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42.好みと実益を兼ねている?
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「わかった。百歩譲って、部屋の灯りを落として、目隠しをしてくれるなら妥協するわ」
「それだと吸えないだろう」
「私が誘導するから」
「嫌だ」
ただいま、お互いの妥協点を探って攻防中。心臓に近い位置から血を吸いたいと言われて、はいそうですか、なんて二つ返事では受けられない私と、能力増大のためにどうにかしたいライとの攻防だ。
「だってさすがに恥ずかし過ぎて無理だから!」
「せっかくだから見せて欲しい!」
「すがすがしいほど率直にきたけど、えっち!」
「いいだろちょっとぐらい! 減るもんでもないし!」
「減る! 私の精神力がガリガリと削られて減るから!」
お互い何を言っているんだろうと思われるかもしれないけれど、少なくとも私は本気だ。心臓が胸にあることは知ってる。これでもうら若き乙女なので、素肌の胸を見られるとか羞恥の極みなわけですよ。婚約者の立場を受け入れた? それとこれとは話が別。恥ずかし過ぎて無理。
「……分かった。目を瞑ったままで頑張る。これでいいか?」
「信用していないわけじゃないけど、目隠ししてもらっていい?」
「それは信用してないのと同じだろう」
なんか呆れた表情をされたけれど、「せっかくだから見せて欲しい」なんて言った人を信用できないのは当然と思って欲しい。自分の発言を思い返せ。
「ちょっと待って、このリボンなら……」
ウエストを絞るために結ばれていた腰のリボンをほどき、ライの目を隠す。淡い水色のリボンで目元をしっかり隠されたライに、ちょっと倒錯した気分になるけれど、これは必要なことだから、と自分に言い聞かせて平静を取り戻す。
「きつくない? 大丈夫?」
「あぁ、問題ない。手間をかけるが、襟をくつろげて、俺の手をとって場所を教えてもらえるか?」
「……う、うん」
これはこれで要求されていることの難度が高い。でも、血を吸ってもらうと決めたのは私自身だ。ここで怖気づいてどうする、と自分を叱咤する。
ワンピースを着たままではどうにもできなかったので、もそもそと脱いでから、胸当てを少し引き下ろした。ちょっと寒いけれど、ちょっとの間のことだから大丈夫だろう。
「手、貸して?」
「あぁ」
ライの手を自分の胸の中心にそっと触れさせる。ライは私の肌を確認するように撫でると、ゆっくり顔を近づけてきた。
「んっ」
ぺろり、と舐められて思わず声が出る。舐める必要なくない!?と反論しようとしたタイミングで、つぷり、と牙が食い込んだ。
「いっ!」
痛いのは最初だけ。確かにその通りだったけれど、ちくん、レベルではなく、ぶすん、レベルだったのはどういうことか。後で絶対抗議してやる、と思いながら、ライが私の肌に吸い付いているのをじっと見守る。
(あれ……なんか……)
ふわふわと体が温かくなってきた。視界もぼんやりとして、まるで夢の中にいるようだ。
「は……」
「アイリ?」
ちろちろと私の血を舐め啜っていたライが、頭の角度を変えたことで、彼の柔らかな銀髪が肌を撫でた。その微かな刺激だけで、なんだか頭を撫でられているみたいな、くすぐったくてあったかい気持ちになる。
「あー、やっぱりあてられるか」
「ライ……?」
私の目の前にライの顔が来たのが分かる。あれ、いつの間に目隠しを取っちゃったのかな。あれがないと……あれがないと、どうなるんだっけ? まぁいいか、赤い瞳がきらきらして綺麗だし。
なんか考えが上手くまとまらない。ライが私の頬に手を添えてくるのに、まるで猫が甘えるようにすり寄ってしまう。
「ちょ、待て、アイリ……っ」
あれ、なんか変なの、珍しくライが慌ててる。あれ、そもそもライってこんな顔だったっけ? なんか違和感がある。変なの。
「煽るな……っての! あぁ、もう!」
ライのぬくもりが気持ち良くて、ぴったりと寄り添っていただけなのに、何故か布でくるまれてしまった。布? ワンピース? あぁ、もう、これ邪魔。
「だから……っ! アイリ、落ち着けって」
ライにくっついていた方が落ち着くだけなのに、どうしてライはそんなに止めるのかしら。人肌はほっとするものよ? あ、でもライの体温がちょっと低いわ。あっためてあげないと。ん? それとも私の体温が高いの? でも、熱が出たときみたいに苦しくないから、そんなことはないわよね。
「だから、もう、知らないからな! 抑えられるかこんなの!」
ふわり、と体が浮いた気がした。あぁ、ライが抱き上げてくれてるんだ。ふふ、お姫様抱っこね。そういえばお姫様抱っこって、夢だったけど、ちょっと肩とか膝裏とかにライの固い腕が食い込むから痛いのね。でも、胸板が私のすぐ横にあるのはいいわ。心音が聞けるから。
「だから、頬をすり寄せるな! こんなんされて止まるわけないだろ!」
残念、下ろされた。あ、寝台だわ。そうそう、天蓋付きのベッドも、やっぱり夢があふれるわよね。前にも誰かとそんな話を――アデルとしたんだったかしら。
「アイリ、もういいよな? 俺は十分頑張ったよな?」
どうしてそんな泣きそうな顔をしているの? アデルのときだって、そんな顔は見せなかったくせに。
泣き虫には額にキスって相場が決まってるの。いい子だから、機嫌を直してね。
「~~~~~!」
あら、ライの顔が真っ赤になった。子供扱いするなって、怒られるのかしら。
「それだと吸えないだろう」
「私が誘導するから」
「嫌だ」
ただいま、お互いの妥協点を探って攻防中。心臓に近い位置から血を吸いたいと言われて、はいそうですか、なんて二つ返事では受けられない私と、能力増大のためにどうにかしたいライとの攻防だ。
「だってさすがに恥ずかし過ぎて無理だから!」
「せっかくだから見せて欲しい!」
「すがすがしいほど率直にきたけど、えっち!」
「いいだろちょっとぐらい! 減るもんでもないし!」
「減る! 私の精神力がガリガリと削られて減るから!」
お互い何を言っているんだろうと思われるかもしれないけれど、少なくとも私は本気だ。心臓が胸にあることは知ってる。これでもうら若き乙女なので、素肌の胸を見られるとか羞恥の極みなわけですよ。婚約者の立場を受け入れた? それとこれとは話が別。恥ずかし過ぎて無理。
「……分かった。目を瞑ったままで頑張る。これでいいか?」
「信用していないわけじゃないけど、目隠ししてもらっていい?」
「それは信用してないのと同じだろう」
なんか呆れた表情をされたけれど、「せっかくだから見せて欲しい」なんて言った人を信用できないのは当然と思って欲しい。自分の発言を思い返せ。
「ちょっと待って、このリボンなら……」
ウエストを絞るために結ばれていた腰のリボンをほどき、ライの目を隠す。淡い水色のリボンで目元をしっかり隠されたライに、ちょっと倒錯した気分になるけれど、これは必要なことだから、と自分に言い聞かせて平静を取り戻す。
「きつくない? 大丈夫?」
「あぁ、問題ない。手間をかけるが、襟をくつろげて、俺の手をとって場所を教えてもらえるか?」
「……う、うん」
これはこれで要求されていることの難度が高い。でも、血を吸ってもらうと決めたのは私自身だ。ここで怖気づいてどうする、と自分を叱咤する。
ワンピースを着たままではどうにもできなかったので、もそもそと脱いでから、胸当てを少し引き下ろした。ちょっと寒いけれど、ちょっとの間のことだから大丈夫だろう。
「手、貸して?」
「あぁ」
ライの手を自分の胸の中心にそっと触れさせる。ライは私の肌を確認するように撫でると、ゆっくり顔を近づけてきた。
「んっ」
ぺろり、と舐められて思わず声が出る。舐める必要なくない!?と反論しようとしたタイミングで、つぷり、と牙が食い込んだ。
「いっ!」
痛いのは最初だけ。確かにその通りだったけれど、ちくん、レベルではなく、ぶすん、レベルだったのはどういうことか。後で絶対抗議してやる、と思いながら、ライが私の肌に吸い付いているのをじっと見守る。
(あれ……なんか……)
ふわふわと体が温かくなってきた。視界もぼんやりとして、まるで夢の中にいるようだ。
「は……」
「アイリ?」
ちろちろと私の血を舐め啜っていたライが、頭の角度を変えたことで、彼の柔らかな銀髪が肌を撫でた。その微かな刺激だけで、なんだか頭を撫でられているみたいな、くすぐったくてあったかい気持ちになる。
「あー、やっぱりあてられるか」
「ライ……?」
私の目の前にライの顔が来たのが分かる。あれ、いつの間に目隠しを取っちゃったのかな。あれがないと……あれがないと、どうなるんだっけ? まぁいいか、赤い瞳がきらきらして綺麗だし。
なんか考えが上手くまとまらない。ライが私の頬に手を添えてくるのに、まるで猫が甘えるようにすり寄ってしまう。
「ちょ、待て、アイリ……っ」
あれ、なんか変なの、珍しくライが慌ててる。あれ、そもそもライってこんな顔だったっけ? なんか違和感がある。変なの。
「煽るな……っての! あぁ、もう!」
ライのぬくもりが気持ち良くて、ぴったりと寄り添っていただけなのに、何故か布でくるまれてしまった。布? ワンピース? あぁ、もう、これ邪魔。
「だから……っ! アイリ、落ち着けって」
ライにくっついていた方が落ち着くだけなのに、どうしてライはそんなに止めるのかしら。人肌はほっとするものよ? あ、でもライの体温がちょっと低いわ。あっためてあげないと。ん? それとも私の体温が高いの? でも、熱が出たときみたいに苦しくないから、そんなことはないわよね。
「だから、もう、知らないからな! 抑えられるかこんなの!」
ふわり、と体が浮いた気がした。あぁ、ライが抱き上げてくれてるんだ。ふふ、お姫様抱っこね。そういえばお姫様抱っこって、夢だったけど、ちょっと肩とか膝裏とかにライの固い腕が食い込むから痛いのね。でも、胸板が私のすぐ横にあるのはいいわ。心音が聞けるから。
「だから、頬をすり寄せるな! こんなんされて止まるわけないだろ!」
残念、下ろされた。あ、寝台だわ。そうそう、天蓋付きのベッドも、やっぱり夢があふれるわよね。前にも誰かとそんな話を――アデルとしたんだったかしら。
「アイリ、もういいよな? 俺は十分頑張ったよな?」
どうしてそんな泣きそうな顔をしているの? アデルのときだって、そんな顔は見せなかったくせに。
泣き虫には額にキスって相場が決まってるの。いい子だから、機嫌を直してね。
「~~~~~!」
あら、ライの顔が真っ赤になった。子供扱いするなって、怒られるのかしら。
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