空は青く、想いは遠く

長野 雪

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10.夢の中の想い人

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「なんか、今日は元気ないのな。大丈夫か?」
「え?」

 なんてことだろう。今日はなんていい日なんだろう! 七ツ役くんが私のことを心配してくれるなんて!

「な、なんでもないんだよ。大丈夫!」

 どうしよう。いつも以上に七ツ役くんの顔がキラキラ輝いて見える! やばいね! 目が潰れそうだね!

「今日は丹田もなんか変だったんだよ」
「うぇぇ!? に、丹田くん?」
「どうしたんだよ。なんか変な顔になってる」
「いや、えぇと、なんでもない。ほ、ほら、丹田くんっていつも明るいから、そんなことあるんだなって」
「まぁ、あいつも人並みに悩みぐらいはあるだろ」
「そ、そうだよね。私ったら」

 危ない危ない。梓ちゃんにも言われてるけど、私って隠し事ができない性格みたいだから、気をつけないと。
 あ、でも、これってチャンスじゃない?
 丹田くんに焚き付けられたからじゃないけど、他に誰もいないし、告白のチャンスだったりしない?

「あ、あの、七ツ役くんって」
「ん?」
「す、好きな人とかいるのかなぁ、なんて」

 やばい、声が裏返った! 緊張で喉が震えすぎるのがいけないんだ!

「なんで?」
「え」
「なんで、そんなこと聞くわけ?」
「あ……、それは」

 どうする、言っちゃう? 言っちゃうの?

「わ、私、ずっと七ツ役くんが好きだったから」
「それって、過去形?」
「ち、違っ、好きなの。七ツ役くんのことが」

 やばい、顔が熱い。怖くて七ツ役くんの顔が見られないよ。もったいない!

「そうなんだ。嬉しいな」
「七ツ役くん……」

 恐る恐る顔を窺ってみると、そこには満面の笑みを浮かべた七ツ役君が!

「別役さん。……それとも、下の名前で呼んだ方がいい?」
「私も、下の名前で呼んだ方がいいかな。やっぱり、自分の名前、嫌い?」
「別役さんなら。うぅん、柚香ならいいよ」
「ホントに? 嬉しい……」

――――という夢を見た。
 どうしよう。妄想爆発して、自分に都合のいい展開過ぎて泣けてきた。絶対に昨日の丹田くんとの遣り取りのせいだ。
 こうも心が掻き乱されると、困る。非情に困る。
 何が困るって、丹田くんが七ツ役くんと仲が良いせいで、妙に視界に入るのが困る。どうにかしないと。

「とか言いながら、ちゃんとチェックしてるあたりがユズだよね」
「ひどい、梓ちゃん。私をなんだと思ってるの?」
「ストーカー一歩手前」
「ひぃどぉいぃぃぃ~」

 泣きまねをして机に突っ伏すと、梓ちゃんが頭を撫ででくれた。なんだか心がほかほかする。いや、私の気分を落としたのは梓ちゃんなんだけどさ。

「丹田の言い分も一理あると思うけどね」
「無理だよ無茶だよ無謀だよ!」
「韻を踏んでまで否定しなくたっていいじゃない」

 私は机に伏したままで手鏡を取り出すと、梓ちゃんのよしよしで乱れた髪の毛を整えつつ後ろの方の七ツ役くんを盗み見た。うん、今日も元気そうで何よりだ。

「なんていうか、プロよね」
「ん?」
「ユズ、今さりげなくチェックしてたでしょ」
「チェックっていうか、確認、かなぁ?」

 私の訂正に、何故か梓ちゃんが深いため息をついた。もう何も言わないわ、と肩を竦めると、一つにまとめていた私の髪をするりとほどいた。

「ユズはそのまま鏡見てていいよ。直してあげる」
「ありがとう」

 もちろん、鏡で見るのは自分の頭じゃなくて七ツ役くんだ。今日も、男子数名で固まって何やら楽しそうに喋ってる。うん、昨日のサッカーの試合の話だね。日本代表が勝ったから、どの選手のプレイが良かっただのと話してるみたい。あぁ、羨ましいな。あんな風に教室で私もおしゃべりしたい。

「ユズ、こんな感じでどう?」
「ん? おぉぉ! 梓ちゃんすごい! 器用!」

 両サイドの髪をツイストして頭の後ろでハーフアップした髪と合流させてうまくまとめている。こんなの私じゃできないし、そもそもどうやればこんな髪型にできるのかもよく分からない。ただただ器用の二文字に尽きるよ! さすが梓ちゃん。

「ユズの髪は柔らかいからやりやすいの。あたしの髪じゃ無理ね」
「でも、梓ちゃんのストレート好きだよ」
「ありがと」

 私は髪が柔らか過ぎるのが悩みなんだけど、梓ちゃんみたいにクセがつかなさ過ぎるのも悩みらしい。私からしたら羨ましい悩みなんだけど、ないものねだりってやつなのかな。

「今日は数学2コマあるでしょ。あれのことは忘れて集中するのね」
「そうだった! 今日は辛い木曜日!」

 どうして数学がⅠⅡⅢとABCに分かれてるんだろう。そうじゃなかったら、数学が2コマもある曜日なんてなかったと思うんだよね。高校って不思議。
 私は今度こそ机の上に突っ伏したのだった。

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