41 / 67
41.贈る意味
しおりを挟む
「あの……もし良ければ、なんですけど、選んで貰えませんか?」
「いいのか?」
「はい、常識知らずの私が選ぶよりも、きっとフィルさんの選んだものの方が浮きませんし」
「だが、俺とて――」
「それに、その方が『贈られた』って感じがして良いと思うんです」
「分かった!」
本音は前者だったのだが、むしろ後者に食いつかれ、ユーリはその気迫に半歩後退った。
そんな彼女の様子にも気付かないようで、フィルは早速店員に駆け寄って、あれこれ話していた。ちょっぴり手持ち無沙汰になったユーリはせっかくだからと、どんなものがあるのか眺めていく。
(うーん、そこまでかけ離れているわけでもないのかな)
ユーリの元の世界の感性でも問題ないような装飾品がずらりと並んでいる。ピアスなどの針が太いようにも思えるが、竜人は頑丈だと言うし、そういうものなんだろうと納得する。ただ、自分では絶対にあの太さのものは付けたくない。もしフィルが持って来たら拒否しようと心に決めた。
(それでも、ちょっと不思議なものもあるのは、この世界ならではなのね)
ユーリが目を留めたのは、オプションメニューだ。どうも宝石には守護の力とやらを付与できるらしく、護身や身体強化、幸運など具体的な選択肢と付随する料金が並んでいる。しかもお高めだ。
と、そこで気付いた。もしかして、金に糸目を付けずに選んでしまうのでは、という可能性にだ。あまり高価なものを贈られても困ると、慌ててフィルに釘を刺そうとして周囲を見回した。
「ユーリ? ちょっといいか?」
見れば、ある程度の選定を終えてしまったのか、店員の隣に立つフィルが手招きをしている。遅かったか、と慌てて駆け寄ると金と銀が絡み合った環をベースに藍色の貴石が3つ程填まったものを見せられた。
「……ブレスレット、ですか?」
仕事中には付けられないデザインだな、と思いながらユーリが尋ねると、フィルは首を横に振った。
「いや、アンクレットだ。その、ユーリの好みに合うだろうか」
足首に付けるものか、と改めてデザインを確認する。貴石も楕円に研磨されているし、邪魔にはならなそうだ。だが、ふと疑問を感じて、フィルではなくその隣の店員に尋ねることにする。
「あの、アンクレットを付けたことがないのですが、身につける上での注意点や、それと、アンクレットを誰かに贈ることって何か特別な意味があったりしますか?」
「そうでございますね。こちらのデザインであれば、スカートやズボンの裾に引っかかるようなことはございません。歩く度に金属が擦れる音がいたしますが、そこまで大きな音ではございませんので、こちらは問題ないと思われます。――――あぁ、アンクレットを贈り物に選ばれる方は少なくございませんが、特に恋人に贈る場合には、『相手を繋ぎ留めたい』という意思表示と捉える方が多いですね」
淀みない店員の言葉を、うんうんと頷きながら聞いていたユーリは、最後の言葉に、思わずフィルを見た。すると、恥ずかしそうにしながらも、今度は視線を逸らさずに「……そういうことだ」と告げてくる。
「えっと、……あぁ、その、お値段はどのくら――――」
「土台に魔銀が使われておりますが、守護の付与をお客様ご自身でなさるということですので、それほどお高くはなっておりませんよ」
そう言って見せられた値札は、ユーリの許容範囲内だった。ギリギリではあるが。
「あまり高価なものだと、普段に使ってはくれないだろうと助言を貰ってな。俺としては、常に身につけてもらいたい」
そう強く望まれてしまうと、頑なに断るのも無粋な気がして、ユーリは勧められるままに試着をしてみる。パチリと金具を留めると、シュン、と環が収縮して足首にぴったりと寄り添うように締まった。驚いたのはユーリだけで、フィルも店員も当然のように眺めているので、そういうものかとユーリも自分を納得させる。この世界がいわゆるファンタジーの世界だということを、忘れていた。
「いいのか?」
「はい、常識知らずの私が選ぶよりも、きっとフィルさんの選んだものの方が浮きませんし」
「だが、俺とて――」
「それに、その方が『贈られた』って感じがして良いと思うんです」
「分かった!」
本音は前者だったのだが、むしろ後者に食いつかれ、ユーリはその気迫に半歩後退った。
そんな彼女の様子にも気付かないようで、フィルは早速店員に駆け寄って、あれこれ話していた。ちょっぴり手持ち無沙汰になったユーリはせっかくだからと、どんなものがあるのか眺めていく。
(うーん、そこまでかけ離れているわけでもないのかな)
ユーリの元の世界の感性でも問題ないような装飾品がずらりと並んでいる。ピアスなどの針が太いようにも思えるが、竜人は頑丈だと言うし、そういうものなんだろうと納得する。ただ、自分では絶対にあの太さのものは付けたくない。もしフィルが持って来たら拒否しようと心に決めた。
(それでも、ちょっと不思議なものもあるのは、この世界ならではなのね)
ユーリが目を留めたのは、オプションメニューだ。どうも宝石には守護の力とやらを付与できるらしく、護身や身体強化、幸運など具体的な選択肢と付随する料金が並んでいる。しかもお高めだ。
と、そこで気付いた。もしかして、金に糸目を付けずに選んでしまうのでは、という可能性にだ。あまり高価なものを贈られても困ると、慌ててフィルに釘を刺そうとして周囲を見回した。
「ユーリ? ちょっといいか?」
見れば、ある程度の選定を終えてしまったのか、店員の隣に立つフィルが手招きをしている。遅かったか、と慌てて駆け寄ると金と銀が絡み合った環をベースに藍色の貴石が3つ程填まったものを見せられた。
「……ブレスレット、ですか?」
仕事中には付けられないデザインだな、と思いながらユーリが尋ねると、フィルは首を横に振った。
「いや、アンクレットだ。その、ユーリの好みに合うだろうか」
足首に付けるものか、と改めてデザインを確認する。貴石も楕円に研磨されているし、邪魔にはならなそうだ。だが、ふと疑問を感じて、フィルではなくその隣の店員に尋ねることにする。
「あの、アンクレットを付けたことがないのですが、身につける上での注意点や、それと、アンクレットを誰かに贈ることって何か特別な意味があったりしますか?」
「そうでございますね。こちらのデザインであれば、スカートやズボンの裾に引っかかるようなことはございません。歩く度に金属が擦れる音がいたしますが、そこまで大きな音ではございませんので、こちらは問題ないと思われます。――――あぁ、アンクレットを贈り物に選ばれる方は少なくございませんが、特に恋人に贈る場合には、『相手を繋ぎ留めたい』という意思表示と捉える方が多いですね」
淀みない店員の言葉を、うんうんと頷きながら聞いていたユーリは、最後の言葉に、思わずフィルを見た。すると、恥ずかしそうにしながらも、今度は視線を逸らさずに「……そういうことだ」と告げてくる。
「えっと、……あぁ、その、お値段はどのくら――――」
「土台に魔銀が使われておりますが、守護の付与をお客様ご自身でなさるということですので、それほどお高くはなっておりませんよ」
そう言って見せられた値札は、ユーリの許容範囲内だった。ギリギリではあるが。
「あまり高価なものだと、普段に使ってはくれないだろうと助言を貰ってな。俺としては、常に身につけてもらいたい」
そう強く望まれてしまうと、頑なに断るのも無粋な気がして、ユーリは勧められるままに試着をしてみる。パチリと金具を留めると、シュン、と環が収縮して足首にぴったりと寄り添うように締まった。驚いたのはユーリだけで、フィルも店員も当然のように眺めているので、そういうものかとユーリも自分を納得させる。この世界がいわゆるファンタジーの世界だということを、忘れていた。
0
お気に入りに追加
402
あなたにおすすめの小説
婚約者に言わせれば私は要らないらしいので、喜んで出ていきます
法華
恋愛
貴族令嬢のジェーンは、婚約者のヘンリー子爵の浮気現場を目撃してしまう。問い詰めるもヘンリーはシラを切るばかりか、「信用してくれない女は要らない」と言い出した。それなら望み通り、出て行ってさしあげましょう。ただし、報いはちゃんと受けてもらいます。
さらに、ヘンリーを取り巻く動向は思いもよらぬ方向に。
※三話完結
彼女がいなくなった6年後の話
こん
恋愛
今日は、彼女が死んでから6年目である。
彼女は、しがない男爵令嬢だった。薄い桃色でサラサラの髪、端正な顔にある2つのアーモンド色のキラキラと光る瞳には誰もが惹かれ、それは私も例外では無かった。
彼女の墓の前で、一通り遺書を読んで立ち上がる。
「今日で貴方が死んでから6年が経ったの。遺書に何を書いたか忘れたのかもしれないから、読み上げるわ。悪く思わないで」
何回も読んで覚えてしまった遺書の最後を一息で言う。
「「必ず、貴方に会いに帰るから。1人にしないって約束、私は破らない。」」
突然、私の声と共に知らない誰かの声がした。驚いて声の方を振り向く。そこには、見たことのない男性が立っていた。
※ガールズラブの要素は殆どありませんが、念の為入れています。最終的には男女です!
※なろう様にも掲載
今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!
緑の指を持つ娘
Moonshine
恋愛
べスは、田舎で粉ひきをして暮らしている地味な女の子、唯一の趣味は魔法使いの活躍する冒険の本を読むことくらいで、魔力もなければ学もない。ただ、ものすごく、植物を育てるのが得意な特技があった。
ある日幼馴染がべスの畑から勝手に薬草をもっていった事で、べスの静かな生活は大きくかわる・・
俺様魔術師と、純朴な田舎の娘の異世界恋愛物語。
第1章は完結いたしました!第2章の温泉湯けむり編スタートです。
ちょっと投稿は不定期になりますが、頑張りますね。
疲れた人、癒されたい人、みんなべスの温室に遊びにきてください。温室で癒されたら、今度はベスの温泉に遊びにきてくださいね!作者と一緒に、みんなでいい温泉に入って癒されませんか?
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
旦那様はチョロい方でした
白野佑奈
恋愛
転生先はすでに何年も前にハーレムエンドしたゲームの中。
そしてモブの私に紹介されたのは、ヒロインに惚れまくりの攻略者の一人。
ええ…嫌なんですけど。
嫌々一緒になった二人だけど、意外と旦那様は話せばわかる方…というか、いつの間にか溺愛って色々チョロすぎません?
※完結しましたので、他サイトにも掲載しております
夫が大人しめの男爵令嬢と不倫していました
hana
恋愛
「ノア。お前とは離婚させてもらう」
パーティー会場で叫んだ夫アレンに、私は冷徹に言葉を返す。
「それはこちらのセリフです。あなたを只今から断罪致します」
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる