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22.権力者な発想(後)

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「ところで、前回のお茶会で聞いた話の続きなのだけど、森の土を混ぜ込む他に、土の栄養を取り込む方法はないのかしら?」
「私も詳しいわけではありませんので、あくまで経験則や、読んだ書物からの受け売りになってしまいますが、よろしいでしょうか?」
「もちろんよ。来年からの収穫を挙げるために打てる手は打っておきたいもの」
「あくまで経験則なので、収穫量アップの確約はいたしかねます……」

 確か前回話したのは腐葉土の話とナイルの賜物の話だったはず。あれ、緑肥の話はしたっけかなぁ?

「作物にもよりますが、同じ作物を何年も続けて作り続けると、土の栄養が偏って収穫量が落ちたり作物が病気にかかりやすくなってしまう、という話を孤児院の日誌で読んだことがあります」

 連作障害の話はしていなかったはず、と思いながら説明を始める。

「作物によって成長に必要な栄養は異なるものらしく、一期か二期ほど別の作物を育てることで、土の栄養バランスを保つことができるかもしれないと」

 残念ながら家庭菜園もやったことがないので、テレビからの聞きかじり知識しかない。ナス科がどうの、マメ科がどうのと聞いて記憶があるけれど、ナス科の食物が何かも分からなければ、植える順番も覚えていない。

「ただ、そちらの記述に関しては、検証に長い年月と広い土地が必要になるとかで断念していらっしゃったと記憶しています。肥料の有無でも変わる話と思いますので、一孤児院で検証するのは難しかったのでしょう。そういったことを検証する労力より、森から土を運ぶ方が手っ取り早かったでしょうし」
「そういう大規模な労力が必要になることこそ、国が主導で行うべきだと思わなくて?」
「そうしていただけると嬉しいです」

 そうして農業生産率とか上がってくれれば、飢える人が少なくなる。人口が増えれば国力が上がる。単純な考えかもしれないけれど、国が富むのは嬉しいことだと思う。
 そう思っただけなのに、何故か残念なものを見るような目を向けられてしまった。

「……本当に、これで上昇志向があればよかったのに」
「人には向き不向きがあります」
「そういう自分を知って弁えているところも好ましいのだけれど」

 その知識をもたらした貴女が主導で動いてくれるなら、それが楽なのにね、と妃殿下がこぼした。いや、それは無理。こうして妃殿下とのお茶会に出席できているけれども、基本的には軟禁状態ですからー!

「あぁ、そうだ。それで思い出しました。おそれながら、妃殿下にお伺いしたいことがあったのです」

 貴族令嬢のお酒事情について、ちょっと教えていただけないかな、と。
 そんな思いで平民は複数種類のお酒を混ぜる文化があることや、酒精に強くない人向けに、果汁で割ることが多いことなどを手短に話してみた。

「割って薄める……。それは確かに貴族では禁忌ね」
「そうなのですか」
「もちろん、ワインを手にしているように見せかけてブドウジュースを飲む方もいるわ。でも、基本的に領地の特産物であるワインに手を加える、ということは、相手の特産物を貶すことにつながりかねないの。だから、少なくとも今の社交界では受け入れられないわね」
「それは……もったいないですね。混ぜることでまた違った楽しみ方ができるものですのに」
「ふふふ……、グース卿が話していたけれど、本当にお酒が好きなのね」
「そうですね。下町の酒を試す程度には」
「お酒を混ぜる、という話は、少し預からせてもらえる? 新しい流行にできないか考えてみるわ」
「恐れ多いことです。ただ、私は、お酒の苦手な方の逃げ道があれば、と思っただけですので」
「逃げ道、ね。お酒が好きな人のセリフではないわ」
「そうですか? お酒が好きな人も苦手な人も等しく同じ場所でおしゃべりができるのが理想だと思うのですが」

 私の言葉に、何故か妃殿下は少し目を瞠ったように見えた。

「本当に……価値観の底が知れないわね。だからこそ、ヨナ・パークスも惹かれたのね」
「えぇと、過分な評価です……?」
「いいのよ。貴女と話していると面白いもの。――――あぁ、そろそろ時間ね。今日もありがとう」
「いいえ、こちらこそ貴重なお時間をいただき、ありがとうございました」

 そうして、今日のお茶会も無事に終えることができた。まだ慣れないせいか、ちょっと胃が重い。


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