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19.ウェンディな気分(前)
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空を自由に飛び回る、気分はピーターパンに登場するウェンディだ。
「すごいわ! 魔法ってこんなこともできるのね」
「浮遊魔法は簡単だが、ここまで自由に飛行できるのはそうそういない。もっと褒めてくれていいぞ」
「これは褒めるわ。貴方の魔法ってすごい!」
性格はアレだけど、魔法に関しては、さすが大魔法使いサマということなんだろう。こんなおとぎ話みたいなことができるなんて。
「今日は晴れているから、星もよく見える。女性は星空を眺めるのが好きなんだろう?」
「それは一般論ね。嫌いじゃないけど、そこまで好きでもないわ。……あら? そういえば、星を見て吉凶判断とかってするの?」
私に遭遇したのは、卜占の魔法がどうこうと言っていなかっただろうか。
「星見をする者もいるが、俺は好まない」
「そうなの?」
「星見は誰でもできる。俺は同じ占術なら、違うものを試してみたい」
「ふぅん?」
「リリアンに巡り合えたのも、文献で見つけた古代魔法を試したおかげだ。随分と手間と魔力を消費したが、その甲斐はあった」
「……そうですかー」
声音が平坦になったのは仕方がない。そんな古代魔法のせいで、こうして軟禁状態になったのだから。
「リリアン」
「なに?」
「どうしたら、俺のことを名前で呼んでくれる?」
「あー……」
困った。正直なところ、名前で呼ぶぐらいはいいんじゃないかと思う私もいる。たとえ軟禁状態であっても、それ以上の無理を強いられることもないし、何より、お酒で腹を割って話してみれば、ある程度話の通じる相手だと分かってきたからだ。
だけど、ちょっと意地を張りたい思いもある。強引に王都に引っ張って来られた、という事実は変わらない。そんなに簡単に折れてしまってもいいのかと。私はそんなに軽い女じゃないんだと叫びたい気持ちも残っている。
「どうしたら、とかは、ないかなぁ。ただ私が貴方を名前で呼びたくないだけだから」
もしかしたら、名前を呼ぶようになったら、そのまま絆されてしまうかもしれない。そんなことになるぐらいだったら、『大魔法使いサマ』という記号で認識するだけの方が、まだ、傷も浅く……傷?
「そうか。それなら呼びたくなるよう仕向けるしかないな」
「ちょ、脅迫はやめてよ?」
「急いては事を仕損じるというからな。俺も長期戦は覚悟した。どちらにしろ、塔にいてくれるなら焦る必要はない」
塔にいてくれる、じゃなくて、塔に軟禁してる、の間違いじゃないんだろうか。そうツッコミたいのをぐっと堪える。頑なに拒んでも逆効果になりそうだし。
「明日は仕事で遠くに出る。転移魔法を使うなと言われているから、帰りは遅くなるだろう」
「それはお疲れ様。帰りは深夜ってこと?」
「いや、移動に一日近くかかるから、早くても二日だな」
「随分と遠いのね」
大魔法使いサマも大変だ。まぁ、それならそれで、のびのびと――――
「俺のいない間に、男を引きずり込むような真似はするな」
「できないわよ。塔に入れるのなんて、グース卿かマックさんぐらいでしょ? どっちも妻帯者じゃない。そんなことより、どこまで行くの?」
「……仕事のことだ。詳しいことは言えない」
「それならいいわ。聞かない。美味しそうなおつまみかお酒があったらお土産よろしくね」
「……」
どうしてそこで目を丸くして絶句するんだろう。私、そんなに変なこと言った?
「何よ」
「そういう反応は予想外だ」
「? 城でお勤めしてるなら、言えないことの一つや二つや十個ぐらいはあるでしょ?」
「同僚の話では、仕事の内容はともかく出張先すら言えないと恋人に浮気を疑われると聞いていたんだが」
「それは前提が違うからね。別に恋人じゃないもの」
「……それはそれでショックだ」
まぁ、たとえ恋人だったとしても、仕事上秘密にしなきゃいけないことへの理解ぐらいはあるつもりだ。下手に仕事への理解を示すとややこしくなりそうだから、そこまでは言わないけれど。
「すごいわ! 魔法ってこんなこともできるのね」
「浮遊魔法は簡単だが、ここまで自由に飛行できるのはそうそういない。もっと褒めてくれていいぞ」
「これは褒めるわ。貴方の魔法ってすごい!」
性格はアレだけど、魔法に関しては、さすが大魔法使いサマということなんだろう。こんなおとぎ話みたいなことができるなんて。
「今日は晴れているから、星もよく見える。女性は星空を眺めるのが好きなんだろう?」
「それは一般論ね。嫌いじゃないけど、そこまで好きでもないわ。……あら? そういえば、星を見て吉凶判断とかってするの?」
私に遭遇したのは、卜占の魔法がどうこうと言っていなかっただろうか。
「星見をする者もいるが、俺は好まない」
「そうなの?」
「星見は誰でもできる。俺は同じ占術なら、違うものを試してみたい」
「ふぅん?」
「リリアンに巡り合えたのも、文献で見つけた古代魔法を試したおかげだ。随分と手間と魔力を消費したが、その甲斐はあった」
「……そうですかー」
声音が平坦になったのは仕方がない。そんな古代魔法のせいで、こうして軟禁状態になったのだから。
「リリアン」
「なに?」
「どうしたら、俺のことを名前で呼んでくれる?」
「あー……」
困った。正直なところ、名前で呼ぶぐらいはいいんじゃないかと思う私もいる。たとえ軟禁状態であっても、それ以上の無理を強いられることもないし、何より、お酒で腹を割って話してみれば、ある程度話の通じる相手だと分かってきたからだ。
だけど、ちょっと意地を張りたい思いもある。強引に王都に引っ張って来られた、という事実は変わらない。そんなに簡単に折れてしまってもいいのかと。私はそんなに軽い女じゃないんだと叫びたい気持ちも残っている。
「どうしたら、とかは、ないかなぁ。ただ私が貴方を名前で呼びたくないだけだから」
もしかしたら、名前を呼ぶようになったら、そのまま絆されてしまうかもしれない。そんなことになるぐらいだったら、『大魔法使いサマ』という記号で認識するだけの方が、まだ、傷も浅く……傷?
「そうか。それなら呼びたくなるよう仕向けるしかないな」
「ちょ、脅迫はやめてよ?」
「急いては事を仕損じるというからな。俺も長期戦は覚悟した。どちらにしろ、塔にいてくれるなら焦る必要はない」
塔にいてくれる、じゃなくて、塔に軟禁してる、の間違いじゃないんだろうか。そうツッコミたいのをぐっと堪える。頑なに拒んでも逆効果になりそうだし。
「明日は仕事で遠くに出る。転移魔法を使うなと言われているから、帰りは遅くなるだろう」
「それはお疲れ様。帰りは深夜ってこと?」
「いや、移動に一日近くかかるから、早くても二日だな」
「随分と遠いのね」
大魔法使いサマも大変だ。まぁ、それならそれで、のびのびと――――
「俺のいない間に、男を引きずり込むような真似はするな」
「できないわよ。塔に入れるのなんて、グース卿かマックさんぐらいでしょ? どっちも妻帯者じゃない。そんなことより、どこまで行くの?」
「……仕事のことだ。詳しいことは言えない」
「それならいいわ。聞かない。美味しそうなおつまみかお酒があったらお土産よろしくね」
「……」
どうしてそこで目を丸くして絶句するんだろう。私、そんなに変なこと言った?
「何よ」
「そういう反応は予想外だ」
「? 城でお勤めしてるなら、言えないことの一つや二つや十個ぐらいはあるでしょ?」
「同僚の話では、仕事の内容はともかく出張先すら言えないと恋人に浮気を疑われると聞いていたんだが」
「それは前提が違うからね。別に恋人じゃないもの」
「……それはそれでショックだ」
まぁ、たとえ恋人だったとしても、仕事上秘密にしなきゃいけないことへの理解ぐらいはあるつもりだ。下手に仕事への理解を示すとややこしくなりそうだから、そこまでは言わないけれど。
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