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51.仕立て屋が来た
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「少しサイズが変わりましたね」
「……すみません」
開口一番、仕立て屋の店主さんの言葉に、私は反射的に謝ってしまった。
「ですが、肌は随分と改善されましたね。こちらといたしましても、おそらくはふくよかにおなりになると予測してはおりましたが……」
(丁寧な言葉だけど、太ると思ってたってことよね? いや、間違ってはいないけど)
村にいた頃より食事事情はかなり改善されたので、全体的に肉がついてしまった自覚はあるので反論はできない。
「部分的に、少し調整が必要そうですわね。……テオ、お嬢様の夜会服を出してちょうだい。ビスはお嬢様の採寸を」
今回は助手が二人いるらしい。前回はいなかったテオという助手はすらりとした長身の男性なので、力仕事担当なのだろうか?
「お嬢様、こちらへ。前回と同じように下着姿になっていただけますか」
「はい」
ワンピースを脱ごうとして、少し躊躇った。そういえば先日……
「お嬢様?」
「あの、仕立て屋さんて、口は堅いですよね?」
「? もちろん、職務上得た情報は洩らさないのがこの仕事を長く勤めるコツですから」
ビスさんのその言葉を信じ、えいや、とワンピースを脱ぐ。
「あぁ……そういうことですね。えぇ、よくある話ですから、お気になさらず」
(よくある話なんだ……!)
私の鎖骨から胸元、お腹のあたりまで、もしかしたら背中の方も、赤い痕がぽつぽつと散っている。言うまでもなく、ライが付けたものだ。行為の最中、何度か痛みがあったので、噛まれているのかと思ったら、吸われてつく痕だったらしい。どうしてそんなことをするのかと尋ねてみると、所有欲だとかなんとか言っていたっけ。
(今までは他人に肌を見せることもなかったから、何とも思わなかったけど……失念してたわ)
まさか採寸のやり直しをするとは思わなかったので、こうして恥ずかしくも晒すことになってしまった。後でライに抗議するべきか、と悩む間に、ビスさんが見事な手際で採寸をしてくれている。
「全体的にふっくらされましたね。以前の状況が少し不健康にも思えましたから、この程度は太っているとは申しませんから大丈夫ですよ」
「あ、はは、ありがとうございます」
先に採寸の結果を店主に伝えるからと戻るビスさんを見送って、私はワンピースを着直す。今着ているのは最初に採寸に来てもらったときに持ってこられた既製品だ。でも、正直、気になる部分もないから、わざわざ仕立てる必要はないと思うのだけど。
「店長、こちらです」
「あら……やっぱり少し調整が必要ね。紳士服の話もあったから、あるいは、と思っていたけれど」
お肉を付けすぎてしまったのか、と落ち込みながら採寸のための囲いを出ると、にっこりと微笑む店主さんが迎えてくれた。
「夜会服は先に少し手直しをいたしますので、普段使いのものを試着していただけますか? 手足を動かしてみて気になるところがあれば遠慮なくお申し付けください。――――ビス、話は通してあるから、採寸に行ってもらえる?」
「はい、わかりました」
いつの間にか部屋に来ていたリュコスさんと一緒に、ビスさんが出ていく。今回はリュコスさんに覗かれるのは避けられた、と胸を撫でおろしていると、ふと、あれこれ荷物の整理をしているもう一人の助手、テオさんが目についた。
(ライを採寸するから男性を連れてきたわけじゃないんだ)
何となく男性は男性が、女性は女性が採寸するものだと思っていたけれど、そうじゃないのか、と首を傾げた。
控えているジェインが持っているのが試着するものだろう。……軽く10着ぐらいあるように見えるのは、気のせいだろうか。そんなに作るとは聞いてない。
「お嬢様、お手伝いいたします」
「あ、うん……」
再び外から見られないように作った囲いの中に戻ると、私は再びワンピースを脱ぐ。こんなことなら、囲いの中で待っていればよかったのか。でも、何もせず下着姿でぼーっと待つのもなんだか間抜けな気がするし。
「最初はこちらをどうぞ」
ジェインに促されるまま、最初の1着に袖を通す。
モスリンの柔らかい生地が肌を滑る感触が心地いい。絶対生地からして高級なやつ……と思いながら、金額については考えないことにした。たぶん、おいくらなのかを知ってしまえば、絶対に着られないから。
「肘を動かしてみてください。きついところはございませんか?」
「えぇ、大丈夫。動きやすいわ」
つつがなく試着を済ませていき、4着目でそれは起きた。
「……ジェイン、あのね」
「いえ、見て分かります。少し窮屈なのですね」
「そうなの」
悟ってしまった。店主さんが『部分的に調整が必要』と言っていた理由を。一目でそれに気が付くなんて、貴族御用達の仕立て屋さんの眼力が凄すぎる。
自分では全然気が付いていなかったのだけど、どうも胸の辺りの脂肪が増えていたらしい。やはり食生活の改善によるものか。ライに揉まれたせいではない。あれは迷信だ。
「……すみません」
開口一番、仕立て屋の店主さんの言葉に、私は反射的に謝ってしまった。
「ですが、肌は随分と改善されましたね。こちらといたしましても、おそらくはふくよかにおなりになると予測してはおりましたが……」
(丁寧な言葉だけど、太ると思ってたってことよね? いや、間違ってはいないけど)
村にいた頃より食事事情はかなり改善されたので、全体的に肉がついてしまった自覚はあるので反論はできない。
「部分的に、少し調整が必要そうですわね。……テオ、お嬢様の夜会服を出してちょうだい。ビスはお嬢様の採寸を」
今回は助手が二人いるらしい。前回はいなかったテオという助手はすらりとした長身の男性なので、力仕事担当なのだろうか?
「お嬢様、こちらへ。前回と同じように下着姿になっていただけますか」
「はい」
ワンピースを脱ごうとして、少し躊躇った。そういえば先日……
「お嬢様?」
「あの、仕立て屋さんて、口は堅いですよね?」
「? もちろん、職務上得た情報は洩らさないのがこの仕事を長く勤めるコツですから」
ビスさんのその言葉を信じ、えいや、とワンピースを脱ぐ。
「あぁ……そういうことですね。えぇ、よくある話ですから、お気になさらず」
(よくある話なんだ……!)
私の鎖骨から胸元、お腹のあたりまで、もしかしたら背中の方も、赤い痕がぽつぽつと散っている。言うまでもなく、ライが付けたものだ。行為の最中、何度か痛みがあったので、噛まれているのかと思ったら、吸われてつく痕だったらしい。どうしてそんなことをするのかと尋ねてみると、所有欲だとかなんとか言っていたっけ。
(今までは他人に肌を見せることもなかったから、何とも思わなかったけど……失念してたわ)
まさか採寸のやり直しをするとは思わなかったので、こうして恥ずかしくも晒すことになってしまった。後でライに抗議するべきか、と悩む間に、ビスさんが見事な手際で採寸をしてくれている。
「全体的にふっくらされましたね。以前の状況が少し不健康にも思えましたから、この程度は太っているとは申しませんから大丈夫ですよ」
「あ、はは、ありがとうございます」
先に採寸の結果を店主に伝えるからと戻るビスさんを見送って、私はワンピースを着直す。今着ているのは最初に採寸に来てもらったときに持ってこられた既製品だ。でも、正直、気になる部分もないから、わざわざ仕立てる必要はないと思うのだけど。
「店長、こちらです」
「あら……やっぱり少し調整が必要ね。紳士服の話もあったから、あるいは、と思っていたけれど」
お肉を付けすぎてしまったのか、と落ち込みながら採寸のための囲いを出ると、にっこりと微笑む店主さんが迎えてくれた。
「夜会服は先に少し手直しをいたしますので、普段使いのものを試着していただけますか? 手足を動かしてみて気になるところがあれば遠慮なくお申し付けください。――――ビス、話は通してあるから、採寸に行ってもらえる?」
「はい、わかりました」
いつの間にか部屋に来ていたリュコスさんと一緒に、ビスさんが出ていく。今回はリュコスさんに覗かれるのは避けられた、と胸を撫でおろしていると、ふと、あれこれ荷物の整理をしているもう一人の助手、テオさんが目についた。
(ライを採寸するから男性を連れてきたわけじゃないんだ)
何となく男性は男性が、女性は女性が採寸するものだと思っていたけれど、そうじゃないのか、と首を傾げた。
控えているジェインが持っているのが試着するものだろう。……軽く10着ぐらいあるように見えるのは、気のせいだろうか。そんなに作るとは聞いてない。
「お嬢様、お手伝いいたします」
「あ、うん……」
再び外から見られないように作った囲いの中に戻ると、私は再びワンピースを脱ぐ。こんなことなら、囲いの中で待っていればよかったのか。でも、何もせず下着姿でぼーっと待つのもなんだか間抜けな気がするし。
「最初はこちらをどうぞ」
ジェインに促されるまま、最初の1着に袖を通す。
モスリンの柔らかい生地が肌を滑る感触が心地いい。絶対生地からして高級なやつ……と思いながら、金額については考えないことにした。たぶん、おいくらなのかを知ってしまえば、絶対に着られないから。
「肘を動かしてみてください。きついところはございませんか?」
「えぇ、大丈夫。動きやすいわ」
つつがなく試着を済ませていき、4着目でそれは起きた。
「……ジェイン、あのね」
「いえ、見て分かります。少し窮屈なのですね」
「そうなの」
悟ってしまった。店主さんが『部分的に調整が必要』と言っていた理由を。一目でそれに気が付くなんて、貴族御用達の仕立て屋さんの眼力が凄すぎる。
自分では全然気が付いていなかったのだけど、どうも胸の辺りの脂肪が増えていたらしい。やはり食生活の改善によるものか。ライに揉まれたせいではない。あれは迷信だ。
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