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63.不躾な覗き見(前)
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「さて、ごちそうさまでしたっと」
今日も美味しい食事とお酒に感謝!という気持ちでぱむっと手を合わせる。シチューを食べ終えてしまえばすっきり辛口白ワインと、私が勝手にアンチョビと呼んでいる小魚の塩漬けで作ったパテとアボカドディップのバケットが美味しくてね! やはり魚には白ワイン! 異論・意見は認める! 対戦よろしくお願いします!
「それじゃ、私は片付けて寝るけど……」
その言葉で、向かいに座ったヨナが、勝手にお皿を洗って、いや、浄化?して棚にしまってくれた。本当に便利過ぎて困るな。いや、これに慣れてはいけない。
「いつもありがとう。それじゃ、もう寝るわね……ぇ?」
程よくアルコールが回ってほろ酔い気分な私を、何故抱き上げる必要がある? あと、魔法使いにその筋肉は必要ですかね? 最近気づいたのだけど、この人、ヒョロいもやしじゃなくて、細マッチョなの。魔法使いなのにおかしくない?
「ヨナ?」
「今朝のことがあったのに、大人しく寝かせるわけがないだろう」
「いやいや、寝かせてよ。もう眠いし」
今度はいったい何を尋問しようというのか。ほろ酔いぐらいでベッドに潜り込むのが一番好きなのに。
「寝るのは構わない。場所を変えるだけだ」
「は、ちょ……」
ぐわん、と視界が揺れる。同じ塔の中なのに、転移魔法使いやがりましたわよー! 歩くの省略とかひどくない?
転移先は残念ながら見覚えのある場所。そう。今日の昼に目覚めた場所である。
「猥褻目的?」
「違う」
ごろりとヨナのベッドに転がされた私は、秒で起き上がろうとして、すぐに沈められた。ちくせう。
「ちょ、自分の部屋で寝るから!」
「あんな顔を見せられて放置できるわけがないだろう」
「うるさかったのは悪かったわよ。でも、別に耳塞いでれば十分でしょ?」
抱きすくめられ、じたばた手足を動かすも、純粋に力の差があって抜け出せない。ここで寝る気はないってばさ!
「好きな女に寄り添いたいと思うのは普通だろう」
「――――は?」
幻聴。うん、幻聴だな。ちょっと飲み過ぎた。
「好きな女を悪夢で泣かせたい男はいない」
「いや、ちょっと待って。うん、冷静になろう。……『好きな』?」
そう、そこだ。そもそもこの俺様我儘大魔法使いサマって、私のことを好きだなんて言ったことないよね?
「気にするのはそこか。ラズロに言われた。女はちゃんと言葉にしないと伝わらないと」
「ラズロ、さん?」
そんな名前の人、いたっけ?
「ラズロ・グースだ。お前も何度も会っているだろう」
「あぁ、グース卿……」
ちくしょう、これだから妻帯者のアドバイスってのはよぉ! いちいちツボを突いてるのはどうしてだろうねぇ? さぞや夫婦仲も良いんでしょうよ。えぇ、後で根ほり葉ほり聞いてやるー。
「いや、待って。好き? 誰が? 誰を?」
「俺がリリアンを好きなのに決まっているだろう」
「――――……」
聞き間違いとか幻聴じゃないわコレ。いやてっきり、ストレートに話せる相手とか、知的好奇心を刺激してくる相手とか、そういう枠だと思ってたのよ。友達もいなさそうだし、親しくなりたいけど異性だから、婚約って手段になっただけで、そこにあるのは恋愛感情じゃなくて、むしろ友愛に近いものだって。
ぶわっと体が熱くなる。特に顔のあたりがヤバい。
「リリアン、顔があか――――」
「ちょっと待った! こっち見んな!」
私は慌てて両手で顔を隠した。
「そんな顔は初めて見た。耳も赤い」
「だからいちいち指摘するなって! あとこっち見ないで! もうやだ!」
「そうか、良かった。俺に近寄ってくる女は、俺が何か声を掛けるだけで同じように真っ赤になるが、リリアンは全くそんなことがなかったから、てっきり完全に俺を対象外にしているのだと」
「いいから黙れ! シャラップ!」
「しゃらっぷ?」
「あーもういいから! この体勢で寝るのでいいから、とっとと眠りの魔法かけてよ。得意でしょ?」
「いや、ここで眠らせるのは勿体ない気がする」
「勿体なくない!」
もうやだ、どうしてこんなときに限ってとっとと魔法使ってくれないの。いらんときにばっかり魔法使って!
「もうやだ、離して!」
「あぁ、泣くことでもないだろう」
「泣いてないから!」
「分かった分かった……」
ようやく諦めたヨナの詠唱の声に、私は胸を撫でおろす。
そして、眠りはすぐにやってきた。
今日も美味しい食事とお酒に感謝!という気持ちでぱむっと手を合わせる。シチューを食べ終えてしまえばすっきり辛口白ワインと、私が勝手にアンチョビと呼んでいる小魚の塩漬けで作ったパテとアボカドディップのバケットが美味しくてね! やはり魚には白ワイン! 異論・意見は認める! 対戦よろしくお願いします!
「それじゃ、私は片付けて寝るけど……」
その言葉で、向かいに座ったヨナが、勝手にお皿を洗って、いや、浄化?して棚にしまってくれた。本当に便利過ぎて困るな。いや、これに慣れてはいけない。
「いつもありがとう。それじゃ、もう寝るわね……ぇ?」
程よくアルコールが回ってほろ酔い気分な私を、何故抱き上げる必要がある? あと、魔法使いにその筋肉は必要ですかね? 最近気づいたのだけど、この人、ヒョロいもやしじゃなくて、細マッチョなの。魔法使いなのにおかしくない?
「ヨナ?」
「今朝のことがあったのに、大人しく寝かせるわけがないだろう」
「いやいや、寝かせてよ。もう眠いし」
今度はいったい何を尋問しようというのか。ほろ酔いぐらいでベッドに潜り込むのが一番好きなのに。
「寝るのは構わない。場所を変えるだけだ」
「は、ちょ……」
ぐわん、と視界が揺れる。同じ塔の中なのに、転移魔法使いやがりましたわよー! 歩くの省略とかひどくない?
転移先は残念ながら見覚えのある場所。そう。今日の昼に目覚めた場所である。
「猥褻目的?」
「違う」
ごろりとヨナのベッドに転がされた私は、秒で起き上がろうとして、すぐに沈められた。ちくせう。
「ちょ、自分の部屋で寝るから!」
「あんな顔を見せられて放置できるわけがないだろう」
「うるさかったのは悪かったわよ。でも、別に耳塞いでれば十分でしょ?」
抱きすくめられ、じたばた手足を動かすも、純粋に力の差があって抜け出せない。ここで寝る気はないってばさ!
「好きな女に寄り添いたいと思うのは普通だろう」
「――――は?」
幻聴。うん、幻聴だな。ちょっと飲み過ぎた。
「好きな女を悪夢で泣かせたい男はいない」
「いや、ちょっと待って。うん、冷静になろう。……『好きな』?」
そう、そこだ。そもそもこの俺様我儘大魔法使いサマって、私のことを好きだなんて言ったことないよね?
「気にするのはそこか。ラズロに言われた。女はちゃんと言葉にしないと伝わらないと」
「ラズロ、さん?」
そんな名前の人、いたっけ?
「ラズロ・グースだ。お前も何度も会っているだろう」
「あぁ、グース卿……」
ちくしょう、これだから妻帯者のアドバイスってのはよぉ! いちいちツボを突いてるのはどうしてだろうねぇ? さぞや夫婦仲も良いんでしょうよ。えぇ、後で根ほり葉ほり聞いてやるー。
「いや、待って。好き? 誰が? 誰を?」
「俺がリリアンを好きなのに決まっているだろう」
「――――……」
聞き間違いとか幻聴じゃないわコレ。いやてっきり、ストレートに話せる相手とか、知的好奇心を刺激してくる相手とか、そういう枠だと思ってたのよ。友達もいなさそうだし、親しくなりたいけど異性だから、婚約って手段になっただけで、そこにあるのは恋愛感情じゃなくて、むしろ友愛に近いものだって。
ぶわっと体が熱くなる。特に顔のあたりがヤバい。
「リリアン、顔があか――――」
「ちょっと待った! こっち見んな!」
私は慌てて両手で顔を隠した。
「そんな顔は初めて見た。耳も赤い」
「だからいちいち指摘するなって! あとこっち見ないで! もうやだ!」
「そうか、良かった。俺に近寄ってくる女は、俺が何か声を掛けるだけで同じように真っ赤になるが、リリアンは全くそんなことがなかったから、てっきり完全に俺を対象外にしているのだと」
「いいから黙れ! シャラップ!」
「しゃらっぷ?」
「あーもういいから! この体勢で寝るのでいいから、とっとと眠りの魔法かけてよ。得意でしょ?」
「いや、ここで眠らせるのは勿体ない気がする」
「勿体なくない!」
もうやだ、どうしてこんなときに限ってとっとと魔法使ってくれないの。いらんときにばっかり魔法使って!
「もうやだ、離して!」
「あぁ、泣くことでもないだろう」
「泣いてないから!」
「分かった分かった……」
ようやく諦めたヨナの詠唱の声に、私は胸を撫でおろす。
そして、眠りはすぐにやってきた。
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