身体強化、幸運など具体的な選択肢と付随する料金が並んでいる。しかもお高めだ。
 と、そこで気付いた。もしかして、金に糸目を付けずに選んでしまうのでは、という可能性にだ。あまり高価なものを贈られても困ると、慌ててフィルに釘を刺そうとして周囲を見回した。

「ユーリ? ちょっといいか?」

 見れば、ある程度の選定を終えてしまったのか、店員の隣に立つフィルが手招きをしている。遅かったか、と慌てて駆け寄ると金と銀が絡み合った環をベースに藍色の貴石が3つ程填まったものを見せられた。

「……ブレスレット、ですか?」

 仕事中には付けられないデザインだな、と思いながらユーリが尋ねると、フィルは首を横に振った。

「いや、アンクレットだ。その、ユーリの好みに合うだろうか」

 足首に付けるものか、と改めてデザインを確認する。貴石も楕円に研磨されているし、邪魔にはならなそうだ。だが、ふと疑問を感じて、フィルではなくその隣の店員に尋ねることにする。

「あの、アンクレットを付けたことがないのですが、身につける上での注意点や、それと、アンクレットを誰かに贈ることって何か特別な意味があったりしますか?」
「そうでございますね。こちらのデザインであれば、スカートやズボンの裾に引っかかるようなことはございません。歩く度に金属が擦れる音がいたしますが、そこまで大きな音ではございませんので、こちらは問題ないと思われます。――――あぁ、アンクレットを贈り物に選ばれる方は少なくございませんが、特に恋人に贈る場合には、『相手を繋ぎ留めたい』という意思表示と捉える方が多いですね」

 淀みない店員の言葉を、うんうんと頷きながら聞いていたユーリは、最後の言葉に、思わずフィルを見た。すると、恥ずかしそうにしながらも、今度は視線を逸らさずに「……そういうことだ」と告げてくる。

「えっと、……あぁ、その、お値段はどのくら――――」
「土台に魔銀ミスリルが使われておりますが、守護の付与をお客様ご自身でなさるということですので、それほどお高くはなっておりませんよ」

 そう言って見せられた値札は、ユーリの許容範囲内だった。ギリギリではあるが。

「あまり高価なものだと、普段に使ってはくれないだろうと助言を貰ってな。俺としては、常に身につけてもらいたい」

 そう強く望まれてしまうと、頑なに断るのも無粋な気がして、ユーリは勧められるままに試着をしてみる。パチリと金具を留めると、シュン、と環が収縮して足首にぴったりと寄り添うように締まった。驚いたのはユーリだけで、フィルも店員も当然のように眺めているので、そういうものかとユーリも自分を納得させる。この世界がいわゆるファンタジーの世界だということを、忘れていた。

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