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33.材料をかき集めて推理した

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「ライが教えてくれた本、すごく面白かった!」

 もはや日課になってしまった夕食後の庭園散歩での会話は、だいたい私のこの一言から始まる。
 基本的に、ライが教えてくれる本は、私の好みに合っていることが多い。いや、たまに「ちょっと外れたかな?」と思いながら読むときもある。だけど、読み終わる頃には「いつもと違うテイストだけど、これは良かった……!」と本を胸に抱いて感謝して終わるのだ。

「中盤ぐらいだと、親友のことを『何様なのこいつ!』って思ってたけど、最後の手のひらをくるって返したところで、もう全部『そういうことだったのね!』って全部納得いっちゃって、読み終わってから、もう一回、最初から読み直して、親友のセリフの裏を考えて『あぁ、そういう意味なのね』って……、ライ、変な顔してる?」
「いや、そこまで喜んでもらえて、嬉しいな」

 何故か、顔を隠して笑っているライに、私は首を傾げた。確かに本の感想をちょっと熱く語ってしまったけれど、そんなにおかしかっただろうか、と。

「アイリがあまりに変わらないから、だよ」

 にこりと笑うライの顔に、私の心臓がぎゅっとなる。一瞬、その表情が誰かと二重写しになって見えた。

「アイリ……?」
「うぅん、なんでもない」

 一転して心配そうな表情になってしまったライに、私は手をぱたぱたと振った。

「それで、ヒロインの健気さが今回は際立ってすごかった。毒にやられたところを看病するなんて、ある意味定番かもしれないけど、解毒剤を求めてあちこち奔走しているところに敵に目をつけられてからの――――」

 ライが聞き役になってくれるので、私の感想トークは止まらない。けれど、頭の片隅では、さっきの二重写しになった相手のことが引っ掛かっていた。


☆彡 ☆彡 ☆彡


 ばたり、と寝台に倒れ込んだ。ふかふかの寝床にも慣れてしまって、もう元の世界に戻れないなぁ、なんてことを考えながら、ごろり、と仰向けになる。

(すごく、荒唐無稽な話かもしれないけど……)

 ここ数日、頭の中でぐるぐるしていることがある。いや、最初にここに来てからずっとかもしれない。そのモヤモヤしてて不定形でまったく分からなかったものが、朧気ながら見えてきた。
 最初にそう考えるきっかけになったのは、ミーガンさんのセリフだ。

『主の指示であの村に一時滞在していただけだ』

 ライの年齢を考えれば、このセリフはおかしい。でも、ミーガンさんの今の主はライでも、当時の主、と考えればおかしくない。そう思っていた。ただ、そうすると、私を助ける理由がない。
 そして、ちょっと引っ掛かったのは、リュコスさんの言葉だ。

『せっかく邸に呼び寄せたのに手も出さないなんて、あんた何年男やってるんだよって苦言も呈したくなるじゃん』

 軽い愚痴の中に紛れていたけれど、まだ少年のライに対して「何年男やってるんだよ」というセリフは違和感がある。
 ライの年齢をちゃんと確認してないけれど、見た目通り、12歳前後と仮定したら、その年齢で仕事をしているっておかしいと思う。貴族だからそういうものか、と飲み込んでいたけれど、さすがに農家や商家に生まれた子が家業の手伝いをするのとは違う気がした。書類仕事の他にも、人間をバラにする、なんてことまでしているわけだし。

(体の成長が止まってる、という考えは、やっぱり現実的じゃない、よね)

 たとえば小説なら、精霊に魅入られて成長を止められた、女神の祝福で不老になった、そんな話はよく見る。

(私が知らないだけで、病気とかでそういうふうになることもあるかもしれない、けど)

 あれこれ理由をつけてぐるぐると考えるけど、結論はもう定まっていた。
 私の好みの本を把握して、本の感想も嫌な顔一つせずに聞いてくれる。そういう人が、過去に一人だけ、いた。

(本人に確かめるしかないのだけど――――)

 そこに至る理由があまりに非現実的過ぎて、何言ってるの、って一蹴される可能性が高い。いや、そういう考えに至るってどうなの?みたいに軽蔑されたらと思うとつらい。

(そう、つらい、と思ってしまうのよね)

 私は認めなければいけない。ライに対して、まだ少年だから、と気を逸らし続けていたけれど、この気持ちは……

(だって、あの年の子に恋愛感情とか! 犯罪臭いじゃない! そりゃ目が潰れるかと思う程の美少年だけれど! 年齢不相応な色気を出してるけれど!)

 寝台の上でじたばたと足を動かす。両手で顔を押さえているので、顔が熱をもっているのが分かる。

(でも、あんな視線を向けられて! こんなに優しくされて! 落ちないとか無理でしょ!)

 怒涛の勢いで流されて連れて来られて婚約者だなんて言われて、それはもう反発しかなかったけれど、そろそろ諦めなきゃいけない頃合いなんだろう。

(私は、ライのことが、好き――――)

 心の中で言葉にしただけなのに、また恥ずかしくなった私は、寝台の上でごろごろ転がって一人悶えていた。


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