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53.助手その2の正体
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「おかしいね。そんな簡単に解けるはずもないのに」
「……出て行ってください」
「うーん? 確かにアデライードの守護が込められたものを持っているみたいだけど、だからって、こんなに簡単に外れるはずはないんだよねぇ?」
首を傾げながら、テオさんが呟く内容は、さっぱり分からない。アデライードって誰。守護って何。
どうにかして逃げたいけれども、部屋を出る唯一の扉は、彼の向こう側。初日のようにバルコニーから逃げるにはロープが必須。結局、彼と距離を取ろうと考えたら、私の逃げる先は寝室しかない。
「困ったなぁ。これじゃ、ゆっくり話す時間も取れそうにない。せっかく仕事を前倒しして時間を作ったのに」
困った、というセリフとは裏腹に、テオさんは真顔で私を見ている。ジェインのように無表情ではないけれど、言葉と表情が合ってない。口先だけで、絶対に困ってないよ、この人!
「仕方ない。ちょっと強制的にうちに招待するか」
ぽむ、と手を打ったテオさんは、私の方へ近づいてきた。寝室に何か武器になるようなものはあったかと考えながら、私は逃げを選択するしかない。
「アイリ! 大丈夫か!?」
救いの手が到着したのは、ちょうどそのときだった。
「ライ!」
「予想以上に速い到着だね」
ライの姿を見とめた途端、テオさんが一気に私との距離をつめてきた。ライに気を取られていた私は、あっさりと腕を掴まれ、首に手をかけられる。
「そこで何してる。――――くそ親父」
「え」
ライの言葉に、自分の首に手を掛けられていることを忘れかけた。確かに銀の髪に赤い瞳は同じ色合いだ。顔だって、……顔だって?
(え? どういうこと?)
ついさっきまで見ていたはずなのに、テオさんの顔が思い出せない。ライのお父さんなら、絶対に美形だろうと思うのだけど、その顔を思い出そうとしても髪と目の色合いぐらいしか思い出せないのだ。
(まさか、これも暗示――――?)
混乱したままの私を置き去りに、テオさんを睨みつけるライが、その手にダガーを出現させる。いったいどこから取り出したのか分からない。けれど、その切っ先は、私の後ろに立つテオさんに向けられていた。
「まさか直接来るとはな。仕事で忙しいんじゃないのか?」
「仕事は調整できるものだよ。面倒なのはアデライードに投げているからね」
私の首を撫でたテオさんの手が、首にかけた鎖を引っかけた。引きずり出されたのは、アデルから貰った指輪だ。はめこまれた赤色の石が淡く光を帯びているように見えた。
「これがあると、ちょっと面倒そうだね」
こともなげに、指先で鎖をひねると、あっさりと鎖はちぎれ、固い音を立てて指輪が床に落ちた。慌てて拾おうとするけれど、テオさんの拘束から抜け出せない。
「アイリを放せ」
「いやだよ。そもそもここまでわざわざ足を運んだのだって、この子に会うためだし」
「そうまでしてアイリに会って、何がしたい?」
「……分からない?」
一段低くなったテオさんの声に、ぞくりと悪寒が走る。後ろに立たれているので、私にはどんな表情をしているのかは見えない。けれど、距離を置いて対峙するライが、気迫に押されたように見えた。
「あれだけ妨害してあげたのに、こうして連れ込んで、しかも血まで吸っちゃって。アデライードは役立たずのままでいいって言ったろ?」
「ふざけるなよ。俺がいつまでも子どものままでいると思うな」
「そう? 血を吸った伴侶を守る根回しも覚悟も不十分な子どもだよね」
「……っ!」
ライの顔が怒りに染まる。私としては、一刻も早くテオさんの近くから逃げたいのだけど、文字通り首を掴まれていては、そうそう抵抗も難しい。
「ちょっとした警報とちょっとした守護だけじゃ、こうして出し抜かれるのは必定、だよねぇ?」
煽るテオさんに、ライがぎり、と歯を食いしばる。
「まだまだ心は子どものままなのに、何度も血を吸って力だけ増大されても始末に負えないからさ、この子は貰ってくね」
(何度も血を吸う……?)
そんな話は聞いていない。成長するのに最初だけ、とかいう話じゃなかったの?
「逃がすと思ってるのか。以前ならともかく、成長した俺なら――――」
「本当にそう思ってるなら、今すぐ考えを改めた方がいいよ」
「なんだと?」
「ちゃんと見せつけないと分からないかなぁ。――――『眠れ』」
その力ある言葉に、ぐわん、と一瞬で私の意識が刈り取られた。
「……出て行ってください」
「うーん? 確かにアデライードの守護が込められたものを持っているみたいだけど、だからって、こんなに簡単に外れるはずはないんだよねぇ?」
首を傾げながら、テオさんが呟く内容は、さっぱり分からない。アデライードって誰。守護って何。
どうにかして逃げたいけれども、部屋を出る唯一の扉は、彼の向こう側。初日のようにバルコニーから逃げるにはロープが必須。結局、彼と距離を取ろうと考えたら、私の逃げる先は寝室しかない。
「困ったなぁ。これじゃ、ゆっくり話す時間も取れそうにない。せっかく仕事を前倒しして時間を作ったのに」
困った、というセリフとは裏腹に、テオさんは真顔で私を見ている。ジェインのように無表情ではないけれど、言葉と表情が合ってない。口先だけで、絶対に困ってないよ、この人!
「仕方ない。ちょっと強制的にうちに招待するか」
ぽむ、と手を打ったテオさんは、私の方へ近づいてきた。寝室に何か武器になるようなものはあったかと考えながら、私は逃げを選択するしかない。
「アイリ! 大丈夫か!?」
救いの手が到着したのは、ちょうどそのときだった。
「ライ!」
「予想以上に速い到着だね」
ライの姿を見とめた途端、テオさんが一気に私との距離をつめてきた。ライに気を取られていた私は、あっさりと腕を掴まれ、首に手をかけられる。
「そこで何してる。――――くそ親父」
「え」
ライの言葉に、自分の首に手を掛けられていることを忘れかけた。確かに銀の髪に赤い瞳は同じ色合いだ。顔だって、……顔だって?
(え? どういうこと?)
ついさっきまで見ていたはずなのに、テオさんの顔が思い出せない。ライのお父さんなら、絶対に美形だろうと思うのだけど、その顔を思い出そうとしても髪と目の色合いぐらいしか思い出せないのだ。
(まさか、これも暗示――――?)
混乱したままの私を置き去りに、テオさんを睨みつけるライが、その手にダガーを出現させる。いったいどこから取り出したのか分からない。けれど、その切っ先は、私の後ろに立つテオさんに向けられていた。
「まさか直接来るとはな。仕事で忙しいんじゃないのか?」
「仕事は調整できるものだよ。面倒なのはアデライードに投げているからね」
私の首を撫でたテオさんの手が、首にかけた鎖を引っかけた。引きずり出されたのは、アデルから貰った指輪だ。はめこまれた赤色の石が淡く光を帯びているように見えた。
「これがあると、ちょっと面倒そうだね」
こともなげに、指先で鎖をひねると、あっさりと鎖はちぎれ、固い音を立てて指輪が床に落ちた。慌てて拾おうとするけれど、テオさんの拘束から抜け出せない。
「アイリを放せ」
「いやだよ。そもそもここまでわざわざ足を運んだのだって、この子に会うためだし」
「そうまでしてアイリに会って、何がしたい?」
「……分からない?」
一段低くなったテオさんの声に、ぞくりと悪寒が走る。後ろに立たれているので、私にはどんな表情をしているのかは見えない。けれど、距離を置いて対峙するライが、気迫に押されたように見えた。
「あれだけ妨害してあげたのに、こうして連れ込んで、しかも血まで吸っちゃって。アデライードは役立たずのままでいいって言ったろ?」
「ふざけるなよ。俺がいつまでも子どものままでいると思うな」
「そう? 血を吸った伴侶を守る根回しも覚悟も不十分な子どもだよね」
「……っ!」
ライの顔が怒りに染まる。私としては、一刻も早くテオさんの近くから逃げたいのだけど、文字通り首を掴まれていては、そうそう抵抗も難しい。
「ちょっとした警報とちょっとした守護だけじゃ、こうして出し抜かれるのは必定、だよねぇ?」
煽るテオさんに、ライがぎり、と歯を食いしばる。
「まだまだ心は子どものままなのに、何度も血を吸って力だけ増大されても始末に負えないからさ、この子は貰ってくね」
(何度も血を吸う……?)
そんな話は聞いていない。成長するのに最初だけ、とかいう話じゃなかったの?
「逃がすと思ってるのか。以前ならともかく、成長した俺なら――――」
「本当にそう思ってるなら、今すぐ考えを改めた方がいいよ」
「なんだと?」
「ちゃんと見せつけないと分からないかなぁ。――――『眠れ』」
その力ある言葉に、ぐわん、と一瞬で私の意識が刈り取られた。
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